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【ショートショート】『ラウウラストリート・ジンジャークッキーイブ』

L.A.のサンセットストリップで僕らは恋に落ちた。バイトで食い繋ぐのがやっとなくせにライブハウス通いはやめなかった。70年代が終わろうとしていた。

大きな声では言えないが「そろそろヤバい」っていつも駐車場脇の日陰のベンチにいるヒッピーもどきが教えてくれた。

「ずらかるぞ。そろそろ」
「ばれたらヤバいのはわかってるわよ」

問題は日本までの旅費だった。

「ハワイに昔世話になったネエさんがいるんだ」とケイ。
「そいつは助かるな」

見た目によらず顔が広い子で、世界中に知り合いがいるらしい。

ワイキキの喧騒を避けてラウウラストリートの公園にたどり着いた。一本裏に入っただけで少しだけのんびりできる。

「そういやもうクリスマスなんだね」
「あったかいからそんな気分じゃないね」

「バンドやりたいよね」
「ああ」

角のドラックストアでいつものドリトスとバドワイザーをワンパック買う。彼女も何やら菓子類を物色している様子だ。

ネエさんは普通の家族のように接しくれた。余計な気を使わなくて済むのは、引っ込み思案の僕にとって何より嬉しい。見かけによらないのはケイと一緒だ。

日本の空港で待っているという知り合いに荷物を届けるだけでいいからと飛行機代もネエさんが出してくれた。もちろん、その意味がわからない僕らではない。

運を天に任せるのだ。たぶん上手くいく。バレンタインデーのあの日。ケイと出会ったミラクルで運が尽きていなければ。

羽田空港の入国ゲート前でケイは足を止めた。人型のクッキーが何枚か入った包みを開けると僕に一枚差し出した。

「こんなのしかないけど。メリークリスマス」

ちょっとピリッとするクッキーに、

「楽器の練習がしてえ」

願うはそれだけだった。
 
 


(710文字)

* * *

以上、こちらからお題をいただきました。

また、文字数オーバーしてしまいました。すみません。
 

 

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