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開けられなかったタイムカプセル

 あなたは、タイムカプセルを開けたことがあるだろうか。ぼくはない。
 開ける開けないの前に、埋めたことがあるかどうかがまず怪しいのだけれど、小学校の頃に1度くらいはやっていてもおかしくはない。やったはずだ。やったに違いない。
 じゃあ、どこかで開ける機会を逃したのだろうか。10年かけて行われるイベントだとして、開ける日に都合が悪いことは充分考えられる。予備日くらいはあってもいいのではないか。でも、きっと、埋める際には割と開けるときのことはないがしろにしているものなのだ。なんなら、掘り出さないことすら想定内なのかもしれない。めちゃくちゃだ。
 一体何を入れたのか、手紙だったらどんなことを書いていたのか、確かめる術は永遠に失ってしまった。

 日本に、世界に、掘り出されないままになったタイムカプセルは結構あるのではないか。
 思い出や少年少女の夢は、長い時間をかけて土に還っていくのだ。

 ガスや石油のエネルギー資源が枯渇したら、いつか思い出がエネルギーになって、掘り出されて、地球を回す。

「パパ、このストーブはなんであったかいの?」
「それは、電気を遠赤外線というものに変えているんだよ。そうすると、熱を発するんだ」
「よくわからないよ。じゃあ、あの車はなんで走るの?」
「あれはね、大昔の子供たちの夢を動力にしている」
「子供たちの、夢?」
「うん。まだお前には難しいかな」
「ぼくの夢は、サッカー選手だけど、これで車は走るのかな」
「そうだなあ」お父さんは、ミチルくんをひょいと肩車して言いました。「誰にも聞かれることのなかった夢が、今新しいエネルギーになっているのさ。パパがお前の夢は聞いたから、きっとお前の夢では車は走らない」
「ええ、残念だなあ」
「お前の夢は、お前を走らせるのさ」

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吉沢ハル
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