地下水の過利用と枯渇の可能性
熊本は、市民の水道水の100%を地下水でまかなっている日本一の地下水都市である。
阿蘇山の大火砕流噴火で隙間の多い地層が形成され、水が浸透しやすいため熊本地域に降った雨は地下水になりやすく、地下に豊富で良質な水が蓄えられる。加えて、水田や畑が豊富に水を涵養し、ますます地下水が蓄えられてきた。
しかし、近年、都市化の進展や政府の減反政策、第一次産業の低迷で、地下水を蓄える機能を持つ「涵養域」が減少しており、地下水の量は年々減少している。
そこに追い打ちを掛けるように、膨大な水資源を必要とし、台湾を水不足に陥れた半導体工場がこの地に来た。
TSMC熊本工場は70%の水をリサイクルするとしているが、それでも一日1.2万トンの地下水を汲み上げ、年間約438万トンの地下水が使われることになるという。
2023年1月12日放送のKKT(熊本県民テレビ)の番組の中で熊本県の蒲島知事は、養通じて地下水を戻す計画であるが、「将来的にもっと水の需要が増大した時に、地下水が足りなくなる可能性もある」と言及した。
TSMCは、熊本県菊陽町周辺に、初期に誘致された第一工場とは別に、同等規模以上の工場の新規建設の話を進めているが、当該工場が稼働した場合には、倍の年間約876万トンを超える地下水を必要とすることになる。
さらに、台湾でTSMC工場の拡張が中止となり、その工場を熊本県内で拡張する方向に進んでいるようだが、そうなれば地下水の使用量は876万トンの更に倍となっていく。
『新新聞』によると、現在、台湾におけるTSMCの水の消費量は一日19万トン、年間で6935万トンだ。そして台湾の環境影響評価報告書によると、工場の拡張計画によって水の消費量は倍増し、一日最大42万トン、年間1.5億トンになるようだ。
つまり、拡張計画によって、一日あたり23万トン、年間8395万トン増加する計算だ。
もし、台湾で拡張される予定であった規模の工場が熊本に建設の場を移した場合、JASMと拡張計画の水の使用量を足し合わせて、最低でも一日24.2万トン、年間8833万トンの地下水を汲み上げることになる。
この地下水の利用規模を考えると、蒲島知事の「将来的にもっと水の需要が進んだ時に、地下水が足りなくなる可能性もある」、「トイレに使う水くらいダムの水で」という言葉の真意が見えてくる。
トイレの水だけというように用途別に水道管を分けることは不可能であるため、台湾のように政府が企業に地下水を優先的に提供した場合、県民はトイレに限らず生活用水をダムの水で補う日が来るだろう。
また、地下水が不足すれば湧水も不足し、農業で灌漑に利用される水も不足することが考えられる。
事実、2020年に台湾で干ばつが起きた際、台湾政府は半導体企業に水の供給を優先し、その結果、農業用の灌漑水が枯渇し、農家に大打撃を与えた。