<旅バイク:素人ユーザーによる1200と1250の比較インプレッション>BMW R1250GS Adventure (2019年式)とR1200GS Adventure(2014年式):水冷エンジンR1200とR1250の比較
1.はじめに
BMWの旅バイクであるGSアドベンチャーに魅了された素人ユーザーとして、2021年2月現在、私はR1200GS Adventure(2014年式)とR1250GS Adventure(2019年式)をそれぞれ1万キロずつ走行した。水冷エンジンを搭載した年式の異なる2台のGS Adventureを所有し、主にツーリングで乗った経験を基にした本稿は、素人目線による比較インプレッションである。
2019年に排気量従来比50cc増と可変バルブ機構採用という新型エンジンを搭載したR1250GS Adventureのデビュー時、バイク雑誌やネット上で、ジャーナリストによる試乗インプレッション記事をいくつか目にした。従来モデルである水冷式R1200GS Adventureのオーナーとして、私は、モデルチェンジ後のGS Adventureがどのように変化したのか気になった。
それらの記事では、新しいR1250GS Adventureは従来の水冷式モデルよりも低速トルクが太くなり、発進時の動き出しがスムーズになるなど、エンジンがさらなる進化を遂げている点が強調されていた。従来モデルを所有している私は、最新モデルに追い抜かれたことに内心悔しさを感じたことは否めない。
その後、私は事の成り行きで、R1250GS Adventure(2019年式)を所有することになった。そしてこの車両を1万キロ走行する中で、2014年式と2019年式の二つのGS Adventureを無意識のうちに比較するようになった。
過去の自分がそうであったように、GS Adventureに既に乗っている、あるいはこれから乗ろうとするライダーにとって、R1200GS AdventureとR1250GS Adventureはどこがどう違うのか、気になるところであろう。
本稿は、2014年式と2019年式という限られた年式モデルの比較である上に、車両の個体差による要素もあり、私の経験に基づく印象を一般化するには無理があることは承知している。しかしながら、あえて筆を執るのは、バイク業界に利害関係のない立場にある私が、ユーザーとして感じた率直な印象を本稿に記すことで、GS Adventureというバイクに関心を持つ方々の参考になればという思いからである。既存メディアの記事では触れられていない点も含め、ユーザー目線からの率直な所感を以下に綴ってみたい。
2.相違点
(1)エンジンのフィーリング
2014年式と2019年式は、車体のカラーリングが異なる以外に、外観上の大きな違いはない。サイズ感、重量感もほとんど同じといってよかろう。一番の相違点として印象を受けたのは、バイク関連メディアの試乗インプレッション記事でも的確に指摘されているとおり、エンジンのフィーリングである。2014年式に比べると、2019年式は特に発進時の動き出しがスムーズであり、停車時のローギア発進から巡航速度域までの加速の際に、GS Adventureの重い車重を殆ど感じさせない。スーッと滑らかかつ軽やかに進んでいく。低回転域から高回転域までどの回転域でも万遍なく加速していくエンジン特性は2014年式にも当てはまるが、それがさらに磨き上げられたように感じる。また、2019年式は、2014年式と比べてより厳しい排ガス規制をクリアするなど、環境対応の面でも工業製品として確実に進歩している。某自動車メーカーのように、最新型が最良と言うことができるだろう。
しかしながら、両方の年式モデルを乗り継いだユーザーとしての率直な感想を言わせてもらえば、工業製品としての優秀さ、イコール、ユーザーにとっての幸せやワクワク感、という等式は必ずしも成り立たないことを指摘したい。確かに2019年式のエンジンはそつがなく優秀で洗練されているがどちらかと言うとマイルドであるのに対し、2014年式のエンジンはパンチが効いていてライディング時のワクワク感という切り口で見ると、2019年式のそれと比べて、勝るとも劣らないというのが私の率直な感想である。一例を挙げれば、緩やかな傾斜のあるワインディングコーナー出口で、高めのギアのままアクセルをグイっとひねった時などに、2014年式のエンジンは、ゴリラが胸をたたくドラミングのような、ドコドコドコッ!という鼓動(音、振動、加速感)を感じさせてくれることがある。エンジン回転数や道路の状況によって時折面白い表情を垣間見せてくれるこのような特徴は、2019年式のエンジンが工業製品として進化し洗練される過程で、やむを得ず失った側面ではないかとも思える。
(2)メーター
相違点について、もう一つ紹介したい。メーターである。2014年式はアナログ式の速度計、タコメーターであるのに対し、2019年式はカラー液晶パネル上に速度(デジタル式の文字数字)と回転数(帯グラフのようなもの)が表示される。このあたりは、個人の好き嫌いが分かれるところであるが、両方を使用してみた上での私の個人的な好みとしては、2014年式のアナログ式に軍配が上がる。
また、2019年式の液晶パネルでは、様々な機能を操作することが可能であり、納車時にディーラーから説明を受けたが、表示の階層や機能が多すぎて、自分が思った機能を見つけてその操作たどり着くまでに何度もボタンを押して探さなければならず、正直言って私には使いこなせていない。2014年式のアナログ式パネルで採用されているシンプルな表示階層と機能の方が、面倒なボタン操作が少なく、必要十分な情報がダイレクトかつ直感的に伝わってくるので、私には便利に感じる。
さらに、2019年式では、ツーリング中に左ハンドルのジョグダイヤルを回してナビゲーション地図の縮尺を変更しようとした時に、意図に反して(ナビゲーションの操作ではなく)液晶モニターの操作になっていることがある。言い換えると、ジョグダイヤルを動かす前には、自分がこれから行うダイヤル操作が、ナビの操作なのか、液晶パネルの操作なのかを、ボタンを押して機械に予め指示する必要がある。この点、2019年式は2014年式に比べて手間が一つ多くかかり使いづらい。この一手間があるのとないのとではツーリング時の快適性に大きな差がつくと個人的には感じている。
(3)その他機能
私の所有している2014年型には備わっていないが、2019年型には標準装備されている主な機能として、シフトアシスト、坂道発進のヒルスタートコントロール、タイヤに内蔵されている空気圧測定センサー、キーレスライド(リモートコントロールキー)が挙げられる。これらについても、個人の好き嫌いが分かれるところであるが、両方の年式の車両を使用してみた上での私の感想を述べたい。
① シフトアシスト
私にとっては、シフトアシストを使うよりも、普通に左手でクラッチを切ってシフトチェンジする方が滑らかにギアがつながるので、感覚的に好みである。というのも、シフトアシストではどうしてもギアチェンジの際にカクッ、カクッという振動がトランスミッションからライダーの体に伝わってきて、クラッチを使う場合に比べて滑らかにギアがつながらない感覚を受ける。私はいつも手でクラッチを切ることにしているが、それを負担に感じることはない。
② ヒルスタートコントロール
ヒルスタートコントロールを使う場面も私にはほとんどない。普通に右足リアブレーキと半クラッチで坂道発進することで十分であり、それで不便を感じたことはない。
③ 空気圧センサー
タイヤの空気圧測定センサーについて、納車時にディーラーから受けた説明で、バイクが走り出してからしばらくしないとセンサーが機能しないということを初めて知った。私にとっては、空気圧測定は、ツーリングに出かける前にガレージでバイクが停車している時に行うことができて初めて意味があるものであり、走り出してからでは遅すぎる。
走行開始後に液晶モニターを見て、偶々空気圧が適正値であることが分かったのならば、それは幸運であり、そのままツーリングを続けられるが、走行を開始してから空気圧が足りないことをセンサーで知り、バイクを停めて空気を入れるのでは、ツーリングの出発早々に気持ちが下がってしまう。したがって、私はツーリングに出かける前には必ず手動で空気圧を測定、調整するよう心掛けており、タイヤ内蔵の空気圧センサーを使うのは、ツーリング中に時々チェックする時くらいである。
④ キーレスライド
キーレスライドのメリットは、鍵をポケットに入れたままの状態でメーターの起動、エンジン始動、ハンドルロックといった操作が可能になることであるが、私の場合はバイクに乗り降りするときは、ほぼほぼ毎回パニアケース、トップケースを物理的な鍵で開閉し、ヘルメットやグローブを収納する。そのため、乗り降りする際は必ずと言っていいほどポケットから鍵を取り出している。
キーレスライドが装備されていない2014年式に乗る時の場合、鍵の動線はパニアケースのキーホールからメインスイッチのキーホールに差し込む流れとなる(降りる時はその逆)。他方、キーレスライドが装備されている2019年式の場合、パニアケースのキーホールからポケットにしまう流れとなる(降りる時はその逆)。私にとっては利便性という点ではどちらもそれほど変わらない。敢えて言えば、キーレスライドの場合、1年ちょっと経つとリモコンキーの電池消耗を知らせる警告がモニターに表示され、電池を交換する必要が出てくる。電池交換は自分で簡単にできるのでそれほど手間ではないが、キーレスではない従来型の鍵にはその手間はかからない。
3.両年式間における装備品・消耗部品の移設可能性
装備品については、ナビゲーション、パニアケース、トップケース、ラジエターガード、ハンドルライザーは2014年式から2019年式に移設することが可能であった。私が経験した範囲では、両年式間で移設不可能な装備品はないと認識している。
消耗部品については、オイルフィルター、エアフィルター、リアブレーキパッドは2014年式、2019年式のいずれの車両でも同じものが使える。一方、スパークプラグ、フロントブレーキパッドは2014年式、2019年式で異なる仕様となっており、それぞれの年式に適合するものを使用する必要がある。
4.結び
どちらの年式もそれぞれ持ち味があって素晴らしく、甲乙をつけがたい。各自の好み、置かれた状況に応じて選択することで差支えないであろう。
工業製品としての2019年式は2014年式よりも確実に進化しており、2014年式にはない機能や長所がある。そのことは既に様々なバイク関連メディアが取り上げて発信している。
一方、2014年式にも上述のとおり、2019年式にはない面白さや魅力がある。上記「2.相違点」で、私が2014年式の肩を持つように受け止められる記載が多くなったのは、2014年式の方が偶々私の好みに近いからであろう。
私が本稿を通して発信したかったことは、両方の年式のGS Adventureをそれなりの期間に亘ってそれなりの距離を乗ったユーザーの実感として、2014年式が2019年式に比べて必ずしも劣っているというわけではなく、2014年式のオーナーが負い目を抱く必要はないのではないかという点である。
あくまでも素人ユーザーによる比較インプレッションということで、GS Adventureに関心を持つ方々にとって一つの参考にしていただければ幸いである。最後に、GS Adventureという素晴らしいバイクをこの世に送り出し、世界中のライダーたちに「駆け抜ける喜び」を与えてくれているBMW Motorrad関係各位に敬意と感謝の念を表し、私の比較インプレッションの結語としたい。