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【ロイヤルカスタマー】効果的な計測が導く経営戦略

こんにちは。グロースマーケティング編集部です。
ここまで連載してきた、初心者がわかったように語るグロース入門シリーズをお読みいただきました皆様、ありがとうございます。

引き続き、このnoteではマーケティングに関するアレコレをご紹介していきますね。

長期的な企業経営および持続的な収益成長を実現するにあたって、 グロースマーケティング の視点からは、いかに顧客を末永くつなぎ止められるかが大きなポイントとなります。

そこで今回ご紹介するキーワードは「ロイヤルカスタマー」です。これは、しばしば引き合いに出される購買頻度の高さや売上の大きさといった特徴だけでなく、モノからコトへのストーリーテリングという付加価値の提供によって、顧客経験価値(CX)を通じて企業やその製品に対し、高い親和性を抱いている顧客層を表しています。

以下の記事では、ロイヤルカスタマーの重要性について考察した上で、ロイヤルカスタマーを正確に計測する方法をご紹介します。

ロイヤルカスタマーとは


Loyaltyは英語で「忠誠心」を意味します。つまりロイヤルカスタマーは、特定の企業が提供する商品およびサービスに対する「忠誠心」が高い顧客ということです。

ロイヤルカスタマーの主な特徴は、以下のようなものがあります。

  • 企業あるいはその商品・サービスに対して愛着があり、購買を継続して行う。

  • 価格や利便性等で購買行動を左右されず、あえて他の商品・サービスを検索しない。

  • 商品・サービスの良さを、家族や友人をはじめ周囲の人々に口コミで広げる。

  • 購買後の商品・サービスに関し、改善点等の積極的なフィードバックを行う。

  • 購買プロセスで問題が生じた際、企業側の対応を信頼し、理解しようと努める。

ロイヤルカスタマーに継続して購入してもらうことで長期的な収益が見込めるのは勿論のこと、商品に対するフィードバックを行ってくれるため、企業にとっては、さらなる改善を繰り返して成長を遂げるきっかけを与える、有益な顧客でもあると言えるのです。

パレートの法則によると、上位20%の顧客が売上の8割を構成しています。顧客との継続的な関係を構築し、企業・商品・サービスのファンを作ることが、その20%に該当するロイヤルカスタマー創出につながるのです。

なぜロイヤルカスタマーが大切なのか

では、ロイヤルカスタマーを増やし、そのリテンション(継続)率を高めることが、なぜ企業にとって大きな意味を持つのでしょうか。それは、ロイヤルカスタマーがビジネスをグロースさせることが、行動データ*2 からも明らかになっているからです。

  • ロイヤルカスタマーのコンバージョン(転換)率は60~70%。一方、新規顧客は5~20%。

  • ロイヤルカスタマーのリテンションコストは、新規顧客獲得にかかるコストの1/5。

  • 顧客リテンション率5%向上で、収益は25~95%増加。

  • 新規顧客に比べ、ロイヤルカスタマーの方が50%も多くアップセル・クロスセルに貢献し、31%多く支出を行う。

米国での調査*3 によると、成人の82%が企業に対し何らかのロイヤリティを示しています。その一方で、米国企業の44%が新規顧客獲得に未だ注力しており、ロイヤルカスタマーのリテンションを促進している企業は18%のみです。

それでも米国企業の89%が、顧客のロイヤリティおよびリテンションの要因はCXであると認識しています。

ロイヤルカスタマーと優良顧客との違い

購入頻度が高く、また一度に購入する金額も比較的高い、企業の売り上げに貢献している顧客のことを「優良顧客」と呼びます。これだけを聞けば、ロイヤルカスタマーと同じじゃないの?と思うかもしれませんが、両者には明確な違いがあるのです。一体何なのでしょうか。

それは、企業・製品への愛着心です。

ロイヤルカスタマーは、企業・製品が好きで継続的に利用をしてくれている一方で、優良顧客の場合は「セールで安くなってるから」「他社製品が売り切れてしまっていたから」など、必ずしも愛着がなくとも購買をしている顧客も含まれています。

優良顧客との違いを理解し、どれだけロイヤルカスタマーを増やしていけるかが大きな鍵です。

ロイヤルカスタマーのもたらすメリット

ロイヤルカスタマーの重要性、優良顧客との違いを説明しましたが、では、ロイヤルカスタマーを増やすことで、どのようなメリットがあるのでしょうか?ロイヤルカスタマーがもたらす下記3つのメリットを紹介します。

  • 利益向上、安定化

  • 宣伝効果

  • サービス改善のためのフィードバック

利益の向上、安定化

ロイヤルカスタマーを多く持つことで、利益を安定化させ、さらに向上させることもできます。ロイヤルカスタマーの定義は各企業に、製品によって異なりますが、定期的に製品を購入、使用しているカスタマーと定義するのが一般的です。

そのため、多くのロイヤルカスタマーを持つことで、安定した利益を生むことができるようになるのです。

上記でも述べた様に、新規顧客獲得よりも、ロイヤルカスタマーにかかるコストは少なく、支出も減らすことに繋がります。

宣伝効果

ロイヤルカスタマーは、すでに企業、製品のファンとなってくれているため、自ら宣伝活動を行なってくれる場合があります。

企業がコストを費やすことなく、新規顧客を獲得できるのです。
友人や、知り合いから高評価の製品をおすすめされるのと比較しても、他人の評価の方が何倍も効果があります。

そのため、そこからまたさらにロイヤルカスタマーへと繋がる可能性があるのです。

サービス改善のためのフィードバック

ロイヤルカスタマーを育てることで、サービス改善のためのヒントになるフィードバックをもらえることがあります。

ロイヤルカスタマーは、サービス、製品、企業に愛着を抱いているため、自ら宣伝活動を行ってくれるように、口コミを書いてくれたり、サービスに関するアンケート等、いち顧客として、顧客視点から改善のヒントを進んで提供してくれるでしょう。

ロイヤルカスタマーの正しい計測方法

ロイヤルカスタマーを正確に計測するには、複数の指標を定量的に数値化することが必要です。ここではそのうち代表的な3指標をご紹介します。

1. LTV(ライフタイムバリュー)

LTVはLife Time Valueの頭文字を取った造語で、日本語では「顧客生涯価値」と呼ばれます。一人の顧客が一企業あるいは一ブランドに対して、初めての購入から直近(あるいは最後)の購入までにもたらした利益総額のことです。計測方式は「顧客単価x購入頻度」によってまず「顧客価値」を算出し、そこに「購入継続期間(ライフタイム)」を掛け合わせ、LTVを確定します。
この指標は、サブスクリプション支払システムから取得することができます。

LTVはロイヤリティに比例するので、企業は顧客との関係を築きながらクロスセル・アップセルを行うことが必要です。

米国では、企業の76%*4がLTVを重要な指標であると認識しています。

2. NPS®(ネットプロモータスコア)

企業やその製品・サービスに対する顧客の満足度を企業の業績向上に結び付けるために、正味の推奨者の割合を明確にスコア化し測定する方法です。

「自社の製品・サービスを家族や友人等周囲の人間に勧める可能性」を0〜10の11段階に分け、0〜6を「Detractors(批判者)」、7〜8を「Passives(中立者)」、9〜10を「Promoters(推奨者)」に設定し、顧客を3パターンに分類します。

この集計から算出した「推奨者の割合」から「批判者の割合」を引いた結果が「NPS」です。
NPSの追跡により、抱えている顧客のうちどれだけがロイヤリティを示しているか把握することができます。

3. Churn Rate(チャーンレート)

これは、顧客の購入キャンセルやユーザーのサブスク解除といった「解約率」のことです。ユーザーの解約率を取得するには、特定のタイムラインを設定し、その期間に解約した顧客数を開始時の顧客数で割ることで算出します。

チャーンレートは、解約率の高低によって顧客ロイヤリティの度合いを計測する方法であり、毎月あるいは四半期ごとに数値化すれば、失われた収益との相関性を測ることも可能です。

その他、「CLI(顧客ロイヤリティ指標)」や「Retention rate(リテンション率)」、「Upselling Ratio(アップセル割合)」といった様々な角度からロイヤルカスタマーを計測する方法があります。

目的に応じた複数の指標を採用することで、より細分化されたロイヤルカスタマーの計測を行える点がポイントです。

ロイヤルカスタマー育成のための3ステップ

ロイヤルカスタマーを育成するためには「自社にとってのロイヤルカスタマーを設定」「顧客との接触機会を増やす」「顧客を分析・施策実施を繰り返す」の3ステップを踏むことが大切です。

自社にとってのロイヤルカスタマーを設定

ロイヤルカスタマーを設定するためにはまず、自社にとってロイヤルカスタマーが意味するものを定義することが重要です。

企業、製品によってロイヤルカスタマーの定義は異なります。例えば、毎日製品を使用してくれる人だと定義するか、2週間に1度製品を購入してくれる人と定義をするのかで、その後の施策や行動が変わってくるからです。

設定をする際には、数字を用い具体的に表すことで、施策も具体的に考えることができ、より効果的なものにすることができます。

顧客との接触機会を増やす

自社にとってのロイヤルカスタマーを設定した後で、次に行うことが顧客との接触回数を増やすことです。顧客との接点を増やすことで、親近感、信頼感を生み出し、企業、製品をより身近に感じてもらうことができます。

しかし、ここで気をつけたいことが、無意味に接点を増やしすぎないということです。あくまでも接点を増やすのは、顧客体験を満足させるためであって、過剰の接触はうざがられ反対に製品から離れるきっかけを作ってしまいます。

多くの顧客接点を作ることは大切ですが、一回一回の顧客接点を顧客にとってより満足のできるものを作るよう心がけましょう。

顧客を分析・施策実施を繰り返す

顧客との接触を増やす際、顧客の趣味嗜好に適したコンテンツ提供を適切なタイミングで行う必要がありますが、施策の効果を分析して、また次の施策に活かすサイクルが大切です。

顧客が様々な情報に触れるとともにニーズも変化します。そのため、分析・施策を繰り返し行い、常に顧客のニーズ、趣味趣向に合わせてアプローチすることが重要です。

顧客が求めるもの

顧客が求めるものを把握することで、商品やサービスに活かすことができます。

新型コロナ新型コロナウイルスが発生して以来、消費者の行動は急速にオンラインに移行しました。その結果、2020年はオンライン決済が前年比で41%増加。オンライン上でのリピート購入を促し、収益を上げるためにも顧客エンゲージメントが重要です。

そこで米国カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置く、カスタマーエンゲージメントプラットフォームmoengageを提供するMoEngage社が行った6つの項目における「顧客が求めるもの」に関する調査結果を紹介します。参考にしてロイヤル化を目指してみてください。

Q1. 買い物客が喜ぶこととは?
商品の品質の良さ

Q2. 消費者を最も苛立たせているものは?
関連性のない商品のレコメンドとチャネル間での一貫性のないメッセージ

Q3. 受け取りたいメッセージの内容は?
特別オファーやクーポンの案内

Q4. どのチャネルでブランドとコミュニケーションを取りたいか
メール

Q5. ブランドからのメッセージをどれくらいの頻度で受け取りたいか
週に一度

Q6. ブランドからパーソナライズ化されたコミュニケーションについて、買い物客が期待していること
購入履歴

今回は、各項目の1位しか紹介していませんが、こちらの記事で詳しく触れていますので、興味のある方はぜひ参考にしてみてください。

ロイヤルカスタマーを育てるためのマーケティング手法

ロイヤルカスタマーを育てるために効果的なマーケティング手法を3つ紹介します。

CRM

CRMとは、「Customer Relationshsip Management(カスタマーリレーションシップマネジメント)」の頭文字を取ったもので、日本語では顧客関係管理と訳されています。顧客データを用いた、顧客との関係性を管理するマネジメント手法のことで、企業側の視点ではなく、顧客の目線で考えたサービスの提供が可能です。

ロイヤルカスタマーを育てるためには顧客を中心として、データ分析の結果を基にそれぞれの顧客に合わせてアプローチをすることが重要ですが、CRMでは顧客のデータを一括で管理しているため、より詳しく顧客を分析することができます。

CRMとは?意味・メリット・成功に導く3つのポイント

CEM

CEMとは、「Customer Exeperimence Management(カスタマーエクスペリエンスマネジメント)」の略称で、顧客との接触機会を通じて、顧客の予想を超える体験を提供しようというものです。類似商品がありふれた現代においては特に付加価値をつけることが大切で、心に残るような体験を通して感情に訴えることがポイントとなります。

自分自身で考えてみても、想定範囲内のサービスではなかなかリピートをしようとは思わないでしょう。クオリティの高い様々な商品のおかげで想定範囲では満足できなくなってしまっているのです。いかにして顧客の感情に訴えるかを、顧客の立場になって考えてみることでヒントが見えてくるでしょう。

MA

MAとは「Marketing Automation(マーケティングオートメーション)」の略で、顧客一人一人に適したアプローチを自動化することができます。特に上記で紹介したCRMとの相性が抜群で、連携することによってCRMで管理されている顧客データの分析結果をもとにして、一人一人に最適なアプローチを自動で行えるようになるのです。より精度の高い方法で顧客に接触することで、より高い訴求率を目指せるでしょう。

マーケティングオートメーション(MA)ツールとは?機能・効果・成功に導くためのポイント

ロイヤルカスタマーへの施策における成功事例

では、実際にロイヤルカスタマーに施策を行った企業の成功事例を見ていきましょう。

株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン

日本最大級のゴルフポータルサイトである株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下GDO)は、ツールを導入して顧客とのコミュニケーションを自動化することで、PoC(Proof of Concept:概念実証)にいて、購買促進効果を180%改善させることに成功しました。

同社のコミュニケーション施策変遷は大きく3つに分かれています。

・創業〜2012年:一斉送信
メールのオプトインをとっていた会員全員に対して、均一のメールを配信
・2013年〜2020年:メール配信シナリオ自動化
会員登録直後から1ヶ月にかけてGDOのサービスを紹介するウェルカムメールから、顧客行動や属性、ロイヤリティに応じて配信するメールシナリオの自動化
・2021年〜
メールでしか実装できていなかったコミュニケーションシナリオを、集客のオウンド化やサービスの利用定着に有効なアプリチャネルへ展開を開始

現在では下記を含む約100のシナリオがあり、それぞれの顧客に適したチャネルで、適したコンテンツを適切なタイミングで提供できるようになりました。

  • ゴルフ場を予約いただいた会員に対し、プレー前日にラウンド準備をサポートするメール:プレーするゴルフ場の案内と、同社で提供するスコア管理アプリの紹介

  • ゴルフショップの新商品を案内するメール:過去の購買履歴をもとに顧客ごとに興味ある商品を推定し、その商品群に該当する新商品が入荷した時点で該当顧客にメール配信

  • ゴルフショップのクーポン有効期限リマインド:メールでしかできなかったリマインドが、アプリでもプッシュ可能に

NIKE

製品を使用した顧客のフィードバックは、企業にとっても改善に役立つ重要な情報です。そこでNIKEは、Twitter上のカスタマーサポートとフィードバックのハンドルを別々に作成し、リアルタイムで捌けるようにしました。するとレスポンスが速くなって顧客のストレスが減少しました。

Twitterという誰もが簡単にアクセス可能なツールを採用したことが、最大の利点となったのです。

The North Face

アウトドア用品のザ・ノース・フェイスは、ロイヤルカスタマーのライフスタイルに合わせた、柔軟性のある特典プログラム「VIPeakプログラム」を備えています。VIPeakプログラムでは、製品購入時だけでなく、自社イベントへの参加や自社アプリのダウンロード等でもポイント獲得が可能です。さらにそのポイントは、ネパールでの登山などといったユニークな旅に利用することができます。

まさに、ロイヤルカスタマーの心をしっかり掴み、自社ブランドとの間に強固な絆を築き上げているのです。

Apple

究極のイノベーティブなロイヤリティプログラムとは、そのプログラム自体が一切存在しないこと・・・Appleに限っては。ポイントやインセンティブを提供することなく、Appleは常に顧客を魅了し続けています。新規顧客が製品を購入すれば、そこに素晴らしい顧客体験が生み出され、買い替えるたびに新たな感動を得られるのです。

Appleこそが、ロイヤルカスタマーへの施策において本当の意味での成功事例と言えるでしょう。

しかしながら、Appleの事例は非常にまれであり、通常はロイヤルカスタマーを正確に把握した上で、その先の戦略を立てることになります。


出典元
NIKE:
The WordStream Blog「4 Loyalty Marketing Strategies to Keep Your Customers Happier, Longer」
https://www.wordstream.com/blog/ws/2019/07/18/loyalty-marketing


The North Face、Apple:
Shopify Blog「Keep Them Coming Back: 7 Innovative Customer Loyalty Programs (And How to Start Yours)」
https://www.shopify.com/blog/loyalty-program

まとめ

顧客のロイヤリティを向上し、ロイヤルカスタマーを維持し続けるためには、自社の製品・サービスにおけるロイヤルカスタマーを正確かつ詳細に計測することから始める必要があります。

グロースマーケティングを効率よく遂行するために、ロイヤルカスタマーの行動を深く理解し、次のロイヤルカスタマーを育成する施策へつなげる戦略を練ってみませんか。



*1:グロースマーケティング:企業・事業・製品・サービスの持続的成長にフォーカスしたマーケティング活動の総称。行動理解、高速に施策を繰り返す、的確な目標・指標設計の3つを軸とする。

*2:出典:Market Metrics
出典:The Economics of E-Loyalty – Harvard Business School
出典:SendPulse

*3:出典:SendPulse

*4:出典:SAILTHLU