
【基礎から学ぶ人事制度│報酬制度編①】報酬制度設計の概要
このコラムは、グローセンパートナーの人気セミナー「動画で学ぶ人事制度」の内容をまとめたものです。人事制度から人材育成・教育に関する全体像を理解し、人事制度設計で押さえるべきポイントを説明します。
動画で学ぶ人事制度とは
動画とテキストに沿って演習や事後課題を進めることで、人事ポリシーの設計、等級・評価・報酬制度の概要設計、教育体系などの概要設計ができるようになっています。より詳しく学びたい方は、ぜひテキストをダウンロードして動画をご覧ください。
このコラムでは、一般的に「給与体系」や「賃金制度」などと呼ばれているものを「報酬制度」と呼んでいます。賃金は「時間単価×時間で支給」する、または「賃金テーブルに従って一律に支給」するといった意味合いが強くあります。一方で報酬は、「報いて支給」するといった意味合いが含まれます。弊社では、「社員一人ひとりの役割遂行や会社業績への貢献、日常の働きぶりに報いるために最適な方法を選択して支給する」という考え方のもと「報酬制度」と表現しています。これから6回に分けて、報酬制度設計について解説します。
1.報酬制度設計の概要
2.年収水準の設定方法
3.給与制度の設計
4.賞与制度の設計
5.退職金制度の設計
6.報酬制度設計のまとめ
今回は「1.報酬制度設計の概要」について解説します。
報酬制度の設計コンセプト
まず最初に、報酬制度を設計するうえで基本となるコンセプトについて弊社の考え方をお伝えします。会社ごとに報酬制度の設計コンセプトは異なりますが、弊社では以下の方針を基本としています。
人事部門としては、昇格管理≒適材適所≒人件費の管理をしっかり行う
評価決定に関するマネジメントコストを可能な限り削減すること
評価には評価者ごとのばらつきが生じるのは避けられません。そのため、評価を直接報酬に結びつけると、不平不満が生じるリスクが高くなります。こうした課題を踏まえ、以下のような制度をおすすめしています。
給与は固定費とするが、賞与は変動費として扱う
給与は投資の意味合いが強く、賞与は成果に報いるものと考えています。年収を決める一番のファクターを等級(=役割変更)とする
役割を区分するのが等級とし、等級が上がれば年収が上がるという設計をおすすめしています。昇給額は、評価にあまり影響を受けない仕組みとする
毎年の昇給評価に関してはコントロールせず、昇格をコントロールするようにしていけば、人事部の負担を軽減できます。賞与額は、評価や成果により大きな差が出ても良い
これはビジネスモデルによって異なります。たとえば、営業会社では賞与額は個人の評価で左右されることが多く、工場や製造業ではチーム全体の成果によって変動するケースもあるでしょう。チームの成果を特定しにくい場合には、全体の業績と連動させるという方法も有効です。業界によっては、全社評価や部門評価を賞与に反映させる方法が適している場合もあります。ビジネスモデルや組織の特性に応じた適切な仕組みづくりが重要です。報酬決定のルールはシンプルにし、社員に公開する
基本給・役職手当・賞与に関して、何をすれば報酬が上がるのかを整理しましょう。例えば長く勤続したり、評価がよいと基本給が上がり、役職が上がると役職手当が上がったりします。賞与はルール(何をすると・どういう行動を取ると・どう役割を変えると報酬水準が上がるのか)を明確にすると、分かりやすい設計になります。
報酬制度設計で最初に考慮すべきこと
ペイポリシーを作る:何のために報酬を支払うのか?
具体的な設計に入る前に、何のために報酬を支払うのか「ペイポリシー」を整理することが重要です。ペイポリシーとは、報酬をどのように配分するのかという基本的な設計のことです。詳しくは、下記コラムを参照ください。
人件費コントロール:会社と社員の成長のために
ペイポリシーを決めた後は、人件費コントロールをどのように行うかを考えていきます。人件費コントロールというと、人件費抑制を連想し、とかく悪い印象があります。しかし、会社と社員の成長を考えたとき、必ず組み込むべき機能です。人件費コントロールには次の3つの目的があります。
会社と社員が一体となって戦略を実行し、利益を上げる重要性に目を向けさせる
会社と社員が成長すれば、それに見合った報酬水準にしていく
意図せぬ人件費の膨張により経営を圧迫させない
人件費コントロールの方法
ここでは、人件費コントロールの方法について解説します。重要なのは、中期経営計画と人件費をうまく連動させることです。報酬制度には、将来的に人件費を調整できる仕組みを盛り込む必要があります。そのためには、現在のデータを正確に把握し、将来の見通しに基づいて制度を設計することが大切です。

人件費は、「人数 × 平均年収」で決まります。人数は、採用と退出、社員区分の管理(派遣社員にするか正社員にするかなど)によって決まり、ここでは昇格管理(どの等級にするかなど)も人数の要素に含めています。一方、平均年収は賞与と給与によって決まります。報酬制度設計の範囲としては、昇格管理、業績連動賞与、昇給額管理を含めています。
おすすめの方法は、平均年収を安定した水準で維持しながら、各等級の人数を調整することで人件費を管理する方法です。そのためには、昇格の管理が非常に重要です。成果主義を導入して給与や賞与の変動幅を広げても、昇格を無計画に進めると、人件費が予想以上に膨らむことがあります。これを防ぐためには、「昇格をしっかり管理して人件費をコントロールする」という視点が欠かせません。
また、昇給額の管理も重要です。一度上げた給与を下げることは難しいため、昇給制度は慎重に設計する必要があります。短期的な管理項目として、賞与を業績に連動させる方法は有効ですが、長期的な視点では、「中期的な管理項目」が人件費に大きな影響を及ぼすことを忘れてはいけません。
これらを総合的に考慮し、報酬制度を設計することが大切です。
報酬制度の設計プロセス
では、実際に報酬制度設計の流れをみてみましょう。設計にあたっては、ペイポリシーと報酬制度のコンセプトに基づいて、全体の整合性を取りながら設計を進めることが重要です。大枠から設計して、細かいルールに落とし込んでいくという流れになります。
STEP1:ペイポリシーの決定
「報酬をどのように配分するのかという基本的な設計」を決定します。ペイポリシーについては、下記コラムで詳しく解説しています。
STEP2:等級別年収水準・範囲給の設定
STEP3:総額人件費の検証
STEP4:昇給額の決定
STEP5:給与改定方法の決定
STEP6:手当類の改廃
STEP7:賞与制度の設計
STEP2以降については、次回以降のコラムで詳しく説明していきます。
実現したい生涯報酬イメージ
このコラムで紹介した設計コンセプトを年齢-年収曲線で示すと、下図のようになります。

ここでのポイントは以下です。
昇格管理を重点的に行う
昇格や昇給に差をつけることで、昇格時に年収が上がる仕組みを構築できます。「昇格管理を重点的に行う」ことで、人事部門が細かくコントロールすべき部分を減らせます。例えば、1〜3等級くらいまでは自動的に昇給や昇格を進めても問題ありません。一方、管理職クラスでは、役職(ポスト)に応じて昇給や昇格が管理されます。この場合、特に重要になるのは、管理職直前のポジションに誰を配置するか、そして誰を管理職に昇格させるかをしっかりと見極めることです。これを適切にコントロールすれば、全体の人件費に大きな影響を与えずに管理できます。多くの社員が定年を迎える年収の設定
多くの社員が定年を迎える等級の年収を設定します。例えば、図における「4等級600万円」という水準は、「生活保証のために会社として支給する覚悟がある」という意志の設計となっています。少額でも昇給し続ける仕組み
考慮して欲しいのは「少額でも昇給し続ける仕組み」です。成果主義導入時に、「評価次第で給与が下がる」「B評価なら給与は変わらない」といった設計をしましたが、意外と社員のモチベーションは上がらず、むしろ下がる傾向にありました。千円、二千円でも良いので給与が上がり続ける仕組みを設計することをおすすめします。
評価結果と報酬の連動
評価結果(多くは業績系・行動系の2種類)を、昇給・賞与・昇格(降格)にどう結びつけるかを設計します。

能力/行動評価が昇給に、業績評価が賞与に直結するのは分かりやすいでしょう。昇給は個人の役割に対する投資で、賞与は出した結果に報いるという形がシンプルで多く見られます。最近では、昇給と賞与へ反映する評価を総合評価という1つの同じ評価を用いる形も見られます。
若干取り扱いが違うのが昇格(降格)の評価です。評価結果だけでは見えないもの(例えば将来評価のようなもの)があるので、その辺りは役員判断という表現をしたり、レポート提出や面接をしたり、総合的に判断して決めるケースが多いです。
自社の評価結果と報酬の連動方法を、一度整理してみてください。
給与:絶対評価のみで運用すると人件費コントロールが難しい→相対化するのがおすすめです
賞与:絶対評価でも運用可能(人件費コントロール可能)
より詳しく学びたい方へ
より詳しく学びたい方は、動画をご覧ください。テキストと演習用ワークシートは弊社HPからダウンロードできますので、ご利用ください。
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テキスト・演習用ワークシート
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