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【基礎から学ぶ人事制度│報酬制度編②】年収水準の設定方法

このコラムは、グローセンパートナーの人気セミナー「動画で学ぶ人事制度」の内容をまとめたものです。人事制度から人材育成・教育に関する全体像を理解し、人事制度設計で押さえるべきポイントを説明します。

動画で学ぶ人事制度とは
動画とテキストに沿って演習や事後課題を進めることで、人事ポリシーの設計、等級・評価・報酬制度の概要設計、教育体系などの概要設計ができるようになっています。より詳しく学びたい方は、ぜひテキストをダウンロードして動画をご覧ください。

このコラムでは、一般的に「給与体系」や「賃金制度」などと呼ばれているものを「報酬制度」と呼んでいます。賃金は「時間単価×時間で支給」する、または「賃金テーブルに従って一律に支給」するといった意味合いが強くあります。一方で報酬は、「報いて支給」するといった意味合いが含まれます。弊社では、「社員一人ひとりの役割遂行や会社業績への貢献、日常の働きぶりに報いるために最適な方法を選択して支給する」という考え方のもと「報酬制度」と表現しています。6回に分けて、報酬制度設計について解説します。

  1. 報酬制度設計の概要

  2. 年収水準の設定方法

  3. 給与制度の設計

  4. 賞与制度の設計

  5. 退職金制度の設計

  6. 報酬制度設計のまとめ

今回は「2. 年収水準の設定方法」について解説します。


年収曲線を使った年収水準設計

それでは、ここから年収水準の設計について、具体的に解説していきます。年収水準の設計方法の1つとして「年齢-年収曲線」を描くことがお勧めです。

役員・部長・課長クラスの年収を設定する

役員・部長・課長クラスまで昇進した場合と、一般社員クラスまでしか昇進しない場合の「年齢-年収曲線」を描いてみましょう。金額はピーク時のおおよその年収を設定します。

この曲線を用いることで、役員の考え方のすり合わせや、部長・課長クラスに昇進した場合にどれほどの年収を提供したいのかを整理することができます。

一般社員の年収を設定する

また、一般社員クラスについても、職種別に「年齢-年収曲線」を描いてみましょう。いずれも、現状の報酬制度を基にするのではなく、設計したい報酬制度のイメージに基づいて作成することがポイントです。

一般的な職種別の貢献曲線は、下記の図のような曲線になるケースが多いです。

一般的な職種別年齢-貢献曲線

重要なポイントは、貢献が減少する部分をどのように報酬水準に反映させるかです。実際には、報酬水準を下げるのは社員のモチベーションの低下に繋がる可能性等もあり、難易度が高いため、報酬を過度に上げ過ぎない設計が必要になってきます。

人員構成から最適な報酬水準を設定する方法

報酬水準の決定にあたっては以下のような要素があります。今回は最適な報酬水準の設定方法について、自社の人員構成から算出する方法を解説します。
<報酬水準決定の要素>
自社の人員構成
・景気
・地域特性
・業界や業態
・ビジネスモデル
・自社の財務体質
・自社の経営理念
・過去の報酬水準
・競合他社の水準

自社の人員構成をシミュレーションする

最適な報酬水準は、前述したさまざまな要素が複雑に絡み合って決定されます。その中でも、自社の人員構成が報酬水準決定の最大の要因です。まずは、以下のようなグラフを作成することからスタートしてください。

人員構成比シミュレーションイメージ

この図の例では、2020年度の実態に対する10年後の予想をシミュレーションしています。

このようなシミュレーションにより、以下のような疑問に対する予測が可能になります。

  • 「5年後、10年後のボリュームゾーンはどこか?」

  • 「その時、この人員構成で業務は成り立つか?」

  • 「平均年齢が上がっても人件費は大丈夫か?」

特に、定年間近の社員が多いか少ないかによって、今後の昇給率に大きな影響を与えるため、この点を考慮することが重要です。

なぜ人員構成が大切なのか?

人件費をできる限り一定に保ちたいと考えた場合、昇給原資は定年退職者と新規採用者の人件費差の範囲内で賄えることが最適な状態です。このような状態を「人件費が内転している」と言います。

例えば、20歳から65歳までの社員が一人ずついると仮定した場合、65歳の社員と20歳の社員の報酬の差が昇給原資になります。この原資をうまく配分し続けることで、人件費が内転し、一定化するため、効率的な経営が実現できます。

長期人件費シミュレーションの方法

人件費を一定に保ちたい場合には、中長期の人件費シミュレーションが必要です。ここでは、現行社員に退職者や新規採用者を加味し、10年間の昇給シミュレーションを実施して昇給可能額・昇給率を判断する方法を見ていきましょう。

まずは、社員情報と年齢、現行の給与水準を入力してください。その上で、退職時期や嘱託転換のデータを加え、採用希望人数を反映させ中長期のシミュレーションを行うことで、人件費を可視化できます。

<昇給可能額のシミュレーション例>

次に昇給率ごとの推移を見て、どの程度の昇給が経営上耐えうるかを判断します。例えば、昇給率を1%にするか2%にするか、または55歳で昇給をカットするかどうかを検討します。このようなシミュレーションを行うことで、どの昇給率が自社に最適であるかが明確になります。

長期人件費シミュレーション例

さらに、昇給シミュレーションに60歳超雇用延長分を加味し、どの程度の影響があるかも分析できます。これにより、「60歳超の雇用延長で、人件費が○百万円増大する」といった予測値が得られます。

このようにシミュレーションを行うことで人件費の予測や最適な昇給率の判断等が可能です。どれほどの報酬水準を社員に提供できるのか、そのためにどれほどの人件費の負担が発生するのか、自社でもシミュレーションをしてみましょう。

他社や業界の年収水準を知る:報酬統計データ活用のすすめ

適切な報酬水準の設計において、他社や業界のデータを参考にするとよいでしょう。『賃金構造基本統計調査』では、様々なデータが入手できます。この調査は、厚生労働省が実施している報酬に関する調査です。下記のようなデータが閲覧・ダウンロード可能です。

  1. 産業別の年収水準(給与額・賞与額など)

  2. 役職別の年収水準( 〃 )

  3. 職種別の年収水準( 〃 )

  4. 雇用形態別の年収水準( 〃 )

  5. 都道府県別の年収水準( 〃 )

データの母数が多いため信頼度が高く、様々な切り口で情報収集できるので、ぜひ参考にしてください。

一度上げた年収を下げるには?

最後に、一度上げた年収を下げる方法として、いくつか比較しながら解説します。一度上げた年収は下げにくいものです。下記の5つの方法について、実現可能性を比較してみましょう。

  • 降格による給与ダウン:実現可能性△
    等級定義に基づいて降格させることは可能ですが、職能資格制度を導入している場合、保有能力が下がったことを証明できなければ降格は難しくなります。

  • 評価による基本給ダウン:実現可能性〇
    評価によって基本給を下げることは可能です。ただし、評価に基づき給与が減額される制度設計が必要であり、通常、降給幅は大きくないことが多いです。

  • 降職による役職手当ダウン:実現可能性◎
    降職による役職手当の減額は、役割が変わったことを客観的に証明できるため、有効な方法です。

  • 短時間勤務への移行:実現可能性◎
    週5日勤務から週3〜4日勤務に移行することで、労働時間が減少し、その分給与を減らすことができます。

  • 評価による賞与ダウン:実現可能性〇
    評価による賞与の減額も可能です。ただし、基本給などに評価係数を掛けて算出することが多く、それほど大きな減額効果はありません。

こうして実現可能性を比較すると、「役職手当のダウン」と「短時間勤務への移行」が有効な方法であることがわかります。また、年収が下がることを前提とする場合は、職能資格制度よりもジョブ型の等級制度がお勧めです。
ここでお勧めという表現にとどめるのには理由があります。多くの人事部や経営者が「役職から外れたら降給」という制度に抵抗を感じるためです。検討を重ねた結果、最終的には職能資格制度に落ち着くケースがほとんどです。

このように報酬は下げにくいため、昇格管理を慎重に行うことが一番大切です。明確な基準を設け、昇格・昇進を管理しましょう。

より詳しく学びたい方へ

より詳しく学びたい方は、動画をご覧ください。テキストと演習用ワークシートは弊社HPからダウンロードできますので、ご利用ください。

動画

テキスト・演習用ワークシート

下記より無料でダウンロードできます。

参考資料

本コラムで紹介した昇給可能額のシミュレーション表は、以下からダウンロードできます。


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