夏学期
夏学期が始まる前に、再度入寮手続きを済ませた。テキサスの合同合宿で使った州立大学は、映画に出てくるような広大なキャンパスを持つ大学だった。広大な敷地を持つ大学は、その地域の特性を反映している。
しかし、ジョージ・ワシントン大学(GWU)は、ワシントンDCの北西部に位置し、キャンパスというものが存在しない。都内のビル群の中にキャンパスが溶け込んでいるような形で、ビルの一つ一つがGWUそのものである。
学生寮も横に長い建物ではなく、上に高い高層ビルで構成されていた。敷地が限られているため、9階建ての高層ビルが学生寮となっている。寮の入り口を出ればすぐにタワーレコードがあり、非常に便利な場所に立地していた。
GWUのストリートにはホットドッグの屋台が並び、1つ1ドルと安価で毎日朝食に食べていた。ホットドッグを朝食にする経験は、アメリカならではのものだった。
寮の同じ階は私たちのグループで占められていた。夏学期は希望者のみが受講するため、寮が満員になることはなく、比較的のびのびと過ごすことができた。
寝具セットはエージェントが用意していたか、自分たちで購入したかは覚えていないが、ベッドにはマットレスが置かれていただけで、シーツや掛け布団、枕は自分で用意する必要があった。
夏学期の初日、全員が一つの教室に集まり、「クラス分けテスト」が行われた。GWUでは中級と上級の2コースが用意されており、浪人組も数人いたが、その多くは上級コースに進むと予想されていた。テストの内容が入試よりも簡単に感じられたからだ。
テスト結果はすぐに発表されたが、浪人組で上級クラスに入ったのは一名だけだった。渡米初の挫折を味わった瞬間だった。
英語が得意で、大学に合格し自信を持っていたが、現実は厳しかった。上級クラスに進んだ友人も、私が上級クラスに来るだろうと思っていたという。
翌日、人生初のESL(英語を第二言語とする人のためのクラス)が始まった。浪人して中級クラスに所属することに失望したが、実際にクラスを受け始めると中級で良かったと感じた。
理由は、会話力の不足である。全く聞き取れず、伝えることもできなかった。上級クラスの学生は少なくとも意思疎通ができていた。この差は大きかった。この一年で意思疎通の能力を追いつけるように集中することに決めた。
このエージェントを通じた留学ではTOEFLが免除されていたが、現地で模擬試験を受けた。TOEFLの試験時間は昼一にスケジュールされており、集中力を保つのが難しかった。TOEFLは受験英語と大差なく、数段落の読解問題に選択肢形式の設問が多かった。
英会話の経験を重ねるほどTOEFLの点数が落ちたのは、試験対策を行わなくなったためだ。
試験は知識を試すだけでなく、時間内に達成するというもう一つのゴールがある。試験時間は3~4時間と長丁場であり、集中力を維持するのは難しい。躓いた設問があれば先に進む方が良い。先に進めば新しい設問で得点を稼ぐチャンスが増える。
試験で人の能力を判断する社会では、TOEFLやTOEICの点数が評価基準となるが、実際のビジネス現場では試験では測れない社会的知性が重要だ。
高得点を持つ者が必ずしもビジネスで成功するとは限らず、逆に試験では評価されなかった人が現場で優れたパフォーマンスを発揮することもある。
ESLの先生は、TOEFLの試験を嫌っていた。
理由は、TOEFLで高得点を取ってもクラスについていけない学生が多いからだ。TOEFLの点数だけが全てではなく、クラスでの学びを基に成功への道を進むことが重要だ。