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米国と日本の働き方のギャップ
帰国後、私が最も苦労したのは、働き方を日本式に変えることだった。
最初に入社したイギリスの外資系企業は、私が入社する2か月前に法人化したばかりのグローバル企業で、社内文化の大部分は外国にいるような感覚で働けたため、まだ楽だった。
しかし、顧客は純日本企業であり、そのやり方に慣れることが大変だった。
次に転職した企業は純日系企業で、この企業に慣れるのには相当な苦労が伴った。
最終的には退職に至ったが、入社して半年も経たないうちにパワハラ体質にメンタルを蝕まれそうになり、転職活動を開始した。
しかし、実際に転職先を見つけるまでには一年以上もかかり、その間パワハラに耐えるのが辛かった。
次の企業では法人営業を担当し、相手は典型的な伝統的日系文化を持つ顧客だったため、その商習慣に慣れるのがまた一苦労だった。
そしてその次に転職したのは、外資系で60年以上の歴史を持つアメリカ企業だったが、アメリカ企業文化と思いきや、実態は日本企業の悪い例をそのまま踏襲したような企業だった。
勤続年数が長い社員が多くいたが、結果としてその社員たちの存在が辞職者を増やす要因となっていた。
アメリカ企業でありながら、パワハラなど行動規範には厳しいはずだが、世界中の社員をアメリカのスタンダードに従って監視する機関が存在しないため、日本だけはハラスメントが野放しの状態だった。
エンゲージメント調査ではグローバル最低の数値を記録していた。
日本企業の最たる例は、エンゲージメント調査結果に基づいて改善アクションを取るとしても、経営層自体がパワハラ体質のため、その改善計画は形だけに終わってしまう。
見かけ上は改善が進んでいるように見えるものの、実際には退職者が後を絶たない。
さらに、新入社員がエンゲージメント調査を受ける際、「良くない」とも「良い」とも判断できない中立的な回答を書かざるを得ないため、結果としてエンゲージメントの充足率が上がり、グローバルの経営層からは「改善が見られる」とお褒めの言葉を受けるが、現場の状況はむしろ悪化している。
これが日本企業の典型的な文化であり、パワハラやブラック企業という感覚は、海外の経営層にとっては肌で感じることができない状況だった。
また、日本企業で簡素化が求められるプロセスの一つが稟議である。外資系にも稟議に似たサインオフというプロセスが存在するが、承認を出すのはそのプロジェクトに関わる直属の上司であり、金額が大きくなれば社長も承認することが多い。
しかし、日系の中小企業では、プロジェクト自体が大きくないにもかかわらず、1円でも承認プロセスが必要であり、稟議にはマーケティング、営業、経理、社長など、多くの人の判子が必要になる。
稟議の際の説明が求められるのは理解できるが、承認後にプロジェクトの内容をほぼ覚えていないケースが多く、直属の上司ですら承認した覚えがないと言う始末だ。
判子を見せても「そんなの知らない」と平気で言うことには呆れるばかりである。
以前、輸入商社で働いていた際、大手メーカーに卸していたメーカーが買収されたことがあった。
親会社は国内でも大企業であり、稼ぎ頭のブランドを譲渡しなければならない危機に直面した。
その際、親会社の日本支社からこれまでの取引に関してプレゼンを求められた。
明らかにブランドの売上は年々落ち込んでいたため、親会社に持っていかれることを覚悟していたが、直属の上司が「数字を改ざんすればいい」と言い始めた。
私は問題になると考え、改ざんを拒否し、何とかチャネルを分けて微増のチャネルが中心に見えるようなプレゼン資料を作成した。
数字の改ざん命令や不正はテレビで見たことがあったが、自分の身近で起こったことにブラック企業の根深さを感じた。
これは日本の企業文化を早急に変えなければならないと強く感じた瞬間だった。