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母のおもちゃにされたマッシュルームカット
黄色いランドセルの悪夢から一転し、翌日からは、馬鹿にされる不安も払しょくされたことから、学校へ行くことも楽しくなってきた。
教室に着くと、案の定
「あれ、リュックはやめちゃったの?」
と、まるで「凄いよかったのに」的な見え透いた嘘を、心無い7歳児が次々に付く姿を見て、人間の汚い部分を見せられたような気がした。
心優しい担任の先生も、
「前の黄色いリュック、やめちゃったの?格好よかったのに」
と気持ちいいくらいの嘘をついてくれた。
ていうか「黄色い」と「リュック」って言ってるし。
いずれにせよ、入学早々の私の悪夢は、エクソシストされたわけだ。
それだけで、とりあえずは十分だった。
さて、悪夢がどうかは、ひとまず置いておいて、もう一つしっくりこないことがあった。
それは、自分のマッシュルームカットだ。
保育園時代から、ずっとマッシュルームカットだった。
それは、母だけが可愛いと感じているヘアカットで、私のヘアカットをするのも母だった。
現代では、マッシュルームカットで人工知能チャットに聞いてみると、「1960年代にビートルズによって人気を博したクラシックなヘアスタイルです」と答えてくる。
サンプルの写真は女性のショートヘアが多く出てくる。
ただ、どれもお洒落で悪いものではない。
しかし、私にかぶせられたマッシュルームは、目のところだけくりぬかれた、フルフェイスのヘルメットに近い。
「お疲れさまでした」という時には、絶対に脱がなければ相手に失礼になる、あれだ。
最近では、猫にかぶせたスイカのヘルメットの画像がネットに多く出ているが、その画像のスイカ部分が、再現率的には最も高い。
私が、散髪に関して母から独立したのは、比較的後になってからだ。
思春期に人前で親から指示を受けることが恥ずかしくなるような年齢まで、母が髪を切っていたし、また初めての散髪屋での散髪も、母がついてきて、細かく指示をしていた時代がある。
これでは、独立を果たしても、過保護の息子の家賃を払い続ける親のようなもので、独り立ちは難しくなる。
このスイカヘルメットのお陰で、小学校に入ってから、恐らくちゅがく年くらいまでは、外で私に声をかけるお店の人や、通りを歩くおじいさんも皆声をそろえて
「お嬢ちゃん」
と声をかけてくる。私もよせばいいのに
「はい」
と答えてしまう。
売り言葉に買い言葉と言うやつだ。
阿吽の呼吸とも言う。
人一倍、男気を見せたかった自分は、中学年を迎えるまで、外見中性の男子を演じ続けなければならなかった。