留学の申し出
早稲田は3学部を受験、そのうち2つの不合格通知が郵送で届いた。その時点で最後の一つが受かっている可能性は極めて低かった。そんな折、父が
「早稲田は、恐らく残りもダメだろ? 恐らくダメだと思うよ」
かなり的を得た一言だった。まさに自分の心の中で思っていたことと一致していて、見透かされているような気分だった。
「多分、ダメだろうけど」
覇気がない声で応えた。すると父は、何かのパンフレットを私に見せてきた。
「お前、アメリカに行ってみる気はないか?」
かなり突拍子もない提案に驚いたと同時に、予備校の先生から留学時代の話を聞いていたことで、留学に興味が湧いていたことは確かだった。ただ、実際にそういう機会が得られるとは思ってもいなかったし、しかもタイミング的に数ヶ月後には渡米していることになることも想像が全くついていなかった。
「もう日本から受け入れられなかったんだから、海外に出ろって言われているのと同じだよ。もう一浪して、早稲田に合格する保証なんてどこにもないだろ。偏差値が上がったからって、本番の試験で合格を勝ち取れる保証はない。それなら、アメリカの大学を受けてみるのも選択肢の一つだ。行くか行かないかは、合格してから決めればいいだろう。」
セイロン(正論)島です。グーの音だけでなく、パーの音も出ない。何も出なき体になっていた。お金はかかるだろうが、少なくとも説明会に行って話を聞く価値はあると思った。説明会は、その週の週末に予定されていた。もう、最後の合格発表を待つ暇すらない。
合格発表を待っていたのは2月の下旬か3月の上旬だった。パンフレットが迷い込んできたのもこの時期。渡米のタイミングは5月の20と21日の二日間だ。ここで入学が決まったら、もう2ヶ月後には、日本にはいないのだ。英語も全く話せないまま、そんな速く渡米を決めることになると思うと、不安と期待で震えた。