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カーチェイス
治安の話のついでにもう少し話そうと思う。CUAというスラムのど真ん中に立地する大学で3年間を過ごした後、学費の関係で州立への転学を親から促された。私立にだと資金が底をつきそうだという。
連絡を受けて直ぐに州立の2大学を受け、二つとも合格したが、メリーランド州にあるタウソン大学へと転学をする。メリーランド州とバージニア州は、DCに隣接する州なのだが、そのDCに近い地域をメトロポリタンという。DCのメトロでもアクセスできる距離にあるメリーランドとバージニア州の事だ。
タウソン大学は、同じメリーランドでも、DCメトロではアクセスできず、車で1時間半くらい走った先にあるメリーランドの都市の名前がタウソンである。そこに立地する州立大学なので、タウソン大学と呼ばれている。
DCから車で北上すると、メトロポリタンエリアのメリーランドを過ぎる。その次に、全米一危険なボルチモアの中でも一番安全な場所を経由して、タウソンという閑静な場所へ繋がる。
タウソン自体には、治安の心配をする必要はない静かな町で、悪いい方をすれば、退屈な場所である。危険と言われているボルチモアの中でも、ハーバー辺りは栄えていて、高級住宅地も立ち並ぶお金持ち地区もある。しかし、内陸に入っていくと、ベニヤ板が打ち付けられたタウンハウスが姿を現す。その地区の治安が悪いのだ。
私は、このボルチモアという地区でバンド活動を行っていた。タウソンにいた時に組んだバンドだが、タウソンの街にスタジオが見つからない。私のように家のガレージで練習できない人たちが借りられる、リハーサルスタジオを見つける必要があった。それは、ボルチモアに存在した。
スタジオ14(フォーティーン)。それが、そのスタジオの名前だ。今にも崩れそうな旧倉庫を、音楽好きの弁護士をしているオーナーが買い取り、リハーサルスタジオとして使えるように、自前でリフォームをしたのだ。外見は、どう見てもドラッグの売買がされてそうな雰囲気のレンガ造りの建物。入口のゲートは、認証コードを押すと開くが、簡単に破られてしまいそうな頼りないゲート。そのゲートの上側には、刑務所に張り巡らされているような有刺鉄線がぐるぐる巻きに張られている。
中に入ると、手作り感満載なパーティションに区切られており、そのスペースを各バンドが月極で借り、機材を持ち込んでリハーサルをする。
中には、ここを自分個人のレコーディングスタジオとして改築する人もいる。スペースを借りた後、中をどのように使うかは自由に決められる。レコーディングスタジオにするためのリフォームが自分でできるなら、自由にさせてもらえる。
このスタジオに、週に2~3回、練習に来ていた。その道中、スタジオ近辺に差し掛かったあたりで、後ろら凄い勢いで車が追いこしてくる。するとそのすぐ後を別の車が全速力で追いかけている。そんな状況に出くわしたのだ。
警察官が犯人を追いかけるようなカーチェイスではなく、まるで片方の運転手が相手を挑発し、一人は逃げ、相手は摑まえるまで追いかけるくらいの喧嘩が勃発したような光景だった。DCに住んでいた頃は、危険なところに住んでいても、カーチェイスに出くわすことはなかったので、やはりボルチモアが全米一治安の悪い地域というのは腹落ちする。
バンドでライブの時は、この治安の悪いスタジオ14に夜中過ぎに機材を降ろしに来なくてはならなかった。スタジオに戻すのに凡そ1時間くらいを要し、そこから帰宅する。最初は、治安の悪さ故、びくびくしていたが、脳も刺激に慣れると恐怖を感じなくなる。
スタジオ14には、もう一つ危険そうな場所が繋がっていた。トーイング会社である。会社といっても、到底会社には見えない。その近辺でトーイングされた車が全て運び込まれる場所になっているだけであり、小さな小屋に人が一人いるだけである。いつ行っても真っ暗になっている。スタジオ14の駐車場がいっぱいの時は、このトーイング会社のスペースに駐車してもいいことになっている。ここは、スタジオ14のオーナーが、もう一つのビジネスとしてトーイング会社を経営しているだけだ。
実は、スタジオ14を長いこと使っているユーザーにも関わらず、一度ボルチモア内で車をトーイングされたことがある。車が持っていかれた場所は、スタジオ14の裏手だった。車を引き取りに行ったら、200ドル前後の請求をされた。
なぜトーイング会社を経営しているのかというのは、単に儲かるのだと思う。車の牽引依頼が来るのを待つだけで、牽引された側は、提示した額を払わなければ車を取り戻すことが出来ない。だから、是が非でも払うのだ。価格表なんでもちろんなく、その時に提示された金額が毎回同じかどうかも分からないのだ。
長い間、スタジオのユーザーでお金を払っているのに、まさか車のトーイングで支払う法外な請求額が、まわりまわって同じオーナーの所へ渡るというのは、搾取されている気がしてならない。