ボルチモアに進出
バンドは、至る所にいる。
しかし、ボルチモアには、ニューメタルに影響を受けたバンドが次々と出てきた。
スタジオ14には、2階まで部屋が作られていたが、ニューメタル以外のバンドを見つけるのが大変な程、ニューメタルばかりだった。
私のバンドがリハーサルスタジオを借りていたスタジオ14という場所は、治安で言えば、確実に安全ではないと確信を持てるような場所だった。
実際に目の前で事件があるのを目撃したことがあるということではなく、何が起きてもおかしくない雰囲気が漂っている場所というのが正確だろう。
日本でバンドの練習と言えば、防音のリハーサルスタジオで練習することを想像するだろう。
しかし、アメリカだとガレージと家の離れだとか、私が借りている貸倉庫をリハーサルに変えた場所とか、マンハッタンの街中にあるスタジオを除けば、その多くは防音設備が整っていない箱の中で、好き勝手に練習するのが常である。
ということは、大きな音を立てても近隣住民から苦情を受けにくい場所で練習せざるを得なくなる。
高級住宅地であれば、近隣住民との立地場所が遠い場合もあるので、必ずしも治安の悪いところに限らないが、メタルバンドで高級住宅地がひしめき合うという構図はなかなかない。
とすると、自ずと治安の悪い地区に集まってしまうのだ。
ボルチモアの治安は、00年から現在に至るまで一貫して高い犯罪率に悩まされている。
00年から07年にかけて、特に殺人事件の発生率が顕著で、年間300件を超えることもあった。
05年には暴力犯罪の報告数に不正があったとされるなど、警察の統計にも問題が指摘された。
この期間、ボルチモアは麻薬取引やギャング関連の犯罪が多発し、特定の高貧困地域での銃犯罪が集中していた。
これらの要因が犯罪率を押し上げ、市民生活に深刻な影響を及ぼしていた。
07年以降も犯罪率は高止まりしており、15年のフレディ・グレイの死亡事件を契機に暴動が発生し、治安の悪化が再び注目された。
24年現在でも、ボルチモアの犯罪率は全米平均を大きく上回っている。
特に暴力犯罪や殺人事件の発生率は依然として高く、治安の改善には至っていない。
ボルチモアの治安が改善されない理由は、複数の要因が絡み合っている。
まず、歴史的な経済的衰退とそれに伴う失業率の上昇が挙げられる。
特に製造業の縮小が地域経済に大きな打撃を与え、多くの住民が貧困に苦しむようになった。
また、麻薬取引とギャング活動が横行し、これが暴力犯罪を助長している。
市政の対応についても問題がある。市警察の腐敗や不正が度々報じられ、市民の信頼を損ねている。
00年代初頭には犯罪統計の操作が発覚し、実際の治安状況が正しく把握されていなかった。
また、警察の過剰な力の行使とそれに対する市民の反発も、治安の悪化を招いた要因となっている。
さらに、教育や社会福祉の不足も深刻な問題だ。
多くの若者が教育機会を得られず、犯罪に手を染めることが多い。
これに対する市の対策は不十分であり、根本的な解決には至っていない。
政治的な背景として、地方政府のリーダーシップの欠如と予算の限界がある。
改善策が試みられるものの、長期的な視野に立った政策が不足している。
また、連邦政府からの支援も限られており、必要な資金が確保できない状況が続いている。
総じて、ボルチモアの治安が改善されない背景には、経済的要因、行政の問題、社会的支援の不足、政治的制約が複雑に絡み合っていることが挙げられる。
根本的な改善には、包括的で持続可能な政策と地域社会全体の協力が必要だ。