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ADHDと共に生きる
図書館で毎日勉強に励んでいるのに、なぜか成績が下がる。部屋の掃除をしようとしても、全体的にきれいにすることは苦手で、なぜか特定の場所だけにこだわり、極端に整理整頓してしまう。1つの質問に答えようとすると、余計な情報を山のように付け足し、10倍の量で返してしまう。綿密にプランを立てたはずなのに、いざ実行すると計画通りにはいかない。タスクを最後までやり遂げることができず、結局中途半端で終わる。やるべき仕事の優先順位をつけるのが苦手で、気づけばどうでもいいことに熱中してしまう。身の回りはいつも散らかっていて、片付けようと思った瞬間に他のことに気を取られる。1時間の会議に参加しても、内容に集中できず、全く関係のないことを考え続け、会議の重要なポイントを覚えていない――。こんな経験を持つ人は少なくないかもしれません。
子供の頃、この特性は「落ち着きがない」「うるさい」「話が長すぎる」といった形で現れ、周囲から注意を受けることも多いでしょう。しかし、大人になるにつれ、こうした「多動性」の特徴は徐々に消えていくこともあります。一方で、「ADD」とも呼ばれる注意欠陥の特性――集中力が続かない、物事を計画的に進められない、優先順位をつけられないといった特徴は、大人になっても改善することなく、そのまま残り続けることが一般的です。
この注意欠陥の特徴は、社会人として働き始めた時に特に顕著に現れます。「この人は仕事ができない」というレッテルを貼られたり、「真面目に取り組んでいない」と誤解されることもしばしばです。書類を期日内に提出できなかったり、会議での発言が的を外れていたり、何度も同じミスを繰り返してしまったり……。そんな苦しい状況に陥り、自己嫌悪に陥ることも少なくありません。
それでも、不思議と「面白い人だ」と言われることがあります。突拍子もない発想をしたり、他の人が思いつかないようなユーモアを持ち合わせていたりするため、同僚や友人からは人気者になることも多いのです。このエンターテインメント性は、注意欠陥特性を持つ人が周囲と共存する上で、時に大きな武器となります。
ただし、そうした特性を持ちながら生きていくことは、当事者にとっては簡単な道ではありません。いつも気を張り詰め、自分の欠点をカバーするために努力し続けなければならない日々は、心身ともに疲弊をもたらします。それでも、「治らないもの」を受け入れ、それを「自分の個性」と捉えることができたとき、世界の見え方が大きく変わることに気づきます。「できないこと」にとらわれて嘆き続けるのではなく、「できること」にフォーカスし、自分なりのやり方で物事を進めていく。こうした割り切りが、残りの人生を豊かで楽しいものにしてくれる鍵となるのです。
本書は、私自身の体験をもとに、ADHDの特性を持ちながらどのように生きていくか、そしてその特性をどのように活かしていくかについて書いたものです。私の人生には失敗や挫折が数えきれないほどありました。それでも、自分が面白いと感じたことや熱中できることに向き合い続けた結果、得られた学びや気づきもありました。ADHDは、確かに生きづらさを伴う一方で、他の人にはない視点や才能を持つ可能性も秘めています。
この本を通じて、同じような特性を持つ人たちが「自分らしく」生きるヒントを見つけてもらえたらと願っています。また、周囲の方々にも、この特性をより深く理解し、支え合うきっかけを提供できれば幸いです。どんな人生であれ、自分に与えられた「特性」を個性として活かし、前に進む力に変えることは、誰にでもできるはずです。この本がその一歩を踏み出す助けになれば幸いです。