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ガンズ&ローゼズのカバーバンド

 他校の文化祭でメタルを披露できた後、新たなカバーバンドの提案があった。同じバンドでリードギターを担当していたH先輩が、ガンズ・&・ローゼズのカバーを、ボーカルとしてライブをやりたいという提案だ。H先輩と、我が校の諸先輩方は通じている仲なので、一緒にやることになった。

 ガンズは良く知っていたが、冷静に振り返ってみると、一度もカバーしたことがなかった。どこの高校でも皆カバーしている、誰でも知っているバンドだ。結成当時のドラムは、ドラッグの問題があり、演奏に関してもそれ程タイトではなかった。しかし、新たに迎えたマット・ソーラムは、非常にタイトに叩くドラマー。ライブでの安定感が全く違った。

 ガンズのドラムは、決して難しくない。リズムもさることながら、フィルにおいても決して難しいことはしていない。だから、ライブ中は、余裕が持てて楽しめる。別な言い方をすると、退屈さも否めないが、その分、出来るだけ本家に近くタイトに叩くようにしていた。

 ドラムを始めた頃は、「リムショット打ち」と言うのを知らなかった。「リムショット打ち」には2種類ある。

 一つは、スネアの「リム(周りの金属部分)」だけを叩いて音を出すもの。もう一つは、スネアを打つ時に、スネアとリムを同時に叩いて大きな音を出すもの。始めたばかりのドラマーには、この後者が出来ない人は多い。
 素人のライブを見に行って、スネアを打っているのに、全然聞こえないという経験をしていたとしたら、「リムショット打ち」が出来ていないと思って間違いない。

「リムショット打ち」が出来ている感覚とそうでない感覚がある。もしあなたがドラマーなら、この感覚が分かるかもしれないが、「リムショット打ち」が決まった時は、スティックがスネアに磁石のようにぴたっとくっつき、重たさを感じるような感覚がある。逆に「リムショット打ち」が出来ていない時は、どれだけ叩いても大きな音が出ないし、ぴたっとくっつく感覚ではなく、跳ね返ってくる軽い感覚がある。

 「リムショット打ち」を覚えたのは、軽音楽部に入ってスタジオで練習していた際、高2の先輩の中学時代の友人がスタジオに入ってきて、ドラムの手ほどきをしてくれた。まず最初、に確認してくれたのが、
『「リムショット打ち」してる?」
だった。そもそもドラムは叩けるだけの私は、
「『リムショット打ち』ってこれですか?」
と金属部分を叩いた。その友人は、
「それもリムショットなんだけど、スネアを叩くときに、スティックの先端でスネアの真ん中を叩きつつ、同時にスティックでリムの部分を同時に叩くと、リムの音とスネアの音が同時になって、スネアの音が大きくなるやり方だよ。」
と教えてくれた。その友人は、実際に叩いた瞬間の図を見せてくれたが、これが、実際にやるとなかなか当たらなかった。すると友人は、
「スネアの叩き方にコツがある。リムショット打ちが出来ている状態の時に、ひじの角度が90度くらいになっているようにして、肘の高さはそのままの高さでスティックを真上に上げる感じ。上げた状態で、肘の高さを変えずに、手首だけを使ってスティックを振り下ろす。そうすると、リムにしっかり当たる。その時に、磁石のようにぴたっと止まる感覚があるから分かるよ。」
と教えてくれた。

 リムショット打ちもできていなかったが、手首を使って振り下ろすこともできていなかった。だから、磁石に引き付けられたようにピタッとくっつくという感覚が分からなかった。

 速いテンポの曲を叩く時は、リムショット打ちを意識するよりも、テンポを崩さないことに重点を置くことが多いが、ガンズのようなミドルテンポまたはスローテンポの曲になると、いかに溜めてインパクトのあるスネアを叩くかで、パフォーマンスの印象が大きく変わる。

 メタルのように速い曲では、ハイハットは終始クローズしているものとオープンにしているもの2つを持てていると理想的だが、カバーバンドのレベルだとオープンハイハットのままにしている人も多いだろう。

しかし、ガンズのような楽曲では、ハイハットのオープンクローズを使いこなしたりするのも醍醐味の一つだし、ハイハットを叩いていない時に、足でハイハットのリズムを刻むことも必要になってくる。

私がこのバンドでためになったことは、何ができても満足せずに上を見続ける集団だったことである。「マウントを取ってくる競合バンド」の話をしたが、そのバンドのドラムだけがマウントを取ってきた。毎回できるというので見させてもらうと、決まって「今日は調子悪い」という。心の中では【今日だけだといいけどね】と思っていた。

一方、そのバンドの他のメンバーは、ドラムに課題を感じていて、何でもできるというけど、どれもできていないと私達に嘆いていた。なぜそのドラマーが上達しなかったかというと、満足度が低すぎたからである。

満足度が低いのは、ビジネス世界では悪いことではない。寧ろ、6割か7割できていたらゴーサインを出して少しでも進まないと、結果的に一歩も進んでいないなんてことはザラに起きるからだ。

でも私から見ると、彼の満足度は7割どころではない。全然できていないのだ。一方、ガンズのカバーバンドの場合は、一人が満足していないというレベルではなく、各々が改善を繰り返していた。だから、ライブを収録してもらった時に、非常にまとまりのある演奏に仕上がっていた。

ライブのステージ側は、自分たちの音が殆ど聞こえない。その状態で、聞こえている体で演奏を続けなければいけないという前提がある。それには、常に自分の中でメトロノームがなっているようなリズムを流していないと、ライブは到底やり遂げられないのだ。

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