寮生活
こんな英語力でよく留学するなと思う人も多くいるだろうが、そんなもんである。行動したもの勝ち。来たばかりの頃の英会話力は、3ヶ月日本にいてもアメリカにいても変化は何もない。ただ、少なくとも生きた英語を3ヶ月「聞き始めてる」のは確かで、そこで何年後かに差がつくと思えば、最初の痴態など気にならない。
さて、寮生活だが、合同合宿で共同生活は慣れたものの、今までは日本人同士だった。分からないことがあっても、言葉が通じるというベネフィットがある。しかし、この日からの寮生活は、ルームメイトが外国人になっていく。
留学生は、勿論親は来ていないが、アメリカ人や外国人でもアメリカ在住の学生は、大抵両親が入寮に必要な品を車に載せてやってくる。日本だと、入寮となるとスーツケース一つで来そうだが、アメリカの場合は、車にぱんぱんになるくらい、これでもかと言う荷物を持ってくる人も多い。
デスクトップのパソコンを持ってきている人もそこそこいた。私は、ルームメートが二人いる3人部屋だったが、一人はデスクトップを持ち込んで、毎日のようにペーパーやEメールを打っていた。私の荷物は、スーツケース一つだけなので、寂しいものだった。
また、個人的に驚いたのは、どこの家も父親が必ず来ていることが驚いた。もしかしたら、同期の220人の中の各世帯も、父親の子供への関与率は高いかもしれないが、少なくとも私の家庭は、父親が子供の学校に関与することはまずなかった。どこの学校へ行っているかくらいは知っているだろうが、学校でどんなことをしているかは、全く知らなかったと思う。
ここまで父親の介入率が高いのは羨ましいと思ったし、こういう父親でありたいと反面教師になり始めたのも、留学がきっかけである。考えてみると、アメリカのイベント事には、必ず父親が来ているし、昔の日本にあった父親参観日など必要がない。特別に父親の日を作らずとも、父親が休みを取ってくるからだ。
アメリカ人や外国人との共同生活がはじまったが、カルチャーショックはまだまだ続く。彼らは、シャワーを朝に浴びる。シャワーは共同シャワーだが、夜のシャワー場は、静かだ。朝になると混む。
アメリカのルーティンは、夜寝る時は、男は必ず上半身裸である。起床して洗面所へ行く。歯を磨いたらシャワーを浴びる。また上半身裸のままで部屋に戻る。髪はドライヤーで乾かす人がいたかは覚えていないが、かなりしっかりした人でないと、髪をセットすることもない。風呂上がりの濡れたままの髪で、朝食を食べにカフェテリアへと向かう。
気になる服装だが、私達がファッション雑誌で見るようなアメリカ人の女の子は一人もいない。夏なら、Tシャツ、ショーツにビーサンだ。日本だったら、仮にTシャツとショーツでも、ヒールの入ったサンダルでも履きそうだが、お洒落をするという概念がない人が8割。
しかし、これがパーティーとなると、日本では見たことないような、ゴージャスなドレスを着てくる。そしてこれが似合う。このギャップが凄い。日本人の女性だったら、普段から小綺麗にしている。大学生だったとしても、大学へ行く前にシャワーを浴びたとしても、必ず髪は乾かして整え、軽く化粧をして家を出るだろう。しかし、そんな感じは微塵もない。スタイルも良く、足もスラリと長いモデル体型でも、足を見るとビーサン。そして蟹股が多い。これにも驚いた。
寮では、本当に色々な発見があって驚いた。あと、寮は関係ないが最初慣れなかったのが、「プリッツェル」。アメリカを離れる頃には、大好きなスナックになっていたが、渡米したばかりの頃は、口に合わないスナックだった。しかし、アメリカ人は、これが大好きだった。
最後まで味に慣れなかったのは、「ルートビア」。日本には、恐らくCostco以外では見ない。普通に売ったとしても、日本人の口には合わずに棚から消えてしまう商品だろう。「ルートビア」を買うくらいなら「ドクターペッパー」を買うと思う。しかし、「ルートビア」も「プリッツェル」もアメリカを象徴する食べ物と言えるだろう。
次に寮生活とは直接関係ないが、毎回目にするのが「フェイクID」だ。アメリカは21歳にならないと飲酒が認められていない。しかし、アメリカに入学する時は、皆18歳である。バーに行くのが好きな学生は、皆「フェイクID」持っているので、毎週金曜日になると、近くのバーに飲みに集まる。IDもセキュリティに見せるのだが、「フェイクID」は、当時ほぼバレない。全員入場を許可される。
ある時、私もバーに一緒に行こうと誘われた。私は、浪人してから留学したので、当時20歳になっていた。その時点でも勿論お酒は飲めないのだが、パスポートをもって一緒にバーへ行く。もちろん、中には入れてくれるがお酒は飲めない。
釈然としないのは、中に入ってお酒を飲めているのは、全員18歳なのだ。その日、私はお酒が飲めないということで、そのまま大学へと歩いて引き返した。実は、中に入ってソフトドリンクで済ましても良かったのだが、英語ができないために、会話に入れないしつまらないのだ。だから、わざと変えることを選んだ。
誘ってくれたのは非常に嬉しかった。つるむ仲間として、受け入れられた気がしたからだ。でも、ネイティブの学生が話す英語は、留学初日が英会話の初日である人にとっては、聞き取るのは至難の業だ。
たまにカフェテリアで一緒のテーブルに誘ってくれる。皆はワイワイと話している中で会話に入ることはできない。日本語であれば、会話に入っていなくても、話題は聞こえてくる。だから急に話を振られても答えられるのだが、当時の英語力では、急に振られると、質問の前提から話を話しなおさなくてはならなくなるため、やっぱり同じグループには入れなくなる。正直、今の英語力であの頃に戻りたい。そうすれば、多少の市民権は得られたに違いない。