プロレス実況
プロレス実況は、恐らくどの世代にとっても楽しめるエンタメだと思う。問題はそのやり方で、「本当のプロレスを忠実に実況する」か「レスラーが実況者の言った通りに動く」かの実況スタイルである。プロレス実況は、後夜祭の軽音楽部のライブの後に行われるのが習慣となっている。
軽音楽部のライブが終わると、ステージとは逆側に、セーフティーマットが敷かれており、プロレスのリングのようなお膳立てがされてある。レスラーに選ばれているのは、ラグビー部の部員。二人だけだったか、もっと多くの部員がいたかが記憶にないが、プロレスを全く見ていない私にとっても爆笑できるエンタメだったことだけは間違いない。
この出し物が始まる前までは、格闘技ファンが集まって、プロレスをやっている二人の実況をして盛り上げている、疑似プロレスだと思っていた。疑似プロレスであることには変わりはない。プロレス自体も、ある程度の筋書きがあり、その筋書き通りにショーが作られている側面もある。
本物のプロレスが、レスラー側のシナリオに対して実況を中継するのであれば、この疑似プロレスは、レスラーが動きに入る前に、実況者がレスラーの動きを先走る仕組みになっており、レスラーはその動きが嫌でも実況の言う通りにしなければならない。
プロレスも試合が開始されたばかりの時は、レスラー役もエネルギーに満ちているので、動きにも切れがある。このプロレス芸は、実況とうまく合わせるためにすべての動きがゆっくりになるように打ち合わせがされている。
このプロレス芸が始まったばかりの頃は、私を含め多くの学生たちが、本当の実況だと思っていた。しかし、プロレス中盤に差し掛かり、レスラーがある技をかけようとしたところで、実況が
「~と見せかけて~にいくか、いくのかぁ」
と実況すると、決めようとしていた技を説き、実況の通りにし始めたのである。それを見て、漸くやっているこの中身を理解できるようになった。そのうち、これはまず無理でしょっていう技を実況者が言い始めると、解説者に向かってNGのサインを出したりする。その様子が見ていて面白い。
これから何が起こるのかの種明かしを全て開示してしまうのに、ここまで面白いエンタメもなかなかないなと当時は思った。大技が出る時は、怪我がないようにと教員側もハラハラしていると思う。一年に一度しかないエンタメ、実況の頭の回転の速さと、喋りの上手さと、ユーモアのセンスにかかっている競技である。この実況解説者は後に、日本大学芸術学部へと進みメディア系の仕事についた。まさに天職についたと言えるだろう。