見出し画像

一枚の自分史:シャンパンのささやき

2013年(平成25年)の11月63歳の秋のことです。
山形県上の山温泉名月荘は山の中の閑静なお宿。
魔法の質問認定講師養成講座10期を受講していました。

それまでに、わたしはホスピタリティを育てる講座をしたとき「目の前の人を幸せにするために何ができるか?」という質問で受講してくれた人たちが変わる魔法を目の当たりにしていました。
その時から、養成講座で質問を学びたいと切望し、老後の資金を切り崩してまでの参加でした。

目論見通り、まさに「目の前の人を幸せにするためにできること」がテーマの講座でした。
何も教えてはくれません。自分と向き合い、人を想い、自分で考えて行動する。そしてその結果をこの目で見る。そのためにできることをその場にいる47人があまりにも自然に取り組む。それをみんなで確認し合う。その世界はこれまで見たことのない世界でした。
まさに、その答えは自分の中にありました。

でも、これでちゃんと学べているのだろうか、何かを得たのだろうか。その場の若いエネルギーに圧倒されていました。自分の年齢に抵抗があったのです。今更何ができるんだろう、勢いだけでやってきてしまったけれど、居場所があるのかと後悔しかけていました。

唯一、寛げたのは5人同室の仲間と朝食を共にする時間でした。4人を若草姉妹に見立てて、炊き立てのごはんの甘い香りとそのあまりの美味しさについついお代わりをする娘たちに盛ってやる母親役にご満悦でした。いつまでも終わらない夜に露天湯につかるときの、あの緩まる感、抱かれ感も加えておきましょう。

こころのちょっとしたズレ感を調整できなくて、心のシャンパングラスはあふれそうで溢れない微妙な状態のままの自分を持て余しながら最後の夜の親睦会を迎えていました。
先輩たちから贈られたプレゼントはシャンパンタワーの実演でした。
それが終わってシャンパンで乾杯をしているショットです。二人は、大分と福岡と遠方だったのですが、不思議に九州の人とのご縁に恵まれて、そのあとも、昭和の宿で一泊をともにしたり、それからもずっと行き来することになりました。
心のグラスがシャンパンで満たされて、どくどくと溢れだしている。そんな感覚がほしいのに、どこかにズレを感じながら・・・。

講座が終わって、 山形の市内の昭和の宿に九州勢の仲間と共に後泊し、翌朝、別れて一人で蔵王に向かいました。あ~、これで、私は老後になって時間ができたら、日本中に会いに行ける人たちができたんだ。それだけでいいんだ。そう思いながら泣けたのです。蔵王の風に吹かれながら。

10月に山形から帰り、仮免の宿題を仕上げて、12月に東京に行って養成講座を修了しました。
東京に行く前の前日、木曜日は 京都のお寺での心理の学びでした。システムコンストレーションのフォーカスパーソンのお孫さんは、「自分だけ生き残ってすまない」という戦争で生き残ったお祖父さまの戦友への罪悪感を生きていました。いろいろな不具合を抱えておられました。その姿を見ていて苦しくなりました。そのまま東京へと発ちました。
そして、金曜日、呼ばれるように靖国神社に参拝し、その夜中から、体調を崩してしまいました。
土曜日、東京 養成講座の1日目。どんどん体調は悪くなり最後まで受講することができず、途中でホテルに一人帰ってしまうことになりました。
その日は、夜に親睦会があり、私たち同期の大切なイベントがありました。サプライズを企て、オンラインで何回も練習したのが、 AKB 48の「恋するフォーチュンクッキー」でした。替え歌に合わせて、同期みんなで振り付けのダンスをすることになっていました。
正直、その歳ではなかなか難しくて、どれだけ練習をしたことでしょう。でも披露することなく終わってしまいました。

東北の大震災の後の世の中はしばらくは小康状態の日々が続いて、日本中の老若男女が、日本中の職場やグループがこの曲で一体となっていました。 その後、何曲かは流行りましたが、やはり二番煎じでした。 今から思えば、本のしばらくのその名のとおりの平成がありました。時代を象徴する曲でした。その後は相次ぐ災害と、そして新型コロナ禍の今日に至ります。

名月荘を 風が渡り、すだく虫の音に混じって、耳を澄ますと、シャンパンのぷつぷつとささやく音が届いてきます。「どんな人生だったら最高?」という。

それまでとあれからでは人との出会い方が違っています。質問で人生が変わったとはっきりと言い切れる。今の私は「ツナグ」ためにできることをやり続けている。

衝撃だったこの夏を過ぎて、近頃は、本当のゴールは最期に「いい人生だった、ありがとう」と言って去ること。そうではないかもしれないと思っている。
まだ、この世を卒業した後にゴールがある。そんな気がしています。
だって、次世代に「ツナグ」のですから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?