「入院」に対する密かな憧れ
気に病んでいたことがある。
正月(確か1月6日)の大雪で、帰りの自転車で見事に転んで、左の脇腹から肩にかけてを地面に思い切りぶつけてしまった。
始めは脇腹の方が、猛烈に痛くて(多分骨にひびが入っていたと思う)、左肩のことはあまり気に掛けていなかったのだが、やがて脇腹が治って痛みが引いてくると、どうも左肩の方に痛みが残っていることに気付いた。
いや、むしろ痛みが増している、と言っていいかもしれない。
徐々に可動範囲も狭くなってきて、少し動かすだけでも激痛が走るようになってきた。
これではお店でのシェイクなどにも影響を及ぼしかねない。
病院嫌いの僕も、しぶしぶ重い腰を持ち上げて、御茶ノ水の某老舗クリニックへ向かうことにした。
落ち着いた年配の院長先生。
レントゲン写真を診て、
「う〜ん。骨折の痕があるようにも見えますが・・、それより肩の腱板が断裂しているといけないので、念のため MRI (核磁気共鳴画像法)を撮ってもらいましょうか。」
「腱板断裂?? それって、もしなってたら、どうなるんですか??」
「それはもう専門の手術が必要になるので、しかるべき病院へ入院することになります。」
「入院・・・。どのくらいかかるんですか?」
「そうですねえ。手術の前後が準備も含めて2週間くらい。その後、肩を1、2ヶ月固定して定着を待って・・・、あ、あとその後のリハビリが半年くらい続きますかね。」
自慢ではないが(あるが)、僕はこれまでの人生で、治るのに時間のかかるような大病・怪我などはしたことがない。もちろんお店を長期に渡って休むことも、幸いこれまでなかった。(一度ギックリ腰はやりましたが(笑。)
たった一度の不注意の転倒で、
「入院」だなんて・・。
暗い面持ちで、指定された MRI 専門の診療所を訪れ、その日のうちに画像を撮ってもらった。結果は1週間ほどで、もとのクリニックに届くそうだ。
憂鬱な1週間が続いた。
こんな時は、よからぬ考えばかりが浮かぶものだ。
「店はどうなるんだろ・・・。」
でも、
ものは考えようだ。
実は僕、
(辛い治療・闘病生活を送られている方には、本当に失礼いたします)
「入院」に対しては、ほんの少しだけ、密かな憧れのようなものがある。
いったん普段の生活を離れて、「治療」という物事だけに専念する。
俗世間から遮断された世界は、いったいどんな心地がするのだろう。
いつ治るか分からぬ難病でもあるまいし、期間限定の体験である。
なんだか、人生のいろいろを清算する機会が持てそうな気さえするのである。
普段からやっとけ、ではあるが。
実際、「店はどうなるんだろう」といっても、ここ最近の業績は散々である。
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、とてもこの裏通りに人が戻ってきているとは思えない。
どうせ閑古が鳴く毎日。
客が少ないことに、ちょっとスネて見せるのも悪くないのではないか(笑。
それに、
・「病院食」ってどんなだろう
・看護師さんへ宣伝するためのショップカードは何枚持って行けばいいだろう
・「パジャマの変え、お持ちしましょうか?」なんてお客さんがいたらどうしよう
・そのパジャマが、2枚被ったらどうしよう
・これを機に、読んでも読んでも終わらなかった「東京の生活史 / 岸政彦」にとどめを刺すことができる、かも
「入院」に対する妄想は、とめどなく広がる。
そうこうしているうちに画像が出来上がり、クリニックへ結果を聞きに行く日がやってきた。
内心ドキドキである
店よ。しばしのお別れだ。
結果。
「あー。立派な「50肩」ですね。たまに転倒などが原因で、誘発することがあるんです。これといった治療はないので、いつも通り、というよりいつもより積極的に動かしてください。」
「はい。」
「お大事に。」
「はい。」
ところで、「治るのに時間の掛かるようなものはなったことがない」などと前述したが、
実は一度だけある。
右肩の
40肩である。
神保町へお越しの際は、是非お立ち寄りください。
あん時も、半年以上かかったんだよなあ。
お待ちしております。
Motionless (feat. Tiffi) / City Girl
City Girl Records
2019
(本文の最後に、お店でよくかける音楽を紹介しています。お家でお酒を飲まれる際に是非どうぞ。今度お店に聴きに来てくださいね。)