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【オンライン勉強会】日本とアメリカの事例に学ぶ、住民参加でよくある壁とその乗り越え方とは?

こんにちは、都市デザインとまちづくりDXに取り組むGroove Designsです。

今回は、9月19日(木)に開催したオンライン勉強会の様子をレポートします!アメリカ在住の都市政策コンサルタント、古澤えりさんをお招きし、住民エンゲージメントの効果的な実施方法や課題について議論しました。


■登壇者プロフィール
1.都市政策コンサルタント、HR&A Director 古澤 えり氏
2.Groove Designs 取締役 東 宏一

勉強会の趣旨

日本でもいろいろな形で、地域の皆さんの声を聴く、ということは行われています。

ただ、様々な地域での取り組みを見聞きする中で、意見を聴いた後どうするか?集まってもらった人たちにどうしてもらいたいのか?は残念ながら弱いことが多いと感じています。

そこで、
1.住民参加はそもそもなぜ行うのか?どうすれば質の高い住民参加ができるのか。
2.住民参加を通じて、地域の方のエンゲージメント(地域の人による、まちへの主体的な関わりの度合い)を強めるにはどうすれば良いのか?

この2点について掘り下げるために勉強会を開催しました!

アメリカで都市政策コンサルタントとして活躍されている古澤さん、日本の多くの地域でエンゲージメントプロジェクトを推進しているGroove Designs取締役の東がそれぞれ事例を紹介し、参加者の皆さんからの質問にも答えながら、住民参加で目指したいプロセスや、エンゲージメントを強める際のポイントについて​考えました。

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話題提供パート:日米の事例をもとに​

アメリカの事例紹介(HR&A 古澤さん)

そもそも、住民参加とは何なのでしょうか?
古澤さんからは住民参加とは、「住民の関心、ニーズ、価値観を、政府や企業の意思決定に取り入れるプロセス」という説明がありました。

そして、住民参加には情報提供、相談、関与、コラボレーション、エンパワーメントの5段階があるとのこと。

古澤さん資料より住民参加の5段階

この5段階について古澤さんは、「右に行けば行くほど良いというわけではなく、意思決定の内容に応じて適切な段階を選び、それに合った住民参加をデザインすることが大切です」と強調されていました。

次に、住民参加を計画する際の3つのポイントについて紹介がありました。

  • 多様な人が参加できるようにするためには どうするか?

  • 住民参加を通じて、どのように地域の人の関わりの質を高めるか?

  • 住民参加を通じて、どのように職員のスキルアップをするか?

同時に古澤さんからは、もし最初から結論が決まっていて、住民の意見を取り入れる余地が全くない場合、住民参加の取組みをわざわざ行う必要はないこともある、との指摘もありました。

むしろ、形だけの住民参加を行うことは、住民との信頼関係を損なう可能性がある、と。

そして、住民参加の具体的な事例として、ジョージア州グイネット郡のショッピングモール再開発プロジェクトの紹介がありました。

古澤さん資料より、グウィネット郡における人種多様性について

このショッピングモールは1980年代に栄えましたが、競合の出現やオンラインショッピングの台頭により衰退し、2021年にほとんどの店舗が閉業しています。
その後、自治体が一部を買い取り、経済発展の起爆剤として再開発を計画していましたが、この地区は非常に住民の多様性が高いエリアで、様々な人種や文化背景を持つ住民が暮らしています。

古澤さんは、「これだけ規模が大きく、自治体としての今後の経営に影響を与えるプロジェクトであれば、最初のビジョン作りのところから、地域の人に入ってもらうのがポイントです。特に、多様な方に参加してもらうという観点では、いかに移民のコミュニティの人や様々な人種の人が参画できるようにするかというのがポイントでした。」と、このプロジェクトにおけるポイントを紹介されました。

具体的に、このプロジェクトにおける多様な住民参加への工夫は、以下の3点でした。

  • まちづくりに関する専門的な内容を、いかに分かりやすく伝えるか

  • プロジェクトを通じて自治体とコラボレーションをする主体である諮問委員会のメンバー選びにも、地域の多様性を反映させる

  • 常に誰が住民参加の場に来ていて、誰が来てないかを確認しながら、多様な人の意見が反映されるように細かく軌道修正する

そうした中で、地域の人の参画をより促していく(エンゲージメントの向上)については、

  • イベントに自治体職員や首長にも来てもらい、直接説明や質疑応答の機会を設ける

  • ファシリテーションを工夫し、参加者同士の交流の場を作る

  • 住民側でやる気のある人が、リーダーとして動ける仕組みを作る

などの工夫を紹介いただきました。

この事例紹介の最後に、自治体職員のスキルアップの機会を作ることの重要性についてもコメントいただきました。

  • イベントや諮問委員会のファシリテーターになってもらう

  • イベントのファシリテーションなど、慣れない立場に立つときは,地域の熟練ファシリテーターとペアを組んで取り組んでもらう

  • プロジェクト全体を通して自治体側の代表者として地域の人と関わることで、オーナーシップを持ってもらう

など、職員という立場で地域の人と関わるための訓練を経ていない職員でも、より良い取り組みを継続的に進められるようにするための、具体的な手法についても紹介がありました。

日本での事例紹介 (Groove Designs 東)​

続いて、Groove Designsからは東が、日本での事例を紹介しました!

Groove Designsではもともと、地域・住民主体でのまちづくりへ様々な地域で取り組んできました。

まちづくりにおけるプロセスデザインについて


様々な地域で取り組む中では、古澤さんにいただいた内容と重なる課題を感じてきました。その解決策として、デジタルプラットフォームの“my groove”を自社で開発、運用して取り組んでいます。

my grooveの特徴

その具体的な取り組み事例として、栃木県小山市でのプロジェクトを紹介しました。

日本の事例:栃木県小山市の駅周辺エリアまちづくりプラン

東の資料より

栃木県小山市では、近年、駅の整備や再開発による利便性向上や、再開発事業等により、まちなか居住を推進しています。
その一方で、空き店舗や駐車場が依然目立ち、地区の賑わいが失われている状況でした。そのため、今後まちなか居住をさらに推進していくため、行政と民間が協働し、まちづくりを推進していく指針として、2ヵ年かけてビジョン策定を進めていました。

こうした取り組みを進める中で、リアルな場に参加できなかったより多様な人たちの意見をプランに取り入れることを目指し、デジタルプラットフォーム“my groove”を活用いただきました。

my groove上のプロジェクトページはこちらです!

my grooveを用いたことによるメリットは、以下のようなものがありました。

  • 時間や場所の制約を受けずに、住民の皆さんが参加できた

  • 過去の経緯や議論の流れを可視化し、透明性を高めながら情報を発信できた

  • まだ固まりきっていない段階でのイメージをもとに、ブラッシュアップするための意見をもらえた

  • 若い世代や、普段まちづくりへ参加しづらい層の意見も集められた

実際に、my groove活用した中では、以下のような多様な意見や反応を得ることができました。

東の資料より、小山市での意見収集の取組みについて


特に特徴的だったのは、今回まちなかエリアを対象とした取り組みだったこともあり、歩行者視点での声や、具体的な課題・ニーズ、また、それらへの解決アイデアが多く寄せられたことでした。


また、東からは、参加度合いによる意欲の違いにも言及がありました。
my grooveを訪問しただけでは実際に活動に参加したい人は10%程度でしたが、意見を出すなど何かしらサイト上での行動をした方については、90%超の方が次のステップにも参加したい、という回答をくださっていました

古澤さんからは、my grooveで扱うエンゲージメントは、行政や企業による意思決定への住民意思の反映に向けた関与というよりも、その前段により緩やかな地域へのつながり・関与を促していくという要素があり、そこが良い点ではないか、というコメントをいただきました。

💡小山市の事例を更に詳しく知りたい方はこちらの記事もご参考ください!

ディスカッションパート

発表後のディスカッションでは、事例の発表後、参加者から多くの質問が寄せられ、古澤さんから様々な角度でコメントいただきました!一部ご紹介します。

■質問1: 多様性を重視する中で、集まった多様な意見から何を採択するかの判断基準はどうしたらよい?

古澤さんからの回答:
集まった意見が全て同じ重みをもつとは限らないので、まずは誰がこの意思決定によってどのように影響を受けるのかを考えることが重要です。
例えば、アメリカでは再開発によるジェントリフィケーションが様々な地域で起きています。周辺の地権者は地価が上がるので賛成するかもしれませんが、賃貸で家賃が高騰してしまい,追い出されてしまうかもしれないという不安を抱えた人は反対するでしょう。
なので、意見を出す人がどういう立場で出しているのか?という背景を理解するのが大事ですし、政策として何を実現したいかによってどういう声を重視して扱うべきかも異なってくると思います。

■質問2. 意見の対立や、それによって分断が生まれることへの懸念は?

古澤さんからの回答:
まず、意見が違うことと分断が起こることは別に考える必要があります。むしろ、異なる意見を持つ人々が同じ場に集まること自体は、住民参加の成功と言えます。
その上で、参加した人々の中でどこは共通点と言えるのか、問題意識は共有していて、それに対するアクションへの考え方が違うだけなのか?そもそもみている課題が違うのか?など、ファシリテーターが掘り下げていくプロセスが重要だと思っています。

■質問3. 公式な場での意見を重視すべきなのか。それ以外で出てきた意見はどう扱えば良いのか?

古澤さんからの回答:
イベントやワークショップなどの場がプロジェクト全体でどのような位置づけなのか、この場所以外で声を出せる機会があるのかどうかをちゃんと最初に示すことは重要です。
ただ、後から個別で声が届くことももちろんあり、特に参加が難しい方に対してオープンに声を上げられるチャネルがあることが必要な場合も多くあります。
なので、プロセスの透明性があるということ、またそのプロセスの外で受け取った意見を取り入れるかどうかの判断軸があること、が重要だと考えています。

■質問4. 認知形成やそもそも取り組みを知ってもらうために必要なことは?

古澤さんからの回答:
「なぜこれに時間を使う必要があるのか?」を地域の人にもちゃんと理解してもらえるようにすることが重要だと思っています。
生活レベルでどのような影響があるのか、自分にとって身近にどういう関連があるのか、ということがなるべく分かりやすいように説明することが大事です。逆に言えば、そこまで身近な暮らしに影響が無いのであれば、そもそも巻き込むべきかどうか?も考えても良いかもしれません。
また、地域の中で実際に動いている人を捉えながら、巻き込みを広げていくことが重要です。

■質問5. エンゲージメントのプロセスをつくりこみすぎると、参加者側として誘導されるように感じることはない?

古澤さんからの回答:
エンゲージメントの中で、何はすでに確定しているのか、どこは地域の人の意見によって変えられるのか、を何度もちゃんと伝えることが大事です。
また、イベントの後やアンケートの後などで、どういう意見は取り入れられて、どういう意見は取り入れられなかったか、ということをちゃんとオープンにすること、いただいたフィードバックに対して、フィードバックを返すこと、というのが大事だと思います。
これまで何十年に渡って行政と住民の蓄積された関係性の上で行う住民参加なので、これまで地域の人が自治体の意思決定に関わってこなかった場合は、ワークショップを一回やっただけでは信頼関係は作れません。フィードバックすることへの成功体験を持っていくということが良いエンゲージメントに繋がるのだと思います。


他のやり取りや東からの補足コメントなどについては、ぜひ本編動画をご覧ください!

【 本編動画はこちら 】


まとめ:良いエンゲージメントって何だろう?

古澤さんからコメントいただく中では共通して、①住民参加をする上での目的、そして、②何を出口にするのか、という点が大事という話がありました。

最後に、全体のまとめとして、住民参加をすることでどういう良いことがあるのか?について、古澤さんより以下のようなコメントをいただきました。

一つは、行政主導なり、民間主導なりどちらの場合であっても、取り組みの意思決定プロセスに、影響を受ける地域の人達が賛成できるようなものとなり、良い結果につながること。

もう一つは、良いエンゲージメントの成功体験を地域の皆さんが持つことで、自分のまちを自分たちで良くしていこう!というような意識・土壌が育っていくこと、また、その能力が育つことが中長期的に大事なことだと思います。

ただ、これは一つのプロジェクトだけでできることではありません。一つひとつの取り組みでのエンゲージメントの質が重要だと思います。


🎁もっと知りたい方は、古澤さんと当社代表の三谷の対談もぜひご覧ください!
日米まちづくりクロストーク:エンゲージメント(市民参加)で拓く共創型都市経営の未来とは?
第一部
第二部
第三部

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