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セロ弾きのゴーシュと秋の夜長を|極私的プレイリスト

自宅の本棚を片づけていたら、奥の方から懐かしい本が出てきました。

けっこう大きくて厚い

久しぶりに手に取ったなぁ。
むかーし両親が兄に買い与えたものを私が譲り受けたんですが、たびたびの引っ越しにも姿を消すことなくひっそりとついてきてくれたんですね。
もうそこかしこがボロボロ。

奥付を見ると1994年2月の第8刷となっています。
兄はどのくらい読んでいたんだろう。
この大全の素晴らしいところのひとつは、ページ内にこども向けの注釈や解説イラストが配置され、お話の理解を助けてくれることでした。

「銀河鉄道の夜」の一ページ

65編の童話が集められたこの本で最初に好きになったお話は、「どんぐりと山猫」と「風の又三郎」、それに「セロ弾きのゴーシュ」です。

次の晩もゴーシュがまた黒いセロの包みをかついで帰ってきました。
そして水をごくごくのむとそっくりゆうべのとおりぐんぐんセロを弾きはじめました。十二時は間もなく過ぎ一時もすぎ二時もすぎてもゴーシュはまだやめませんでした。それからもう何時だかもわからず弾いているかもわからずごうごうやっていますと誰か屋根裏をこっこっと叩くものがあります。
「猫、まだこりないのか。」

「セロ弾きのゴーシュ」宮沢賢治童話大全(講談社)より


チェロって「ごうごう」弾くものなんだぁ。
くりかえし読みながら、こども心にそんな印象を持ったのかもしれません。
チェロを弾くのは夜がいいのかな、などとも。
そういえば「セロ=チェロ」と認識したのは、どの段階だったのかなぁ。

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チェリストといっても、クラシック音楽のフィールドだけでもとんでもない人数になってしまいますので、ここは現代の大御所から。

♪ "Libertango" by Yo-Yo Ma(1997)


この、Ástor Piazzollaさんの手によるタンゴ名曲、少し前に見つけた韓国の若手音楽家グループによるヴァージョンも大変素晴らしかったです。
引き締まったアンサンブルの中でひときわ歯切れの良いチェロ。

♪ "Libertango" by LAYERS CLASSIC(2020)

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ジャズ畑でもチェロは重要な位置を占めており、プレイヤーを挙げればこれもキリがありません。
以前別記事で紹介したキューバのMartín Meléndezさんとともに、アルメニア出身のArtyom Manukyanさんに最近注目しています。

♪ "The Form" by Artyom Manukyan(2019)

ジャズを基底に置きつつ、クラシックからヒップホップまでをも自分のフィールドにしてしまう柔軟性と独自性がたいへん魅力的です。

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独自性といえばこの人たちも負けてはいない。

♪ "The Unforgiven II" by Apocalyptica(2024)

3人のチェリストと1人のドラマーで構成されるフィンランドはヘルシンキのハード・シンフォニック・バンド。
名門シベリウス音楽院在校時に結成、メタリカのコピーから始めたというのも筋金入りのエピソードですね。

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そして私の好きなソウル・ミュージック界で、チェロといえばこの方、Larry Goldさんです。
1948年生まれのGoldさんは70年代初頭、地元フィラデルフィアで設立された「フィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(以下P.I.R)」のハウス・バンドであるMFSBへチェロ奏者/ストリングス・アレンジャーとして迎えられます。

フィリー・ソウルの総本家としてP.I.Rが世に送り出した数々のヒット曲のほぼ全てで、Goldさん率いるMFSBストリングス・セクションは、スピーカーから溢れだすような弦楽器の豊かな音色を紡いできました。

ソウル・オーケストラとしてのMFSBが創り上げたビート、メロディ、ドライヴは、その後のディスコ隆盛の基礎となり、70年代中盤、契約上のゴタゴタによってP.I.Rと袂を分かったMFSBのほとんどのメンバーが移籍した「サルソウル・レコーズ」でさらにダンス・ミュージックへの先鋭化を遂げ、80年代のシカゴ・ハウス誕生の下地を作り、他方ではニュー・ジャック・スウィングへと影響を及ぼしていくことになります。

アメリカ東部を発信地としたソウル〜ディスコ〜ダンス・ミュージック・シーンで重要な裏方として長く活躍を続けてきた彼の、近年のお仕事として印象深いのは、Bruno MarsさんとAnderson .PaakさんのSilk Sonicでのブライトなストリングス・アレンジ。

♪ "Skate" by Silk Sonic(2021)


そして1978年に特大ヒットを記録したというMcFadden & Whiteheadの名曲ダンサーを、シカゴ・ハウスの創造主、故Frankie Knucklesさんの右腕だったEric Kupperさんがリミックスした一曲でも、原曲と同様に彼のスコアによる華麗な弦を聴くことができます。

♪ "Ain't No Stoppin' Us Now (Eric Kupper Classic Vocal Edit)" by McFadden & Whitehead(1978/2021)

時を経て、巡りめぐってGoldさんのストリングス・アレンジがまた注目されていることがとても嬉しいです。

後進から「ドン・チェロ(チェロ親分)」と呼ばれ敬意を受けているLarry Goldさん、これからもご活躍を追いかけていきます。


top image : geralt, Thank you for letting me borrow your wonderful works.

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