超車社会・北関東の実践から学ぶ!街路利活用のはじめかた -みちを前向きに使い倒すコツとは?(後編)
前編に続いて、後編では超車社会である北関東で街路活用のチャレンジを行っている茨城県、高崎市、小山市の取り組み紹介と、街路利活用をはじめるためのポイントを紹介します。
*本記事はマチミチ会議in北関東のパネルディスカッション内容や会場からの質疑応答から抜粋したものです。
街路=誰でもアクセスできる最も基礎的な公共空間
国土交通省都市局 街路交通施設課主査・今佐和子氏(当時)によると、「街路」とは、道路の中でも特に市街地内の道を指します。英語で言うstreetにあたります。一方で、roadは都市と都市を結ぶ道を指します。
都市を形づくる道路施設である「街路」は、誰もがアクセスできる最も基礎的な公共空間であるといいます。
ドラスティックに街路のあり方を変えたニューヨークやパリ、ヨーロッパの地方都市など世界の事例、また国内で変わりつつある街路の事例をみると、車道幅員や構成を変えなくてもできることや、様々な制度が活用されています。
国としても、もっと積極的に街路が活用できるよう後押ししたり、各地の仲間づくりを支援していきたいと語りました。
街路を自分の庭に見立てて活用する!@つくば
つくば市では市民が憩える植樹帯ワークショップが県道で実践されました。こちらの事例は、県道の道路管理者自らが活用の仕掛け人という全国でも先進的なパターンです。
つくば市の街路は、街路樹が大きく育ち立派なプロムナードを形成している反面、根上りや維持管理の課題が大きくなっています。そこで、街路樹の維持・再生計画の一貫として、植樹帯管理と場の運営を一体とした社会実験を実施しました。
社会実験では、沿道の店舗と連携し、植樹帯部分の低木を剪定したり、誰でも座れる手作りベンチを置いたりと、街路を人の居場所に変える取り組みを行いました。
沿道店舗には、街路を自分の庭に見立てて活用してもらいます。設置した際には大学がそこで授業をしたり、自転車で来た人がコーヒーを買って飲んだりと、様々な人に利用してもらえたといいます。
茨城県土浦土木事務所 道路管理課長・中嶋克寿氏(当時)は、継続的にこのような取り組みを行い、沿道の店舗をさらに巻き込みながら広がることを期待していると語りました。
オープンカフェで大事なのは、偶然性から生まれる出会いとコミュニケーションが生まれること。@高崎
高崎といえば、道路占用許可特例制度を全国に先駆けて本格的に運用し、オープンカフェを開始したことでも知られるまち。
「高崎まちなかオープンカフェ事業」は商工会議所が仕掛け人となって官民が連携して実施しており、空間形態には、道路占用型、公共用地型、民有地利用型など、様々なパターンが存在します。いずれも場所の空間特性に合わせて、様々な関係者と協議をして設置しています。
平成23年から始まった高崎オープンカフェの変遷。
オープンカフェに合わせて音楽ライブや、落語、マジックショーが行われている日もありますが、高崎商工会議所 地域振興課長・西山和久氏(当時)は「オープンカフェでの特別なイベントに来てもらうのではなく、街に来た人が偶然そのイベントを体験し、ワクワクして笑顔やコミュニケーションが生まれることが大事」と語りました。
SNSで、「座ってもいいよ」というサインを出す@小山
小山市では、「#テラスオヤマ」の取り組みが紹介されました。
実際にInstagramに載せられた#テラス小山の写真。コーヒー店の店先にも設置した歩道テラスに人が集う。
小山市では、2019年3月30日〜4月21日まで、祇園城通りで「テラスオヤマ」という街路空間利活用の社会実験を行いました。祇園城通りは小山駅と思川までをつなぐメインストリート。イベント時には人で賑わいますが、日常は人通りが少なく、閑散としていることが多い状況です。そこで、この街路のポテンシャルを最大限に引き出すため、近隣店舗と連携しながら歩道をテラスに見立てて椅子とテーブルを設置し、まちのなかに様々な「座り場」をつくりだしました。小山市都市整備部長・淺見知秀氏(当時)は、「SNSなども積極的に活用し、様々な人に「使いたい」と思ってもらうイメージづくりを心がけている」と語っていました。
道を使うことの公共的価値とは?民間と行政の協働のヒント
そもそも、「なぜ街路空間を活用しなければいけない」のでしょうか?
かつて国交省都市局で都市政策に携わっていた茨城県副知事・宇野善昌氏(当時)は、「都市の本質として、最後に残るのは"交流”ではないか」と語ります。その交流・出会いがイノベーションを起こすのであり、それは街路で起こる偶然が生み出すといいます。
また従来計画されてきたインフラとしての街路は、いかに自動車交通をスムーズに捌くかに注力してきました。しかし、宇野氏はこう語ります。
今まではまちづくりというと建物のことを考えてきたが、これからはまちにとって重要な道を考え直そうという時代になってきた。マチミチ会議というのは、まちにとって重要な要素である「道」を考えることでまちづくりを考え直そう、ということではないかと思います。
その上で、街路を利活用したい!というという想いを持つ人々へ、行政との協働のヒントを教えてくれました。
行政は単に居心地がよいという理由だけではなかなかGoが出せない。まちの公共的価値として何が生み出せるかをポイントとして議論し、きちんと評価できれば実現可能性がある。
「自分たちだけの目的のために使いたい!」ではなく、「使うことで、どんな公共的価値があるか?」「さらにその価値をどんなふうに評価し、次につなげるか?」を行政とともに議論しよう、ということですね。
Q&A①:「使われる街路」運営継続の秘訣とは?
街路を使いやすく設えても、それをマネジメントしたり、「使っていいよ」ということを最初は広く知ってもらう必要があります。
高崎市のオープンカフェでは、マップの作り方を工夫したり、店舗が街路の美化活動を行うことで占用料を減免していること等が挙げられました。また、オープンカフェに対する来街者からの評判はよい一方で、椅子やテーブルを設置する店舗側の人員不足などから設置できないことがあることも課題として挙げられました。
渡准教授からは、ある程度の温度差も許容し、目標を設定しすぎないことが自由な工夫と継続につながるという助言もありました。
Q&A②:街路を活用の許可をとるコツとは?
「現在歩道で行なっているイベントを将来的には車道も使って行いたいと考えているが、なかなか許可が下りない。」
実はこれ、全国各地の道を使いたい人の悩みです。そもそも、これまで街路は「通行する場所」であり、「滞在したり、楽しむための場所」として管理・設置されてきませんでした。そのため、まだまだ街路を使いこなすことに対する共通認識ができていません。
そのため、計画を固める前の柔らかい状態の時に事前相談をし、課題を共有して許可権者の警察や道路管理者と対立構造をつくらないようコミュニケーションを図っていくことが大事です。
計画をきっちり固めたあとだと、いきなり提案される行政や警察側は、「これまでの常識から外れている」提案にびっくりしてしまいます。まだ企画がぼんやりしている状態でも、早め早めに相談しに行きましょう。
Q&A③:「社会実験」は一過性のもので、すぐに元に戻ってしまう。長期的な見通しを知るには?
街路利活用の場面でよく使われる「社会実験」という言葉。市民から見ると、実験した後にはすぐに元に戻ってしまうように見えるため、長期的な見通しを知りたいという意見も多くあります。
社会実験は、常設を目指した社会実験は試行期間であり、周囲の環境との調和や、人がそこを訪れるようになるための検証期間です。
とはいえ、社会実験等の取り組みの目的や長期的展望を、広く周知するための施策が、実施主体には求められています。
まとめ:街路利活用をはじめるための4つのポイント
1.取り組みを継続させていくための緩やかなルール
2.継続のための資金調達の仕組みづくり
3.成果を評価し、公共性を示すこと
4.小さな取り組みから始めること
これらのポイントを積み重ね、様々な都市が互いに知恵を貸し合いながら前向きに明るく道を使い倒していけば、日本の街路は変わっていくでしょう。
様々な地域の実践ノウハウを共有することで仲間になり、また試行錯誤を重ねながら前進していく。その繰り返しによって、豊かな街路とウォーカブルなまちづくりが実現できるはずです!
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※本記事は、2019年4月16日に開催された「マチミチ会議 in 北関東」の記事を再編集したものです。
【マチミチ会議 in 北関東 概要】
日時:2019年4月16日13時〜16時
場所:小山市立生涯学習センター
主催:小山市
協力:国土交通省、茨城県、栃木県、群馬県
後援:栃木県まちなか元気会議
【プログラム】
基調講演「プレイスメイキングの理論と実践」
渡 和由(筑波大学芸術系 准教授)
パネルディスカッション
・渡 和由(前掲)
・宇野 善昌(茨城県 副知事)
・中嶋 克寿(茨城県土浦土木事務所 道路管理課長)
・西山 和久(高崎商工会議所 地域振興課長)
・今 佐和子(国土交通省都市局 街路交通施設課主査)
・淺見 知秀(小山市 都市整備部長)
コーディネーター
・大森 豊(栃木県 中小・小規模企業支援室長)