まどか

備忘録。ノンフィクションなんだか、フィクションなんだか。

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最近の記事

音楽のこと

 ふと思った。私にとって、音楽をきくことと、路線バスに乗ることは似ている、と。  私が好んできく曲はもっぱら、いい意味で陰気で、いい意味でもの悲しく、いい意味で鬱々としている。簡単にいえば——たいへん不本意な表現なのだけれど——“暗い”曲。それらをきいて、しかし落ちこんだり、ふさぎこんだりすることはない。むしろ血わき肉躍るというもの。気分が高揚し、夜でも目が冴え、なんなら想像力がすこしだけ豊かになる。  はじめて好きになった曲は、たぶん、鬼束ちひろの「月光」だった。小学生のこ

    • プールととび箱のこと

       運動が苦手だ。壊滅的、というほどでもないけれど、どう考えても不得手。なかでもプールととび箱は散々だった。クラスにひとりかふたりいる、泳げない子、とべない子。それが私だった。  ことに小学生のころ、プール開きはすなわち、地獄のはじまりだった。  そもそもあの、陰気な更衣室がいけない。みるからに埃っぽく、夏場しかひとが立ち入らないせいでうらびれており、おまけにコウモリのフンがそこここに落っこちている。プールに入るのは当然日中なので、だから更衣室のなかは、灯りをつけていなくてもあ

      • 祖母のこと

         二十歳のころ、祖母が死んだ。  春。私は大学生で、三回生になったばかりだった。ちょうどサークルの新歓コンパの時期で、コリアンタウンで新入生に昼食をごちそうする、という企画をしていたのだけれど、葬式の日と重なってしまい、参加できなかった。式のあいまに、「新入生は何人来た?」とか、「なに食べた?」とか「盛りあがった?」とか、いちいちメールできいていた記憶がある。狭い控室で親族に囲まれながら、どうにかして外とのつながりをもちたかったのかもしれないし、あるいは単純に、時間をもてあま

      音楽のこと