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隠蔽捜査3.5 初陣 今野敏

久しぶりに隠蔽捜査の続きを手に取りました。最近書店では隠蔽捜査7”棲月”がピックアップされていて、週間ベストセラーにもなったとか。最新刊でもないのになぜだろう?映画化されたのか?など考えていたのですが、調べてみると7月下旬に文庫版が発売されて、いわば新刊扱いだったのですね。
そんなブームからははるかに遅れて7のちょうど半分の3.5を購入して読みました。あんまりスピンオフ的な作品は好きではない私ですが、正直面白かったです。実は隠蔽捜査3が私の中で不発だったので、しばらく間が空いたんですが、3.5には警察小説の面白さ、今野敏が描く警察官僚の人物像のリアル感がしっかりと出ていました。

本作の主人公は、変人的合理主義警察官僚(笑)の竜崎ではなく、竜崎と警察庁の同期で小学校の同級生でもある伊丹俊太郎です。本編にもたびたび登場する伊丹は、竜崎とは優秀であるところは共通するものの、課題と向き合う姿勢は対照的です。欲も打算もあるし他人からの評価にも敏感です。

竜崎が次々と難題を解決していくのを見ると「よくもこんな男がいたもんだ」とか、現在であれば「こんな男が政治の世界にもいればなぁ」なんて思ってしまうわけですが、伊丹はその点で人間臭くて警察官僚といういわばスーパーマンではあるものの行動原理にどこか自分を投影できてしまうところがあります。「そうそう、悩んじゃうよね」「助けてほしい時あるよね」みたいな感じで(笑)。

本作は短編集の形式ですが、どのエピソードにおいても警察組織特有の融通の利かなさ、警察組織であるが故の政治家との微妙なやり取りやマスコミ対策などドラマを見るような面白さがあります。また、中年の私が読めば登場人物がそれぞれに自分の身の回りの誰かに似ているような感じがして、ちょうどよいリアル感です。

ちょうど新型コロナが流行している今だから一層リアルで面白い「病欠」。あまり面白くなかった隠蔽捜査3”疑心”の裏側を描く「試練」。そしてやっぱり竜崎が原理原則の男であるがゆえに気持ちの良い解決を見せる「静観」が私は好きでした。みなさんもきっとニヤリとしながら読み進むことができるでしょう。

いつも自説を書いては長くなってしまう本稿ですが、今回はこのくらいで。動画配信もいいけど、たまにはこんな小説片手に過ごす週末もいいですよ。私も”隠蔽捜査”活動を再開して近いうちに4巻をゲットしようと思います。


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