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昭和天皇物語1巻~6巻(連載中) 能條純一

日付を書く欄に”平成”と書き損じることがようやくなくなってきた。令和が始まり一年余りたって、ようやく令和という年号が体になじんできたような気がする昨今だ。

私が日本人でよかったと感じることの一つに我が国が元号を持っているということがある。昨今は神社に行ってでさえ様々な年号表記に西暦を用いているのを見かけるが、私としてはそれを見ると少し興ざめしてしまう。
たしかに西暦は歴史的な事実を一つの時間軸に配置できるという点で大変便利だと思う。例えば昭和天皇の誕生日は1901年4月29日であり、来年で120周年ということがすぐに計算可能である。しかしながら昭和天皇の誕生日が明治34年であると言われると即座にそれがいつなのかを計算するのは容易ではない。
それでも、四季に春夏秋冬の名前があり、その文字がその季節の気候だけでなく暮らしの移り変わりを想起させてくれるように、元号は日本人の人生の歩みを想起させてくれる。私でいえば昭和において少年期までをすごし青年期から壮年期の入り口までを平成に生きた。そして令和の時代に私の人生は続いていく。話はそれるが「戦後を再検討せず戦後的なるものに埋没してしまった平成」という私の表現の是非について論じるとき、同じ土俵で対話が可能となるのも元号があるおかげである。

さて、本の紹介に話をもどそう。

歴史とは物語である。英語で歴史はhistoryであるがまさにstoryの連続こそが歴史であるということだ。私たち人間の人生もまた物語であり、その集積こそが歴史であるともいえるわけであるが、この日本において”時代”という重みのある歴史を背負う存在の一つが天皇であろう。昭和天皇物語を読むということは、昭和天皇の人生についての物語に触れるということであるとともに、昭和という時代や日本の歴史の一部を深く知るということでもある。

今回紹介する昭和天皇物語は能條純一による漫画である。能條純一といえば「哭きの竜」や「月下の棋士」が有名で、私にとっては狂気を描くのが得意な漫画家である。そんな彼が狂気とは対極にある存在である昭和天皇をどのように描くのか気になった。

現在6巻まで刊行されている昭和天皇物語であるが、6巻の終わりの時点ではまだ昭和は始まっていない。昭和天皇の誕生から大正が終わる直前の大正14年までが描かれている。戦前から戦後への時代の転換、戦後の復興と高度経済成長など昭和が激動の時代であったことは誰もが認めるところだろうが、その時代のうねりは昭和の始まりと時期を同じくして始まったわけではない。明治後期から大正にかけて日本が駆け足で近代化しようとしたことによるひずみがいくつも重なったことや、日本が太平洋戦争という回避不能の戦いに挑まざるを得なくなる世界情勢は昭和天皇が誕生したころからすでに始まっていたといえる。

5巻では原敬の暗殺と関東大震災が描かれているが、昭和天皇の青年期は日本人が平静を保つことが難しいような時代だったのではないかと思われる。つまり、昭和天皇の生きた時代はまさに激動の時代であったのだ。そして激動の時代には狂気がはびこる。それは国民一人ひとりに宿り、政治家もに(特にこの時代においては)軍人にもその狂気の波は押し寄せる。昭和天皇も例外ではなかったはずだ。

繰り返しになるが、能條純一は狂気を描くことに長けている。そんな彼が描こうとしているのは、昭和天皇が激動の時代の狂気の波の中で、いかにして「温かい存在」であるを貫き通すことができたのかということではないだろうか。そこに焦点を当てようとすればこそ、昭和という時代ではなく昭和天皇の生涯を物語にしなければならなかったのだろう。幼少のころ誰と出合い、どのような教育を受け、何を感じ、どのように振舞ったのか。少年期におきた様々な出来事をどのように眺め、父である大正天皇や母である貞明皇后とどのような関係であったのか。こうしたことを描かずして、昭和天皇の存在を描き切ることができなかったということだろう。

いよいよ7巻からは元号が昭和に代わり、真に激動の時代に突入していくことになるだろう。6巻までにおいては昭和天皇の生涯の四分の一の期間を描いたに過ぎないので、このままいけば20巻を超える大作となるのかもしれないが、非常に楽しみだ。コミックで読みたいので連載中のビッグコミックオリジナルは見ないようにしている。

昭和49年生まれの私よりももっと昭和を長く生きた先輩たちにも、日本史の勉強をしている高校生の皆さんにも是非読んでほしい作品である。

余談であるが、強さや厳格さを前面に出した明治天皇とは反対に、昭和天皇は国民の安寧を祈る温かい存在として私たち国民を包んでくださった。そしてその精神は現上皇様を経て今上天皇陛下にも継承されているようだ。そのことに素直に感謝できる国民が多くいる限りにおいてこの国の未来は明るいとさえ思う。
天皇の存在について語ることはなかなか難しいことではあるが、先入観を抜きにしてこの作品に触れてみることをお勧めしたい。

6巻の巻末には「その凄絶な生涯を全身全霊で描く―!!!」とある。
次巻以降を楽しみに待ちたい。



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