【店づくり相談室 vol.6】ナイトタイムエコノミー
7月の訪日外国人客はコロナ前の8割の水準を回復
外国からのお客さまを街でよく見かけるようになりました。コロナ前の2019年の水準に戻りつつあるようです。観光庁が8月に発表した7月の月間の入国者数は232万人で、7月迄の累計で1,300万人を超えたようです。7月に日本から海外に出かけた人は89万人なので、訪日客数は出国者数の3倍近いということになります。注目されるのは、コロナ前には第1位だった中国からの訪日客数が、7月に2019年の同月の29,8%の水準と3分の1以下に留まる中で、訪日客数全体ではコロナ前の8割の水準に回復していることです。
地域別では北米の回復が際立つ
7月時点で2019年同月比の上昇率を国別にみると、フィリピンが+36,9%、カナダが+32,5%、アメリカが+26,7%などとなっています。北米地域からの回復が急速であり、特に足元では米国からの増加が際立っている一方、欧州地域からの訪日客の回復は概して遅れ、アジア地域からの訪日の動向はまちまちとなっています。
インバウンド需要はコロナ前の水準
観光庁が7月に発表した2023年4-6月期の訪日外国人消費動向調査によると、同期の消費額は1兆2,052億円で、2019年同期と比べて95.1%の水準となりました。訪日外国人の消費額、いわゆるインバウンド需要は、コロナ前の水準をほぼ取り戻しつつあります。訪日外国人数と比べて、消費額の回復ペースが速いのは、訪日外国人一人当たりの消費額がコロナ前よりも大きいためです。国籍・地域別の消費額では、台湾が1,739億円(構成比14.4%)とトップで、2019年同期比+23.0%と大幅に増加しています。2位には米国(1,733億円:14.4%)、3位に中国(1,515億円:12.6%)、4位に韓国(1,429億円:11.9%)と続きます。費目別に訪日外国人旅行消費額の構成比をみると、「宿泊費(35.0%)」が最多で、「買物購入額(25.2%)」「飲食費(24.0%)」と続いています。2019年同期比では宿泊費の構成比が増加し買物購入額の構成比は減少しました。
高付加価値化と地域への誘導が肝
日本も観光立国的な側面があり、たくさんの観光客を呼んで国を潤そうという方向が明らかになりました。オーバーツーリズムなどの社会問題にも発展しています。ホテルの宿泊費も値上がりしていて、東京では今まで1万円くらいだったところが2万円、3万円~4万円くらいだったところが、6万円から8万円くらいになっていて、ホテルへの宿泊も大変になってきました。外国人観光客が急速に戻る中で、宿泊先の不足や宿泊業での人手不足などボトルネックの問題も浮上しています。この対策としては、訪日客の一人当たりの支出額を増やす高付加価値戦略が重要です。円安に助けられている面もありますが、今後は、訪日客に日本の観光資源を再発見してもらう形で、持続的な高付加価値化に取り組んでいくことが重要です。さらに、訪日客に地域での観光資源を知ってもらい、より多く地域に誘導していくこともボトルネックの緩和には重要です。それは、地域経済活性化にもつながり、日本経済全体への好影響も期待されるところです。日本全国の地域の伝統やその技術が誇る産品など、価値の高いモノを訪日客に伝えるための仕組みづくりも大切です。
ナイトタイムエコノミーの充実が今後の鍵
日本が、観光立国を掲げ海外の都市と肩を並べるためには、弱みと言われているナイトタイムエコノミーの拡充が必要です。ナイトタイムエコノミーの充実は、インバウンド観光の拡大と地域経済の活性化につなげることができます。その先駆けとなる2つの事例をご紹介します。
<東急歌舞伎町タワー>の事例
新宿・歌舞伎町エリアに開業した<東急歌舞伎町タワー>。そのネーミングには、地上48階建て、高さ225メートル、総面積87,400㎡という歌舞伎町エリアのランドマークとなるシンボリックな建物であるということと、東急グループが歌舞伎町の街と共にエンターテイメントを通して新たな観光拠点を創りあげていきたいという意思が込められています。
18階から47階には2つのホテル、地下4階から地上17階にはライブホール、劇場、映画館、飲食、アミューズメント、サウナ、プールなどで構成されていて、オフィスやファッション店舗は入居しないというのが最大の特徴です。
「噴水」をモチーフとした外観は、施設周辺を水源とする川があったことや、歌舞伎町には水の女神、弁財天が祀られていることなどに由来するそうです。開業に合わせて、羽田空港と成田空港への高速バスの運行も始まり空港から歌舞伎町への直行も可能になりました。
<施設の特徴>
施設の1~5階は、エンターテインメント&レストラン。中でも特徴的なのは、2階にある歌舞伎町の次世代エンターテインメントフードホール。約1000㎡のフロアに、「日本の祭り」をテーマにした、食と音楽、映像が融合した食祭街<新宿カブキhall~歌舞伎横丁>。
今流行りの横丁スタイルの飲食施設で、ネオンやミラーボールがきらびやかに輝くフロアに、北海道から九州・沖縄まで日本全国の料理や韓国料理、丼、麺、焼き鳥、餃子など地域料理をテーマにした屋台風の飲食店10店舗が集結。ホール内のステージでは、DJパフォーマンスやカラオケ、マジックなどのイベントを開催し、飲食店街の枠を超えた体験型空間となっています。朝6時から翌朝5時まで、ほぼ24時間営業で、時間を気にすることなく、各地のソウルフードに舌鼓が打てます。
6~8階には、歌舞伎町と共に発展した、かつての<新宿ミラノ座>の名前を継承するライブエンターテインメントシアター<THEATER MILANO-Za(シアターミラノ座)>。アーティストと観客がお互いの鼓動や息遣いが感じられそうな約900席の劇場です。幅広い演出に対応できる舞台特殊設備や、可変性に優れた客席などを用意し、舞台と客席の一体感が感じられる空間設計になっています。
9~10階には<109シネマズプレミアム新宿>。8スクリーン、総席数752席を有する映画館です。先ごろ他界した坂本龍一が音響を監修し、館内音楽の制作も手がけたことでも話題となりました。客席は全席プレミアムシートで、座席の大きさは一般的なシネコンの最大約2.3倍とこれまでの映画館の常識を覆す上質な鑑賞環境とおもてなしで心ゆくまで映画の世界に没入できます。
料金は、ポップコーンとソフトドリンク(食べ放題&飲み放題)込みで、4,500円と6,500円(税込)の2種類。上質な空間での鑑賞体験としては、納得できる価格設定なのではないでしょうか。
地下1階から地下4階には、エリア最大級の1,500名のキャパシティを持つライブホール<Zepp新宿>と<ZEROTOKYO(ゼロトウキョウ)>。あらゆるエンターテインメントコンテンツを集め、クロスオーバーさせることで、これまでにない新たなエンターテインメント体験を生み出します。豪華なサウンドシステムや、最新システムを搭載し、音・光・映像がシンクロする異次元の空間を演出します。
17階は、歌舞伎町が持つ多様性が織りなす魅力とさまざまな価値観が入り混じる社交場としての機能を備えたフロア。<JAM17 DINING & BAR(ジャム17 ダイニングアンドバー)>は、エンターテインメント施設と2つのホテルとをつなぐ役割を担っています。
イタリアンスタイルダイニングやバー、ジェラートショップ、パーティールームなどが配され、開放的なルーフトップテラスや大型ビジョンも備えています。
また、東急歌舞伎町タワーをイメージして作られたクラフトジン<Ne10>(375ml/2,640円)も注目です。歌舞伎町の象徴ともいえる「ネオン」の元素記号(Ne)が名前の由来。メインの原料として使用されている植物は、江戸時代に新宿エリアで栽培され、今でも新宿の名産品である<内藤とうがらし>。ほのかなスパイシーさを感じるクラフトジンは、歌舞伎町の新しい“おみやげ”になることでしょう。
高層階には2つのホテルが入居。20~38階は、<HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel(ホテル グルーヴ シンジュク ア パークロイヤル ホテル)>。下層階のエンターテインメント施設での感動の余韻に浸ることをテーマにしたホテルで、新宿歌舞伎町の歴史やこの街で生まれ続けるアートや音楽などの文化を感じられる538室を有しています。来街者の滞在が、エンターテインメント施設や新宿の街と呼応した“高揚感に包まれるような魅力ある音楽”を意味するGROOVEというブランドにその想いが込められています。
39~47階の<BELLUSTAR TOKYO(ベルスタートウキョウ)>は、全ての客室に日本文化を感じられるアイテムが織り交ぜられ、7mのワイドビューの窓を配したラグジュアリーホテルです。45~47階には3層吹き抜けの圧倒的な眺望レストランやスパ、ペントハウスが用意され天空のプライベートヴィラへと誘います。
まさに、夜通しで遊んで、そのまま泊まるという<東急歌舞伎町タワー>のスタイルは、ディープな新宿の街をとことん満喫できるナイトタイムエコノミーを象徴する施設と言えるでしょう。
<GRANBELL SQUARE(グランベルスクエア)>の事例
衣食住遊に関するB2C事業を展開する株式会社ベルーナは、東京・銀座7丁目の複合商業施設<GRANBELL SQUARE(グランベルスクエア)>にシンガポール発の人気ナイトクラブ<Zouk Tokyo(ズーク トウキョウ)>を9月にプレオープンしました。グランドオープンは10月6日(金)が予定され、SNS上ではビッグアーティストの来日が噂されています。
株式会社ベルーナの子会社である株式会社グランベルホテルは、シンガポールのライフスタイル企業<Zouk Group>と提携し、ナイトクラブの営業に進出。ナイトエンターテインメントのレパートリーを増やし、国内外すべての顧客が満足する施設を目指します。
パートナーシップを結んだ<Zouk Group>は、ナイトライフ、エンターテインメント、飲食の各分野で事業を展開するグローバル企業。このうちの<Zouk>は、ダンスミュージックの限界を広げ、シンガポールを世界のナイトクラブ市場に押し上げたことで知られるナイトライフブランドです。Zoukとは、クレオール語で「パーティ」という意味で、カリブのフランス領の島々で生まれた、ゆったりと心地よいリズムの音楽が始まりのようです。<Zouk>は、最先端のサウンドと照明システム、一流のサービスとおもてなしで、ジャンルを問わず鮮度の高いダンスミュージックを提供しています。同グループは現在、シンガポール・マレーシア・ラスベガスにあるナイトクラブを統括していて2024年には米・ロサンゼルスへの進出も予定しています。
<GRANBELL SQUARE(グランベルスクエア)>では、4月にオープンしたスパサウナ施設<SPA&SAUNA コリドーの湯>、ホテル<GINZA HOTEL by GRANBELL>に加え、ルーフトップレストランのオープンも予定しています。グルメ・温浴・宿泊・エンターテインメントとすべてをカバーする「滞在型感動創出拠点」と位置付けられています。
この2つの事例からも訪日観光客をターゲットにした「ナイトタイムエコノミー」の普及を目指す姿が鮮明です。
これらの事例は、インバウンドに照準をあてたエンタメ型商業施設として最高のプレミアム感を感じさせる富裕層の受け皿として機能していくことでしょう。それは、「コト消費型」そして「トキ消費型」の観光拠点としてナイトタイムエコノミーに大きく寄与します。ナイトタイムは、訪日外国人にとって消費を促すポテンシャルが極めて高く、今の日本には大きな伸び代があります。さらに、地域にとっては、街での滞在時間を増やし、エリア一帯への回遊性を高めるという貢献度も高いのです。
日本が観光立国を掲げ、海外の都市と肩を並べるためには、弱みと言われているこのナイトタイムエコノミーをさらに拡充する必要があります。
日本が今後ナイトタイムエコノミーを普及させるために必要な条件
1.夜間の交通インフラ整備
安全かつ容易に移動ができるための公共交通機関やタクシーの運行頻度を増やす対策。
2.観光スポットの拡充
夜間に楽しめる観光スポットやアクティビティを増やす。夜間に活用できる居心地の良い空間を提供することで滞在時間を延ばすことができます。そのために、業種・業態ごとに店舗の役割分担を決め、夜間営業する店舗を確保することが欠かせません。
熊本県阿蘇の<白糸の滝>。熊本県平成の名水百選にも選ばれ、約20mの高さから流れ落ちる<白糸の滝>の周辺エリア一帯を色鮮やかにプロジェクションマッピングすることで幻想的な空間を創り出しています。滝の間近まで行ける白糸の滝は、近年パワースポットとしても注目されています。地域の観光協会の協力のもと観光の時間軸を引き延ばし、新たな価値を創出しています。
3.魅力的なイベントの開催
夜間に行う特別感のあるイベントやフェスティバル、キャンペーンを定期的に開催する。
卵形の球体に触れると、生き物が呼応するかのように周囲の球体が光り出す―。デジタルアートを手がける<チームラボ>が手掛けた大阪市東住吉区にある長居公園のアートスポット「ボタニカルガーデン大阪」。24万平方メートルの広大な植物園内に無数の芸術作品が配置され、夜になると植物園がデジタルアート展の空間へと様変わりします。人の動きに呼応して光や音が変化する幻想的な空間です。園内では触って楽しむ作品のほか、野鳥の動きで変化するプロジェクションマッピングなども楽しめます。木々の間に映し出した火の玉の作品は、スマートフォンのアプリケーションで持ち帰ることもできます。
4.時間帯にあわせた商品・サービスの提供
夜間に需要のある商品やサービスを開発する。特に、夜間の飲食文化を活性化し豊かにする。
出会いや交流を深める場としての夜。豊かなコミュニケーションで、日本の文化・まちづくり・観光における新たな価値を創出することができます。
5.多言語対応と情報提供
観光地や店舗での案内や看板などを多言語化し、訪日観光客に対しての情報提供を充実させる。
情報提供の方法としての多言語対応はもちろんのこと、外国人観光客にもわかりやすいサインやピクトグラムの活用はとても効果的です。
6.法整備の見直し
夜間営業に対する法整備を観光客にとって利便性がある環境づくりという視点で見直す。さらに、夜間の街歩きや観光を安全に楽しむことができる対策を強化。
これらがナイトタイムエコノミーの成長を促すための条件であり、その対応によってインバウンド観光の拡大と地域経済の活性化につなげることができると考えます。
地域独自の文化や技術を育み、そこに新たな視点を加えて進化させることで、地域に訪日客を呼び込むことができます。日本の文化に触れたい、体験したいという訪日客は数多く、円安の今はその大きなチャンスの時だと皆が考えています。訪日観光客の「限られた時間の中で、目一杯日本の文化を体験したい」という観光心理を汲み取ったナイトタイムエコノミーの具体的な施策の速やかな実行を期待しています。
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