女性研究者個人論 ~雇われる側と雇う側~ 前半


雇われる側で経験したなんとも言えない話。

「教えて!リンさん 研究者になりたいの!~女性研究概論~」というエッセイ漫画を発表しているリンです。2018年から連載を開始し、2020年年末をもって最終回を迎えました。全30話の中で多くのトピックを取り上げ、さまざまな反響や新しい人との繋がりを持つことができました。

特殊な例に注目するのではなく、できるだけ一般的な現象を取り上げ(概論)、それに対して現行の制度の紹介や自身の意見を述べるというスタイルでエッセイ漫画を発表しました。

もちろん、その中には自分自身には当てはまらないこともあったため、周りの研究者や読者の意見を参考にしつつトピックを展開しました。

今回は女性研究者個人論としまして、私自身(リンさんの中の人)が経験した実際のエピソードを紹介します。前後半に分けて、前半は雇用される側で経験した何とも言えない社会的な風潮(?)。後半は雇う側からやってしまった日本文化にありがちな意思疎通の難しさの話をしたいと思います。

前半は雇われる側のお話です。

仕事を探していた時期、アカデミアの求人情報サイトJREC-IN (5話) )を見ていたら、家から通える大学で自身の研究分野と合う研究員の公募が出ていました。

待遇としてはごくごく普通の研究員ポジションです。
フルタイム雇用。任期3年。年収は400万円程度(日給制)。厚生年金。交通費・家賃補助・各種手当無し。
条件としては悪くはないけど、特に良くもなく、といった感じでした。

3月で任期が終わり4月からの仕事を探しているタイミングで見つけた同じ分野の公募だったので迷わず応募しました。
そしたら面接に呼んでもらい、審査の結果、採用してもらえることになりました。

無職になることを覚悟していたので、ひとまず安心しました。面接の際に、他にも面接している人がいることも聞いていたし、私はその時、小さな子供がいたので「ダメならしょうがないかなー」とは思っていました。

小さな子供を抱えていた私でも公募を勝ち抜き採用されたことは嬉しかったです。これまでの研究業績が買われたのかな~?など考えていました。

その後は3年という短い任期の中で研究を進め論文を発表しプロジェクトを勤め上げ、次のステップに進むことになります。

さて、このように書くと、何のヘンテツもない普通のポスドク体験なのですが、ちょっとだけ「???」と感じたことがあったので、ここでお話してみたいと思います。


任期3年の中で、私の採用に関する雑談をボス(PI)とするタイミングが何度かありました。「どうして私をとってくれたんですか?」という質問に対しては

「研究分野に対して理解が深いこと」というのが主な理由でした。他には「コミュニケーション能力が高い」「居住地が近い」こともありました。

そして、面接で私と競合した相手の情報も何となく入ってきました。競合相手は同じ研究分野で、業績も私と同等の男性研究者でした。

はじめは同等にも関わらず私を採用してくれたことに嬉しさを感じていたのですが、「居住地が近い」というフレーズが気になりました。

こういうことだったのではないか?と思うようになりました。

決して待遇のよいポジションではないから、「遠方から男性を呼び寄せるのは申し訳ない」ということだったのではないか?

雇用主は雇用した人の雇用後の進路についてある程度責任があります。プロジェクト終了後の予算の目途もたっていない状態で、「遠方から男性を呼び寄せても責任がとれない」。「リンさん(既婚女性)なら旦那さんと子供と同居だし、仕事が無くなっても何とかなるでしょ」。

私がボスから直接これを言われたわけではありませんが、こういう発想があることは多方面で聞きます。

どういう発想があるにしても、この公募で私のキャリアは繋がりました。

逆に言えば、こういう理由でチャンスを失う男性がいることも事実なのかもしれません。

前回のレビュー(総説)でも述べましたが、どういう環境に置かれても私達研究者ができることは目の前の研究をしっかりやることです。

チャンスを足掛かりに次のチャンスを手に入れるしかありません。

ただ、「これまでの研究が評価された!」と手放しで喜べない何かがあったというお話です。

次回は雇用する側の立場での経験を書きます。

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