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青林檎

愁うように、葉がしなる。
憩うように、身を染める。
君がいればこその夕景だというのに、どうしてそれを失くせようか。

君を想えての我が身ではない。
君を失えど、僕は直に夕に馴染むだろう。
君の眠る朝でさえ、僕はきっと望めるだろう。
……その己の醜さに、どうして厭悪を抱かずにいられよう。
このどうにも拭えぬ愚鈍さを、どうして恥じずにいられよう。
夕と見紛う紅にもなれず、幸福の似合う白さえも飾れないこの曖昧な鈍色を、せめて隠せたならいいのに。

夕のよく似合う君が恨めしい。
その身が汚れのないものではないと知っているのに、
その身が美しさだけを背負えてなどいないと分かっているのに。
眩いほどに優麗な君を、せめて赤林檎と形容させてはくれないか。
それで、君を恨止まないことにさせてほしい。
それで、君を羨まないことにさせてほしい。
この爛れるような辛苦を、もう君に触れて欲しくなどないのだ。


君を好きだと言えるほどに汚れのない我が身だったなら、どんなにか。

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