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林業という産業の構造自体を変えていく。森と人と企業をつなぐ「UERUT」誕生ストーリー
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自然資本の成長と豊かな森づくりに貢献する新たなサービス「UERUT」。
運営会社である「株式会社GREEN FORESTERS」の代表取締役・中井照大郎は、UERUTを「生態系の回復につながる森づくりを進めていくためにも必要な仕組み」と話します。中井の感じている林業の課題と、そこから始まる「UERUT」誕生の経緯を聞きました。(聞き手/平川友紀)
税金だけでは豊かな森はつくれない
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ー2020年に会社を創業して4年が経ちました。ここで新たに「UERUT」というサービスを立ち上げた経緯を教えてください。
造林事業をやっていく中で大きな課題だと感じたのが、いくら頑張っても単価が上がらないという問題でした。植林は、森林所有者からの依頼を受け、国から補助金をもらってやる仕事です。そのため、簡単な現場も難しい現場も関係なく、単価は一律なんですね。実際には、場所によって作業効率が何倍も違う。全国の林業従事者は、簡単な現場や難しい現場を組み合わせながら、うまくやりくりしているんです。僕らは新規参入だったこともあって、最初は大変な現場しか回ってこなかったので、全部これならずっと赤字だと頭を抱えていました。
創業して4年が経って、だんだんとやりやすい現場ももらえるようになってきましたが、現場で頑張っている従業員の給料を上げ続けていくにも限界を感じていました。そこで、どうやったら補助金に依存しない業態にしていけるのかと考え、森づくりに価値を感じてくださる民間企業と連携していく必要があるのではないかと考えるようになりました。
民間企業との連携において最近では二酸化炭素の吸収源として売買をするカーボンクレジットがありますが、炭素吸収は多面的な価値のある森林のごく一部に過ぎません。そこに軸足を置いてしまうと本来目指すべき森のあり方からずれていってしまうのではないかと思いました。むしろ、森には生物や水を守るたくさんの価値があることを理解してもらい、それを大切にした森づくりをやっていくことが本質的に大切なのではないか。そして、そのことを評価してくれる企業や個人が僕たちの森づくりを支援する仕組みをつくることができれば、給与をしっかり上げていくことも十分可能だと思ったんですね。
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林業に従事すると決めたときから、未来につながるよりよい森をつくっていきたいという気持ちはありました。でも、現実は甘くなかった。会社の経営を考えるとそんなことは言ってられないというのが実情でした。例えば、本当に多様性あふれた森をつくろうと思えば、森を丁寧に見て、小さい芽(実生)が芽吹いているのを見つけたら、わざわざ残すように草を刈っていく必要があります。でもそれをやっていたら作業効率は半分になる。つまり倍のコストがかかるわけです。豊かな森をつくる前に会社が潰れてしまいます。だからこそ、つくりだす森の価値から逆算して支援してもらう仕組が必要だと感じています。丁寧に森づくりを行なうところもあれば、低コストでやるところもあって、現場本位でやれるとよいですよね。
ー木を植えて伐採し、製材するだけが森の価値なのではなく、森にはそれ以外にも土をつくったり、水をきれいに保ったりとさまざまな機能がある。それは、資本主義社会では重視されてこなかった価値ですよね。だからこそ、そこに対して正当な価格をつけてもらいたいということですか。
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今の経済は、自然資本にフリーライドしているんですね。僕らは当たり前に空気を吸っていますが、その空気ができていく過程で、植物が酸素をたくさんつくってくれています。魚が獲れるのはゆたかな海があるからで、畑で作物ができるのは土があるから。農作物ができるためには、蜂が媒介して受粉してくれなければなりません。生態系のピラミッドが僕らの生活を支えているんです。その巨大なピラミッドの中で人間も生かされている。けれども、それを意識せずに自然資本にフリーライドしてガンガン使って、経済をどんどん成長させてきた結果、もう将来の世代が地球で生きていけないかも、というところまで近づいてしまっているというのが今だと思うんです。
だとしたら、自然をメンテナンスする費用を誰が出すのか。それを今までは税金で賄おうとしてきたけれども「税金だけでは無理なんじゃ?」というのが、僕らが現場で感じている意見です。本来、自然は森羅万象、いろいろなところでいろいろな違いがあって、杓子定規には対応できないものなんです。でも、税金で支えられている補助金を頂いてやっているだけだと単価が一律だから、どうしても森づくり自体が杓子定規にならざるをえないところがある。
もちろん、現場では行政の担当者の方々にもそうしたことを理解し色々飲み込んだ上でなんとかやりくりしながらたくさん支えてもらってます。でも、これだけ世界は変わったのに造林補助金制度自体は1930年頃からずっと続いてきて大きく変わってない。だからといって民間から要請もないのに行政がいきなり制度を変えるのも難しい。だから、新規参入の民間事業者で背負っているものが少ない僕らこそ、その問題提起をどんどんしなければならないのではないかと感じました。
そこで僕らが、この問題に直面している当事者として、森づくり、自然との関わりのあり方を共に考えようと考えたのが「UERUT」です。
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UERUTでできること
もちろん、森づくりにお金を出すことの価値に気づいてもらわないとどうしようもないので、現場の実情を知ってもらいつつ、自然資本がどんな企業価値となって返ってくるのかを理解してもらうところからのスタートです。僕らは各企業にとっての森づくりの価値を調査して情報として提供し、森づくりのプランを提案することができます。
それこそ飲料メーカーだったら水が大切だから、工場の上流にある水源を守りましょうという話になる。通信会社なら鉄塔を立てた周りの生態系を守ることが大切です。データセンターは、大量の地下水をくみ上げて機械を冷やしているので、水源の森を守る必要があります。ひとくちに豊かな森をつくるといっても、企業が大切にしたいものによって、いろいろなストーリーが生まれます。それぐらい森の価値は多様だし、多くの経済活動が自然資本によって成り立っているということなんですね。
ー企業に支援してもらい、ともに森づくりを進める制度が「UERUTファウンダー」ということですが、UERUTには「UERUTパートナー」といって、個人で参加できる仕組みもあるそうですね。
森づくりを応援してくれた個人に対して、ふるさと納税のように返礼品として木工品を贈るのが「UERUTパートナー」です。豪雪地帯では、冬場に造林の仕事がなくなってしまうという問題があります。そこで冬の間の仕事として木工品をつくろうというアイデアは以前からもっていました。「UERUTパートナー」によって冬場の従業員の仕事を創出しつつ、いただいた応援を森づくりに生かすことができます。
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ー安定した雇用が生まれることも、造林を進めていく上で大切ですね。そしてこれならば、誰でも気軽に森づくりを支援することができそうです。個人的には、実際に森に行く機会もつくってもらいたいと思います。
それもぜひやりたいと思っています。都市部で暮らしていると、自分たちの生活がいかに自然資本の上に成り立っているかということに想像が及ばなくなるときがあるかもしれません。企業にも個人にも、自然資本の上に自分たちの事業や生活があることに気づいてもらいながら、一緒に森と関わる楽しさを広げていきたいです。
林業を自然資本全体を成長させる産業に
ー森づくりの可能性が広がりますね。中井さんは、その先にどんな未来が実現できると思っていますか。
僕たちが目指しているのは、林業を、単純に木材を生産する産業ではなく、自然資本全体を成長させる産業にしていくことです。最終的には、僕らだけじゃなく、いろいろな林業事業者や森林組合が、木材を生産しつつも、生き物や水に配慮した森づくりが勝手になされていく仕組みをつくりたい。自然が豊かに保たれることで社会がずっと続いていけるようになることがUERUTの大きなビジョンです。そういう意味では、林業という産業の構造自体を変えていくことへの挑戦ですね。壮大な話で、まだまだ先は長いと思いますが、そこを目指していきたいです!
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クラウドファンディングご協力のお願い
最後になりますが、1つご案内をさせてください。現在、UERUTでは、育林職人の職作りとして森を育てる支援を頂くと、木工製品がギフトとして届くUERUT PARTNERブランド「UERUT」を立ち上げました。
12月よりクラウドファンディングにより先行販売を開始しています。
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開始1週間で230%の達成まできましたが、まだまだネクストゴールの180万円には程遠く、皆さんのお力を必要としています。
少しでも興味を持ってくださった方は以下のリンクをお読みいただき、周りの方へのシェアや、応援をよろしくお願いします!!!
UERUT note https://note.com/greenforesters/
青葉組 website https://greenforesters.jp/