3人の子どもを育て31才で初の就活。面接で「価値がない」と言われる。
子育て女性が中心となって運営する会社の組織デザインを担当する紺野です。
私たちの会社に今月から新しいメンバーが研修生として参加しました。
彼女は31才。
うちの会社のことを知って、ぜひ働きたいというメールがきたのが2月。
音大の声楽科出身。4年間、寝食以外は自己鍛錬に打ち込んだそうですが、残念ながら天賦の才能には恵まれず、卒業とともに結婚。
すぐに子宝に恵まれ、20代の間に3人の子どもを出産し、無我夢中で子育てに全力投球。
30才になったし、下の子も保育園に通うことになったことを機に、はじめての就職活動を始め、最初の面接官に言われたのが冒頭の言葉です。
「わたしは、社会にとって価値がない存在なんでしょうか?子どもを産んで育てることって、とっても価値あることじゃないんでしょうか?」
うちの面接に来たときに、彼女のモヤモヤした気持ちを語ってくれました。
中途採用には職歴がないとダメなのか?
確かに、彼女の履歴書は、職務経歴欄が空白です。
31才だと、新卒ではないので、中途採用の扱いになります。
仕事のキャリアがないとなると、採用する企業はぐっと少ないのが現実でしょう。
なぜ、そのようになるのでしょうか?
採用する企業側から考えてみると、
会社が中途に求めるのは、その人の「CAN」の能力であって、「WILL」はその次となります。
新卒は、当然、「CAN」はないので、「WILL」重視、いわゆるポテンシャル採用になります。
新卒一括採用の日本においては、ポテンシャルで採用してくれるのは、ほぼ1回のチャンスしかありません。そのチャンスから漏れた人は、「CAN」が求められる中途の市場で判断されます。
そうすると、女性が子育てをしながら、仕事と両立できるためのモデルコースは
まず、何がなんでも新卒で会社に入り、3年~5年務めて、ビジネスの基本スキルを身に着け、
その後、結婚・出産し、一人目はなんとか育休を使って復職したとしても、二人目あたりで、両立困難で離職。
上の子が小学生になった35歳ぐらいで、その新人時代に身に着けた経歴と、学歴で限りなくポテンシャルをアピールし、中途採用枠から社会復帰するということ以外は、難しいのではないでしょうか?
そんなコースしかないのなら、誰が進んで子どもを産むでしょうか?
日本の少子化が、先進国の中でも進んでしまうのは、男性の育児参加が少ないとか、子育て女性へのサポートが少ないとか、ということ以上に、出産後に、社会復帰を妨げる中途採用の「職歴重視」の慣習ではないかと思うのです。
一括採用の弊害なのか、標準コースを踏み外すと、途端にチャンスが少なくなる今の日本では、子育て女性は、そもそも標準コースを外れる可能性が高く、安い賃金で搾取される単純労働者として、でしか社会復帰の道は厳しくなるのではないでしょうか?
「何かが間違っている」
私の中では、モヤモヤがずっと存在し続けています。
企業は、30代だろうが40代だろうが、その人の「WILL」を見抜き、ポテンシャルを発揮できるようにチャンスを与え、育てる組織デザインが必要ではないかと思うのです。
激しい競争社会の中で、そのようなコストをかけられる余裕など会社にはないというかもしれません。しかし、企業の目先の利益を追うがあまり、社会全体として間違った方向に向かっているように思えてならないのです。
うちの人事が彼女に「光る」ものを感じ、採用することを押しました。
いま、彼女に必要なのは、「きっかけ」です。
そして、わたしたちの会社では、その「きっかけ」を掴んでいただけるように、半年間の「研修生」制度を設けています。
しかし入社後の社員研修ではなく、劇団の「養成所」に近い位置づけです。社員が正規メンバーだとすると、その下部組織、いわゆる準メンバーの位置づけの組織をつくりました。
この「養成所」の組織は、職歴を重視しません。
重視するのは、その人の「Will」です。「Will」がしっかりあれば、「CAN」は会社がサポートをして養成していけばいいのです。しかし、半年後に正規メンバーになれる保証はしていません。
半年後に、本人の希望と成果で、どのような進路をとるか、再度決めるチャンスを持たせています。
冒頭の彼女は、この「研修生」に今月から参加しました。
これから、半年間、彼女は、自分をとことん見つめ直す研修をうけていただきます。ゆるぎない「WILL」を自覚していただきます。
そして、彼女の新しいスタートが切れる「きっかけ」を掴んでいただけるよう私たちの会社は全力でサポートしたいと考えています。