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いろ日記 21【7/19-7/24】 -日記小説-

ある人の ある7月の日記です。


●7月19日 「 わたあめいろ 」

ハンカチお渡しの日。
「次はどこに行きます?」という坂野さんの言葉に何も言えなかったけれど、「もう次が楽しみです」って言ってくれました。

この照れくささとは。気づくと笑っていたりして、どうにもふわふわしている気がします。


●7月20日 「 とうめいマント 」

南さんはすごい。まだ一緒に働き始めて一か月もたっていないし、南さんは毎日出ているわけでもないのですが、ひしひしとすごさを感じます。

ドラマや映画で清掃員が実は探偵だったりスパイだったりもしくは社長だったりということがよくありますが、私には到底できないと思います。でも、南さんはそうかもしれない、できるかもしれないと思うのです。

まず、もうすでに各部署の方の顔と名前をある程度知っているようで、名前を呼びかけて話しているのを何度か見かけたことがあります。私が知っているのはせいぜい数人です。
そして、人間関係まで把握している様子です。○○部長と○○係長は相性が悪く、周りが気をつかっている、とか、○○さんと○○さんは付き合っている、とか。私は誰が誰かもわかっていないわけですが、南さんは仕入れた情報を報告してくれます。私がボスかのように。
きっちり仕事はしているのに、どのタイミングで情報を仕入れているのか謎です。南さんが二人いるとか、とうめいマントみたいなひみつ道具を使っているとか、そう思ってしまうくらい不思議です。
それから、南さん、いつの間にか私のことを「さちこちゃん」って呼んでいました。別にかまわないですけど。さちこちゃんなんて呼ばれるの、いつぶりでしょう。
南さんはすごい。


●7月21日 「 真っ赤 」

ハンカチ受け取りの日。今日もありがとうございます。

その後、坂野さんと女性社員さんたちがおしゃべりしているところを見かけました。その女性の真っ赤なリップやキラキラ光る爪やアクセサリー、ブランドロゴのお財布やバッグ。そのどれもが私にはないもので、私はそれにあこがれているのかもしれないし、自分には似合わないから手の届かない遠くにあるものだって思うようにしていているのかもしれません。でも、ねたみでもひがみでもなく、本当にほしいと思っていないのかもしれません。


●7月22日 「 火花色 」

帰り際に、南さんがとんでもないことを言っていきました。
「○○さんは、坂野さんを狙ってますね。他の人の狙ってる感とは違って、一段上ですね、本気度が。」
真っ赤なリップが思い浮かんで、そうですか、そうですかと心の中で流そうと思っていたら、
「あ、でも大丈夫ですよ、さちこちゃん。坂野さんは全くその気はないので。だから仲良しグループみたいな感じでいるんでしょうね。さちこちゃんは、気にしないで。ご心配なく。」
目がチカチカしました。では、何のためにその情報を私に?
今まで、南さんの話は自分と関わりのない別世界の話だと思って聞いていたら、今日はまさか自分に向いてきました。
南さんはやっぱりとんでもない人だ。


●7月23日 「 思い出色 」

どうしようかなと悩んだけれど、坂野さんに電話してみました。すぐに出てくれてほっとしました。
「この一週間どうでした?」って聞いてくれて、南さんの話をしました。会社の方の名前をすでにたくさん知っていると話すと、「すごい!スパイか何かなんですかね?」
と言うので、私もそう思ってましたと、一緒に笑いました。
坂野さんが「よかったです。」と言うから何かな?と思ったら、「新しい方が来ることになって心配してたじゃないですか。だから大川さん、楽しそうでよかったです。安心しました。」と。気にかけてもらっていること、うれしかったです。たしかに、楽しいかもしれません。何かすごいな。

水族館、楽しかったですね。
はい。海、きれいでしたね。
ほんとに。ふと思い出しちゃいますよね。
そうやって過ぎたできごとを一緒に思い描けること、大切に思い返せること、何かすごいな。
うれしい。


●7月24日 「 なついろの光 」

今日は一日頭が重くてじっとしていました。
楽しい気分でいたからといって、同じように体調がいいわけではないのですね。
私がどうしていたって、窓の外からは元気に夏の光がさしていました。


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