毎週ショートショートnote【沈む寺】
檀家もなく廃寺となった境内は周りの樹木が伸び放題で視界を遮る格好の不法投棄場所となり、解体された家屋の廃材が次々持ち込まれた。古い家の廃柱に巣くっていた白アリは、嬉々として新たに持ち込まれた材木に生息範囲を広げていった。
地面を廃材に覆われ危機感を持ったウスバカゲロウは大量発生し、その幼虫のアリジゴクは白アリが侵食した横たわる柱の残骸にすり鉢状の落とし穴を作った。自らボロボロにした柱のかけらをアリジゴクが投げてくる。シロアリはすり鉢の底に落とされ捕食され始めた。
廃材を諦めたシロアリは新たな場所を求めてまだしっかりと立つ廃寺に移動し、その柱は徐々に侵食されていった。ようやく不法投棄者が皆逮捕され廃材が持ち込まれなくなると、微生物が残った廃材を綺麗に片づけて地面は元の砂地から肥沃な土地に変貌した。アリジゴクが巣を作るには適さない。再び大量発生したウスバカゲロウ。生き残る場所がもう廃寺の柱だけになったアリジゴクは、白アリを追って柱の中に落とし穴を作り始めた。
ドス~ン!地響きとともに寺は沈んだ。瓦が折り重なって散乱した上にツタが伸びてあたりを覆った。落ちた樹木の種が芽を出し瓦を押しのけて成長し、やがて鬱蒼とした密林となった。寺の歴史も地中深く沈んだのである。
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