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(短編) エケベリア(七福神) その3
「はい、これ」
プー太郎は、ベンオから50枚目の1万円を受け取った。
「今日の優勝で折半、完済だな」
「そういうことね」
ベンオはウインクして、ニヤッと笑った。
「さぁ、本番よ!みんな張り切って行きましょ」
ベンオのもとに集った若き才能たち。ヘアメイクや作曲家、照明のプロ。カメラマンや映像作家など、プー太郎のステージを盛り上げ、記録として見逃さず残して、優勝したあかつきには再現して皆で祝うのだ。
「さぁ、それでは、次の作品の登場です。応募テーマは(荒ぶる魂・折半の誓い)です」
(なんだそりゃ!笑わせやがる)
プー太郎の緊張が一気に解け、ステージに走り出す。歩いてなどいない。暴れている。それでいて見事な動きで、ベンオの作品を引き立て、観客を魅了して、その日、最高に会場が沸いたのは間違いなかった。
審査員特別賞。無作為に選出した観客から一番多く投票を獲得した作品に贈られる。優勝は逃したが、賞金は50万円。プー太郎に残った負債も50万。こうなったら、自動車製造の期間工として住み込みで働くのみ。ベンオは「応募するコンテストを間違えた。あの審査員たちではダメだわ」と、強気のままだ。
旅立ちの日、ベンオは駅まで見送りに来てくれた。「まだまだ、これからだからね。また会いましょ」と、見えなくなるまで手を振っていた。
それからである。プー太郎のステージがSNSに投稿され、その映像が徐々に広まっていった。海外にまで波及して、ファッション界におけるクールジャパンの代表的存在として、にわかに注目を集め始めた。プー太郎が50万を貯めて、久しぶりに再会した頃には、ベンオに世界中からデザイナーとして仕事の依頼の問い合わせがひっきりなしに来ていた。
「今日、プー太郎に合わせてくれって、映画会社の人が来てさ。私、マネージャーしてる暇ないからね。本人に電話させますって言っといたからね」
SNSと無縁の世界にいたプー太郎にとって、晴天のヘキレキとはこの事だった。
「なんだか、えらいことになったなあ」
「まだまだ、これからだよ。しっかりしなよ」
その後。
プー太郎は、織田風太郎と名乗り、若き日の水戸黄門役で時代劇役者としてデビューした。次世代のスターとして、映画会社と50年間の専属契約を結び、大谷翔平を超えたと言われるのである。
ベンオは、その後も服を作り続け、パリコレ出品を皮切りに、ファッショ界をリードする若き旗手として、世界に展開していくことになる。
あの日、プー太郎が買った宝くじは、見事に1等当選を果たしていた。しかし、気づいたのが遅く、換金期限はとうに過ぎていた。
(国庫に募金したってことだ。それで良かったんだ)
あの風来坊は、きっと本物の福禄寿に違いない。そして、ベンオは、七福神の中の唯一の女性、弁財天の生まれ変わりだとプー太郎は確信している。
(了)
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