北陸新幹線が関西を目指すには?考えをまとめておく

はじめに

北陸新幹線が敦賀まで開業し,残るは敦賀から新大阪までの開通を目指すのみ.ではあるが、問題が山積みなのは周知のとおりである。

・建設費と建設期間の問題,そもそも工事できるのか?
・沿線地域の反対

これを機に,現状の「小浜・京都ルート」ではなく「米原ルート」へ切り替えるべきだという声もある.というか,「小浜・京都ルート」をJR西日本が提唱した2016年からずっと燻っている.

このどちらのルートが良いのか?議論(?)はTwitter(現X)でもちょこちょこTLに載るが,傍から見ると小浜・京都派と米原派が延々と相手に水を掛け続ける,水車状態が実に8年続いている.

この議論(?)は今後も,なんなら着工しても続くだろうから,今のうちに私の考えを整理するためにここに記載しておこうと思う.

私の考えの要点

  1. 現時点では消極的に小浜・京都ルート支持、というか米原ルートに乗れない

  2. 東海道新幹線への合流は小浜・京都ルートであっても検討すべき

  3. まずは京都駅を目指そう

  4. 敦賀ー米原間を取り残さない対策を考えておこう

1. 現時点では消極的に「小浜・京都ルート」支持、というか「米原ルート」に乗れない

小浜・京都ルートの建設費の高さと工期の長さは周知のとおりだ.一見すると,米原ルートのほうが安いし,工期も短いのでは?というのは思うところである.
しかし,北陸新幹線の「要件」は何だろうか?「北陸と大阪を直結すること」ではないか?と考えると,現段階で大阪直通の確約が取れない米原ルートは要件を満たせていない.

リニア開業すれば東海道新幹線の本数は減るだろうし,とりあえず米原乗換でいいのではないか?といいたくなるのもわかる.しかし,私は乗換前提だと誰も得しないのではないかと思う.

・敦賀乗換があれだけ文句言われているのに,米原乗換を受け入られるか?
→米原駅は駅を県道が跨いでおり,在来線の配線も複雑,東口の元空き地も市役所が建っており,既存駅と同一レベルにスペースを確保することは難しいと考えられる.となると,西口に県道を跨ぐ高架駅を建設するか,地下駅になると考えられる.やるなら高架駅案かなとは思うが,乗換距離的には越後湯沢とか岡山のイメージか.中間改札ナシならこれらよりマシなくらいか.

・東海道新幹線側の接続列車はどうするのか?
→しらさぎに接続するひかりと,こだまを活用したいが,北陸対名古屋と北陸対京都大阪では輸送量が違うので,今の米原停車列車だけでは足りない可能性が高い.おまけに,JR東海がEX予約でものぞみとひかりに料金差をつけたり,最繁忙期ののぞみ全席指定化をやったりしているので,米原ひかりであろうと米原を跨ぐ利用が見込まれる状況.じゃあ米原停車列車増やす?それ結局東海道新幹線に影響及ぼしてるよね?どうせ影響するなら直通させてくれよ,となりそう.

米原ルートでの直通はできないとは言えないが,信号や車両の問題,ダイヤをどうするか決めなくてはならないこと(≠できないこと)が多数ある.15年後の開業を目指すなら,今すぐにでも議論を始めないといけない.特に,車両面ではE7系/W7系後継車が早くて2035年には必要になるので,それまでに信号や車両の仕様を決めなくてはならないとなると時間はない.
しかし,まず小浜を通ることを反故にする時点で揉める(小浜からすれば,関西への直結と超時短を期待してたのが吹き飛ぶわけで…)のが明白で,各当事者の言い分の調整で議論が空転して着工すらできない,というオチが見えてしまう.なので,現状では米原ルートに賭けられないのが私の考え.

2. 東海道新幹線への合流は小浜・京都ルートであっても検討すべき

小浜・京都ルートの建設費用が高いのは事実.京都駅を通る費用だけでなく,新大阪駅付近の大深度地下での建設費用も相当ウエイトを占めているのだろう.
実際,国交省が10月に提示してきた資料では,京都駅南北案が京都駅建設に20年,新大阪駅建設が25年の工期と記載されており,まずは京都駅までの暫定開業を狙っていそう.

turuhannrennrakukaigi08.pdf

現状のサンダーバードは,京都で乗降がかなり多いと言われている.その人たちにとっては乗換の解消になるし,大阪へのアクセスも新快速,はるか,東海道新幹線と選択肢ができるので現状の敦賀乗換よりはマシと判断されるだろう,という目論見であろう.(乗換の距離は伸びそうだけど…)

とはいえ,やっぱり新大阪へ直通しないと要件を満たさない.そこで,予算を抑える案として考えられるのは京都駅(南北案)から西へ伸ばし,東海道新幹線へ合流してしまう案である.

松井山手を通るのは反故にしてよいのか?とはいえ松井山手と北陸を直結する需要が多いとは思えず,松井山手に新幹線ができても京都と新大阪へのアクセス需要がメインとなろう.おまけに京都と松井山手はすでに京阪バスの直Q京都が直結しており,価格差を考えるとシフトは限定的と思われる.

であれば,地下鉄烏丸線を延伸する形で160km/h超対応の標準軌新線でも作るとか,学研都市線の改良でも考えたほうが結果的に松井山手のためになりそうである.標準軌新線のほうは何なら松井山手から南進してリニア新駅を目指せば,松井山手は京都にもリニアにもアクセスでき,実を取れそうというわけ.(こんなものに金を出すかは別問題)
直Q京都線

京都駅まで工期20年ということは早くて2045年開業,リニアの名古屋開業が早くて2034年だから,新大阪まで伸びてくるのは早くて2044年とか2049年ということになる.京都開業時点で直通できるか,数年待ってリニア開業後に直通か,別線対応かというところである.


・京都開業時点で直通可能?
リニアの名古屋開通時点では,東京名古屋間と名古屋新大阪間の輸送量差から,東海道新幹線内ののぞみは多少減便している可能性はあるが,捕らぬ狸の皮算用である.

では現状の本数レベルで直通可能か?というとやはり難しそうである.
18時台と19時台の新大阪駅のホーム使用状況を,時刻表を参考にまとめてみた.これ見る感じだと確かに1線だけ空いている時間帯はあるが,ホーム折り返しだと2本/hいけるか.引上げ線は東海道新幹線の列車でフル活用状態.ホームか引上げ線を空けるなら山陽直通を増やすか回送線を別線化して鳥飼回送を増やすかである.山陽直通を増やすと20番線の交差支障や新神戸駅の2面2線がネックだし,鳥飼回送を増やすなら新大阪駅のオペレーションはさらに複雑化する.2023年8月には新大阪駅のキャパオーバーでダイヤの大幅乱れが発生しており,新大阪駅の負荷増は不安視される.

リニアが新大阪まで伸びてきても,リニアの輸送力は1000人(/編成)×8本(/時間)=8000人(/時間)であり,のぞみ12本の半分である.であればのぞみの半数はそのまま残るし,おそらくひかりを増やしてくること,東京ー山陽区間を中心とした航空機からの転移を考えると,東海道新幹線の本数は減らないことはないだろうけど…のレベルである.輸送量が減る分荷物置き場とかビジネススペースの拡充とか言い出す可能性もあるし.

・やはりリニアが開通しないと直通は厳しい,では東海道新幹線の工事は必要?
リニア開業で東海道新幹線の本数が多少なりとも減れば,北陸新幹線(現状レベルだと最大3本/h)を受け入れる余地は出てくる.回送線にしかならない鳥飼基地と新大阪の間の複々線化は回避できそうだが,新大阪駅負荷軽減のための新大阪駅や新神戸駅の拡張とか明石市の車両基地建設とかが必要になりそう.特に,今後四国新幹線や西九州,東九州新幹線直通を考慮すると,新大阪駅の山陽側の折り返し容量の拡充はやりたいところ.これを誰の,何の名目の金でやるのかである.

3. まずは京都駅を目指そう

とにかく,北陸新幹線はまず京都駅を目指す並行して京都~新大阪の扱いをどうするか議論する.現実的レベルで話を動かすにはそれしかないと思う.とはいえ東海道新幹線との直通のためには,米原ルートの検討と同様,信号や車両の問題,ダイヤをどうするかなど決めなくてはならないこと(≠できないこと)が多数ある.早いところ,京都までの暫定開業を目指すことを決めてほしいところである.

4. 敦賀ー米原間を取り残さない対策を考えておこう

北陸新幹線が関西に到達しても,敦賀ー米原間は取り残されてしまう.これも,対策を考えなくてはならない.
乗り換えなしで名古屋に到達するプランを,いかに早く実現するかがポイントになる.一つのアイデアとしては,北陸本線の活用である.

サンダーバードが廃止になれば,北陸本線のサンダーバード迂回スジがなくなる.であれば米原ー近江塩津間は新快速+普通が最大2本/h,しらさぎが1本/h,あと貨物がたまに来るくらいになる.
…だったらしらさぎを新幹線化して,北陸本線を新幹線と在来線の単線並列にすればよくね?
敦賀ー近江塩津間はアプローチの関係で別線にするにしても,近江塩津付近か,ショートカットして余呉付近で北陸本線に合流,長浜駅を新幹線駅として田村か坂田付近で別れ,そのまま東海道新幹線本線に合流させてしまう,というもの.特に余呉付近から南はトンネルがないので,下手すればフル規格でも行ける可能性がある.
米原駅に寄ると,スイッチバック+遠回りになる上にまた米原駅の構成で揉めるので,だったら長浜で在来線に接続する代わりに米原通過でよくないか?というわけである.近江長岡や関ケ原+近江鉄道対北陸が乗換2回になってしまうけど.

ただ,名古屋方面へ直通するにしても,東京まで直通させるかはよくわからない.輸送量的に25m級なら8両編成程度で済んでしまう可能性もあり,大半が名古屋で降りるかリニアに乗り換えるか,になると名古屋止でも十分な気がする.ところが名古屋の東京方に折り返せるような設備はなく,本線を邪魔しないのなら三島まで行かないといけない.…これ,リニア名古屋開業後時点でも名古屋の折り返し設備は必要な気がするし,米原ルート論でも議論されているところを見たことがなく…どうなんだろう??

おわりに

このまま敦賀乗換が継続してもよいことはないので,少しでも話が進むことを願うばかりである.一番まずいのは,一度決めたことをひっくり返して手戻りが生じ,リカバリ策がその場しのぎになることである.

敦賀駅も,FGT構想が頓挫して急遽新幹線ホーム直下に特急ホームを作ることにしたため,高低差が大きくなったり中間改札が1か所しかないとか弊害が出てしまった.もう少し検討する時間と,予算があれば,例えば在来ホームと新幹線ホームの間に特急ホームを作って可能な限りレベルを上げ,乗換口を分散させて移動距離と人の集中をもっと減らすことはできたかもしれない.(敦賀駅に関しては,制約やコストを考慮した上では今の構造はよくまとめたと思う.将来在来線ホームを移せるようにして設備が無駄にならないよう配慮したのはすごいと思った)

プロジェクトの修正によって生じた設備制約は,ダイヤの問題,すなわち使い勝手という形で利用者に跳ね返る.せっかく作ったのに…とならないようプロジェクトを進めてほしい.


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