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空は誰のものか

空を切り取ってしまった。

東京駅を出発点に散歩をしていた時の話。
高層ビルがたくさん並び、そのガラス越しにはきらびやかなクリスマスツリーの電飾が見えた。今年のクリスマスもどうせバイトをしているのだろうとむしゃくしゃした。誰かと過ごしたいのかと問われると、そうでもないのだが。
 もう2024年も終わることを考えると、よく分からない焦燥感が自分を襲う。なんだか虚しくなって空を見上げた。すると高いビルとビルの間で歪な形をした青空が見えた。
「空が切り取られている!」
子どもが何かおもしろいものを発見した時と同じテンションで内側の自分が叫んだ。空が建物に浸食される様子は私の中に閃きを与えた。私は思わずスマートフォンのカメラアプリを起動し、シャッターを切った。


 このワクワクをもう少し考えれば、もう少し磨けば。何か良いものに変わる気がする。そう思うと、いてもたってもいられなくなった。だからこうしてメモを残しておくことにする。


 ちなみに、上の写真は帰宅途中に雲の形が素敵だなと思ってカメラに収めた。ラヴェルの『水の戯れ』が頭の中で流れた。『水の戯れ』はこの雲を見るまでは、雨やシャワーといった降り注いでお互いぶつかり、弾け合う水のイメージだった。  
 しかしこの雲はまるで、プールの底に揺らめく日の光のような雲だと感じた。風で水面がそよいで、小さく衝突しあって。その衝突に合わせて光も揺らぐ。そのイメージが膨れあがって、たまらなく、美しい。好きだと思った。
 
 『水の戯れ』のイメージがもう一個浮かび上がったことを含めて良い散歩であった。

星ノ舞


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