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風景 シーン7 洋酒とバニラとネロリの香 ∥詩

洋酒とバニラの香りがするあの人は

今日も夜の公園を探してる

電飾の喧騒を抜け

燈りのない路地を揺ら揺らと

スチームで伸ばされた真白のシャツは

華奢な体躯を闇の中

仄かに浮かばせ


黒檀の長い脚は音もなく地面を蹴る

小柄な身体に乗っかった山高帽は

夜に溶け

ウイスキーに焼けた猫毛を掻き混ぜる

そのバイオリン弾きの指は

故郷の淡雪

折れて折れて廻り廻った先

鉄骨の隙間

ただベンチだけ備えた砂地を貴方は見つけ

奥へ奥へ

台上に

くたびれた躰を放り出す

空に星は瞬かず


漆黒の視界

妖精かと見紛う白花が

虚空に新しい光を生み出す

その瞬間

一滴の夜露が地に落ちて

ネロリの香が 立ちのぼった

橙の燭燈

わたし あなたの香りと背中の残像だけで 生きていけるのに


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月階柚
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