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二見くんの日々 5 夏の雲と雷
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帰り道、自転車を漕いでいると、聳え立つ雷雲に出逢った。
全く音は聞こえてこなくて、ただ光だけを発していた。
落雷は怖いけど、夏の中にいる実感をおぼえて、
僕はノスタルジアへ飛び立つ。
クラゲを逆さにしたような、大きな雲。
傘の内に、るつぼ状の町が形成されている。
そんな妄想が浮かぶ。
雷光を捉えようとしたけれど、
やっぱり光速には追いつけなくて
写真には光の残滓だけがうつった。
花火の散り際みたいに儚い、金色の鳥みたいだ。
近くを歩いていた女子高生たちが、光を見つめながら「雷って神が鳴る、なんだよね」と話していた。
…
「そうだ、昨日雷すごかったよね。あの雲、ラピュタが中から出てきそうだった。」
翌日会った友人はこんなことを言っていた。
十人十色の感性、だけどみんなちょっと感傷的なのは夏の魔力ってやつのせいかな。
あの雲は、見ている僕らのいろんな思いを乗せて
別のどこかへ旅立っていったのだろう。
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