電波の前世記憶16

チャンスは急に巡って来た。

壁のモニターに流れていたニュース番組が何気なく耳に入って来た。この惑星から一番近い第四惑星の調査船団が隕石の影響でこの星に接近する、という話だった。

(着陸は無し、か。…待てよ?)

何も通信が通れば接触する必要性は無い。ゲイルの顔色が変わった。

その時、モニター画面がニュースから通信に切り替わった。映るグラインの顔にゲイルが叫ぶ。

「グライン、今…!」

『ゲイル、今すぐそこから逃げろ!マフィアに居場所が割れた!』

グラインの言葉にゲイルは裏口へと走った。

(何もこんな時に!)

外からの銃撃に部屋が破壊されていく。裏口から飛び出ると、そこにもマフィアが待ち構えていた。銃口がゲイルを捉えている。放たれる銃撃に、ゲイルは一瞬死を覚悟した。が。

胸を打つ衝撃に体が飛んだ。視界のすみに到着したグラインが精確な狙撃でマフィアを片付けるのが見えた。

「ゲイル!」

駆け寄るグラインにゲイルが上体を起こす。見れば銃弾がステラのくれたロケットに見事に突き刺さっている。

いくらなんでもこんなベタな。安心と呆れで体の力が抜けるグラインにゲイルが鋭く言った。

「第四惑星の調査船団がこの星近くを通過する!」

「ああ、それは知って…」

「衛星通信だ!俺は全ての有人惑星の緊急パスコードを知ってる!」

「それを早く言え!」

二人は車に乗り込んだ。

「高台の無人緊急通信台ならまだ届く、船団が離れる前に何とか汚職の情報を送り込む!」

グラインの端末にゲイルは自分の端末を繋げた。自分の端末内のマフィアの情報を全てグラインの端末に送り込んで情報をまとめる。

やがて高台に着くとゲイルは飛び降りて通信台のロックをこの惑星のパスコードで開ける。通信台は常に起動していた。圏外に出そうな第四惑星船団に通信を試みる!

『こちら第四惑星船団…』

「緊急通信です!この情報を惑星連邦本部に送信して下さい!」

データの送信時間が無限に感じた。やがて無事に送信が成功すると、二人はその場に崩れ落ちた。


通報は成功した。

惑星連邦本部から捜査のメスが入り、ジョルジュは逮捕された。マスター…いやギュンターは連邦に身柄を保護され、表舞台に立ち、事実は公表された。大規模な汚職事件は銀河を震撼させ、他の辺境惑星国家にも捜査の手が入る事になった。

銀河の法が変わったのだ。


児童施設の正門で。

ゲイルはこちらに一目散に走ってくる白髪の少女に手を広げた。

「ステラ!」

「お兄ちゃん!」

飛び込んで来た少女を抱きしめる。この感触をどれ程夢にみたか。

「遅くなった、ごめん」

「会いたかったよ…お兄ちゃん」

二人は、再会した。



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