シャーロット 彼女はその後、ジェフリーと相談した結果、ゲイルとステラ二人の存在を公に発表する。白い木の下で微笑むステラの写真をその情報に添えて。 その情報は瞬く間に銀河を席巻し、女神真教の信者は爆発的に増える事となった。政教分離に反する事だと一部のアンチから叩かれるも、彼女自体は女神真教に関わる事は一切無かった。 ジャックの存在は公には伏せた。政治や宗教に利用される事が無いようシャーロットはジャックを「実は裏で産んでいた実子」という形で養子に迎え、ジャックの人生を守った
ゲイルがレンジャーに復帰して数年が経った。 その日は、銀河連邦設立記念日だった。主星代表議員の平和スピーチの後に行われる主星連邦警察との合同軍事ショーの空軍部門のパイロットの一人として、ゲイルは参加する事になっている。あの光輝く空を護りたいと、今では防衛大臣にまで上り詰めたジェフリーに頼み込んで空軍に入って、ゲイルはエースパイロットになるまで腕を上げていた。 最後の調整も終わり、ゲイルが愛機から降りると、主星代表議員がわざわざ労いに来てくれた。 「はあいエースパイロット
「女神真教?」 「はい」 主星の空が輝いた日…ステラが消滅した日を指して、シェラが言う。 「発端は場末の女占い師が言い出した話なんですが、あの空が光輝いた日、女神の腕に主星は包まれてこの星の危機は去ったと…その噂が広まって一部のオカルティスト達が信仰しだしたらしいです」 主星の危機はトップシークレットの筈、一市民が知る由もない。空の光が謎の現象として大々的に報道されたが、ステラの存在は知り得ようも無い事だ。 「驚いた、オカルトも案外馬鹿に出来ないのかもね…」 シャ
惑星再生計画まであと3日。 ステラの願いで、ゲイル達は主星一高い展望タワーへ来ていた。 「ここからの夜景は銀河一って言われてるわ」 「?、お姉さんは来ないの?」 ジャックの問いに、シャーロットは頭を振った。 「私はここで待ってるから、お父さんとお母さんと一緒に楽しんできて」 タワーの高速エレベーターに乗り込む一家を笑顔で見送ると、シャーロットは大きく伸びをした。 「あーあ、議員の補佐なんてしてると作り笑いばっかり上手くなっちゃうわね!」 「お嬢様…」 「ねえ
その後もシャーロットは、ゲイル一家に好意的を超えて献身的と思えるほど主星の案内を続けた。 ジャックとステラが海をみたことないと言えば、海沿いの水族館に。ステラが甘い物に目がないと知れば一流ホテルのケーキバイキングに。 「この綺麗なの、全部食べ物!?」 「そうだジャック、お前チョコレートは初めてだよな、きっと好きになるぞ」 「こんなに甘えちゃって良いのかしら」 「いいのよ、私はお父様の公務補佐しかやる事無いし」 そう言うと、シャーロットは不意に真剣な眼差しになってス
早朝。 ゲイルが公邸の中庭の片隅で鍛錬をしていると、数人の男がゲイルに向かってやって来た。 「過去にNo.1のSPを倒したと聞いてな」 「俺達はレイブン議員のSPだ、ぜひとも御手合わせ願いたい」 どうやら鍛錬の相手には事欠かないようだ。ゲイルは承諾した。 「それで朝からこんなにアザを作ったの?」 呆れた様子のステラに、ゲイルはバツが悪そうに笑った。 「中々の手練れ揃いだ、結構苦戦した」 「ジャックも心配だけど、あなたも心配だわ」 「この程度のアザなら何ともな
3日後、ゲイル達は主星へと降り立った。 「不幸中の幸いだけど」ジェフリーが小声でゲイルに告げる。 「僕の交渉に従ってくれて感謝する。レンジャー主体で計画を動かせるなら、ステラちゃんの人権は守れる」 「どういう意味だ」 「連邦警察の上層部には、選民思想の強い奴が少なからずいる。そういう輩が人造人間を真っ当に扱う訳が無い。残念な話だけど」 「ステラを道具としか考えてないのか!?」 あまりの理不尽さに怒りが抑えきれず、ゲイルは言葉を荒げた。宇宙ステーション内にざわめきが
連邦警察に包囲された小屋。その中で、ゲイル達一家とジェフリーはテーブルを挟んで向かい合って座っていた。 「すまんなジェフリー、子供が泣き止まん」 「この人はお父さんのお友達よ、怖くないわ」 産まれて初めて見た親以外の人間に威圧されたのが恐ろしかったのだろう、引き攣るように泣いている。 「そうだわジャック、お客様が来たからお菓子を出しましょう、ジャックも食べるわよね?」 するとジャックがようやく泣き止んで「お菓子…食べる」とステラにすり寄った。 「じゃあ俺はお茶でも
息子が産まれて5年が過ぎた。 「お父さん、お父さん」 昼食の準備をしていたゲイルは、息子のジャックに服を引かれて振り向いた。 「なんだお前、母さん呼びに行ったんじゃないのか?」 「お母さんまた木とお話ししてる、呼んでも返事がないよ」 出産の後から、ステラはよく木に手を当てて何かを感じとるようになった。本人曰く木と同調して気持ちを読み取るらしい。時たま小型レーダーの観測より正確に自然現象を言い当てるので、冗談ではなく本当らしい。 「じゃあ父さんが呼んできてやるから待
それは、唐突に起きた。 深夜に突然、端末の電子音が鳴った。二人は何事かと干し草の寝床から起き上がる。 半分寝ぼけまなこでゲイルが端末を調べると、自動で定期的に行われているステラの生体スキャンで、異常が発生した知らせだった。 (ステラの体に異常が!?) 一瞬で目が覚めた。病気か、はたまた人造人間体である事に何が不具合でもあったのか。青くなってAIに叫ぶ。 「ステラに何があった!?」 AIが答えた。 『母体に、妊娠が確認されました』 「………は?」 二人は顔を見
「お兄ちゃんの、秘密の場所って、遠いのね…」 ゲイルが、『今度は俺の秘密を発表する!』と言ってから徒歩で2時間。息をつきながらステラは言った。 「あと少しだ、荷物持とうか?」 「大丈夫、でも、日が暮れてきちゃった…」 「いいんだ、それで」ゲイルが意味深に笑う。 「空気も澄んでるし雲も無い、絶好の発表日和だ」 「これを抜けたら目的地だ」 身長程もある草むらをかき分け、二人は進んだ。 やがて草地から抜けると、ステラの目の前にとても大きな景色が広がる。その広大さにス
「私には、秘密が足りないと思うの」 秋口になり、保存食作りを手伝っていたステラは唐突にそんな事を言い出した。 「秘密?」酸味の強い赤い果実を皮むきしていたゲイルが答える。 「そんなもん、そもそも俺達の存在自体が秘密だし、この家だって秘密基地みたいなもんだろ?」 「違うの、私だけの秘密」ステラは1つ嘆息して「秘密の無い女なんて魅力的じゃないわ」 また端末に内蔵された情報にかぶれたのか。前も女子力という謎の力を上げるとか言い出して料理がしたいと駄々をこねたし、背伸びした
『私、心が広いから待ってあげる』 ステラの言葉が頭にこだまする。 (それってつまりは待たせてるって事だよな…) 正直に言ってステラが好きだ。他の女と結ばれる事なんて考えた事も無い。だがそれをただ伝えた所でステラの心に響くのだろうか? ステラの一途さに甘えていた。ステラはずっと前から待っていたのに、それを傷つけた事はもはや取り返しがつかない。だが。 (女の子の心の掴み方がわかんねえ…) 戦災孤児からレンジャーになるまで戦闘訓練漬だったゲイルには荷が重過ぎた。 『混
明朝。 ステラが目を覚ますと、ゲイルはすでに起きて水汲みをしていた。ステラが起きた事に気づいたゲイルは血相を変えてステラの元にやって来て、体の調子を聞いてきた。股に異物感が少し残るだけで具合は悪くない事を伝えると、ゲイルは安心したような顔になった。 二人は普通に朝食を食べた。 ステラとて全くの無知だった訳ではない。 昨晩ゲイルにされた事の意味は何となく知っていた。大人の男女がする行為だ。念の為端末でも調べた。愛し合う大人同士がする事。 (愛し合う…) ステラの中に
森林地帯に夏がやって来た。 ゲイルは罠にかかった獣を解体していた。最近獣達も知恵をつけてきて、狩りにも工夫が必要になって来た。個体数が多いので獲物が取れない事は無いが、少し厄介だ。 料理はゲイルが全てやっていた。包丁代わりに使っている特殊加工ナイフはクセが強すぎてステラには使わせられない。端末で料理レシピを調べたステラが一時駄々をこねたが、ゲイルは頑としてさせなかった。指でも切り落とされたら一大事だ。 余分な油を落として乾燥ハーブと砕いた岩塩を擦り込む。この獣の肉は癖が
「どうしたもんかな…これ」 「うん…」 蜜になる樹液を採取して、煮詰めて灰汁を取る。それを布でこして容器に入れる。 結果、容器の中にがちがちの蜜の固まりが出来てしまった。逆さにしても出てこない。 「カチコチになってるわねえ…」 「煮詰め過ぎたのかな…とりあえず中から出てくんないかな…」 悩んだ末、ゲイルは容器ごと湯煎にかけてみた。すると何とか中身が出てきてくれた。顔を見合わせる二人。 「シロップを作るはずが、大きな飴が出来たな…」 「うん…」 「まあいいや、