シキ 第三章「秋日荒涼」第十話
第十話
マイクを持った川井さんがこの定期演奏会最後の曲、コンクールの自由曲の説明を始める。
「改めまして、本日はお越しくださり本当にありがとうございました。次に演奏する曲は私たちが次のコンクールの自由曲として演奏する曲です。この曲は、私たちにとってはかなり大きな挑戦になりました。何度も悩み、話し合い、練習を重ね、今日を迎えました。まだまだコンクールに向けて修正はするかもしれませんが、今の私たちにできる最高の演奏をどうぞお楽しみください。」
シキやウタ、古都ももちろんのこと、吹部の卒業生やここにいる観客全員が緊張した空気を帯びている。
そんな中、川井さんは続ける。
「お手元のパンフレットにこの楽曲の名前は記載されていないかと思います。なので、ここでこの曲のタイトルを発表したいと思います。」
タイトルは、「Snow flake city」。
シキはもちろんだが、きっとシキの代のみんなもはっとしたにちがいない。
この曲は、シキたちが作ろうとして断念した曲だったのだ。
完成させたのだ。後輩たちが。
そして、川井さんたちはこの楽曲の第一楽章として「山河、銀嶺」というタイトルをつけたようだ。
「私たちは先輩たちと出し合ったフレーズの欠片を集め、一つの楽章を作りました。これから、後輩たち、その先も続いていってほしいと思っています。」
静かにシンシンと始まった第一楽章。
指揮棒は小刻みに、降る雪のように小さく動く。
「この楽曲は山から海へ、街を抜ける雪解け水をイメージしています。」
きっと始まりは山に降る雪なのだろう。
シンシン、ポツポツ、ぽたぽた。
その後ろで灰色の空を表すような低温がピアニッシモで唸っている。
そして冬でも流れ続ける川を金管隊が音の伸びで表現。
パーカッションの木々を抜け、サーっと街へ流れ込む。
「物事には流れがあり、どこかからどこかへ受け継がれ、絶えず続きます。」
街へ入った雪解け水は人々の生活に入り込む。
リンリンと鈴の音やぽくぽくと打楽器が鳴る。足音だろうか。
そんな中でも街の細やかな角には様々な音が鳴り、雑音と言っては勿体ない雑踏を金管と木管が奏でる。
「私たちは、先輩方からこの曲を受け継ぎました。」
初めは小さな雪の欠片。
それが集まり流れとなる。
街を抜けた雪解け水は、再び集まり壮大な海へと出る。
最後にかけて一気に盛り上がり、金管と木管がメインテーマを奏でる。
ぐわーーーーっと!
最後に川井さんがまとめ、音が止んだ。
「私たちはこの曲を未来の後輩に託します。どうぞ最後まで聴いてください。」
凄かった。
曲の中で一つの物語を確実に掴めた。
シキたちが出したフレーズが使われていたからかもしれないが、それでもよくまとめ上げたものだ。
本当に感動した。
気づけばみんな立ち上がって拍手を送っていた。
シキも涙を拭っていた手を後輩たちの方へ向け、真っすぐ後輩たちを見据えて最大の賛辞と尊敬を送った。