もっとファンタジーを! 第七章「Jerk」
同時刻、小説家、黒鳥創。
気が付くと目の前には中学生?くらいの男の子がいた。しかも彼の体の周りはなんだかほんのりと光っている。
恰好は古代ローマのような恰好で、かなりボロボロだ。
「やあ、創造主君。」
そう目の前の少年は言う。
「なんだお前?」
「君は自分の能力がどういうものかわかっているんだろう?」
俺の質問に答えずに目の前の少年が淡々と言う。
「ああ。全く信じられないが実感はある。俺が作った物語を追体験させるってやつだよな?」
「うん。それ、素質だよ。」
「なんのだよ?」
「だから、創造主だって!君は僕と似たような力を手に入れたんだ!」
「ん?やっぱりお前、何者だ?」
「うーーんとね、僕はこの世界を作った、君らで言うところの”神”だよ」
「は?神?創造主…?」
そこから俺が聞いた話は衝撃的だった。
まず、どうやら本当にこの少年は神様、というかこの世界の創造主らしい。
そしてかつてはこの世界の人間たちが信仰の対象として、神として崇めていたらしい。
実際、今いるこの洞窟のようないい感じに日の入る空間も当時の人間たちが作ってくれた場所のようだ。そしてその時は「ソウ」なんて呼ばれていたという。
「あの頃は楽しかったなあ~」
「今は交流とか無いのか?」
「うん、色々あってね」
「そうか」
さらに、この「存在」は見る人によって見え方が変わるらしく、俺には少年に見えるが、信仰の対象になっている時はおじいさんに、子供と遊ぶ時には同年代に見えるなどするらしい。形を持たないあたりからも俺を含む人々の「概念」に訴えかけるなにかだということが考えられる。
「君には子供に見えるんだ」
「ああ、そうだな」
「純粋ななにかを持ってるんだね、そういう傾向にあるんだ」
さらにこの創造主はまさにこの星そのものらしく、自分のエネルギー源である「魔力」的なものを作って増やしてもらうために地球を参考にして自らこの星の生命体、そして生態系の礎を創ったらしい。
「彼らの発展が僕のエネルギーになるからね~」
そして、この創造主は地球の文明が発展していく未来が視えていたようだ。さらには人間がどうなるのかも…。
「このままだと地球人はまずいことになるよ。」
ここで俺と創造主は意見が一致した。
今のままでは地球は終わる。
文明が溢れ、便利になりすぎた結果、いたるところで重箱の隅をつつくような議論が交わされる。くだらない。
要らない営みが増えすぎている。
特に俺は田舎で育ったということもあってか自然が好きであった。なのに、ここ最近は…。溜息が溢れる毎日だ。
究極の多様性とは無関心だ。そして、もっと学を持ち、地球に寄り添えと思っている。
俺はずっと、そしてここ最近は特にそう思ってきた。
ソウと言った彼はまさに地球のそのような、人間の傲慢さ、富裕さを危惧していた。
だが、俺にはそれを解決するような大それたことをやってのけるほどの力はない。
だから、俺は自分の考えや意見を物語、ファンタジーに乗せて発信してきた。
不特定多数になにか動くきっかけの芽を与えられるようにと。
俺は一人の小さな人間。俺の小説をたまたま手に取った人に俺の考えが広まればいい。そう思っていた。
この創造主は世界を創ったが文明レベルは一定に保てるように便利さを魔法に置き換えた。そして、度々争いを起こし、協調させ、平和を保っているらしい。そしてその争いも自然災害的なもの、RPGのボスの様な危険生物の存在などであり、人間が自然を意識するようにもなっている。
これはまさに理想ではないか?
地球もこのような世界になれば、人と人は協力し、自然を想い、豊かに暮らせる。そう思えるほどの理想的な世界が彼の口から語られ、俺の足元から広がっている。
そして、目の前の創造主が言うには、俺の手に入れた能力はそれを実現できる可能性を秘めているという。
たまたま俺が小説家なので、このような力らしい。そして、能力が強くなればそれこそ小説を書くように、世界を書き換えることもできるようになるとか…。
俺は世界を変えて、世界を救えるかもしれない…!
とはいえまずはこの力を使い慣れないと無理なようなので、一度地球に戻ることになった。
元々こんな世界に来たのは赤城とかいう少年に俺の持っているような力で助けられたからだ。そして、さっきはその子の能力でないと戻れないと聞いた。
だが、この創造主は俺を地球に戻せるようだ。流石創造主。
「いや、僕もやったことは無いよ?たまたまこっちに来ちゃったアカギって子の真似事をするだけだよ。」
「大丈夫なんだろうな?」
「うん、神様だよ?」
「なんか、楽しい神様だな、色々ありがとう。またいつか。」
「うん。そのうちすぐに。呼んでくれればこっちに送るよ。」
「便利だな。」
「神様だもん。」
そう言うと俺は地球に戻された。
気が付けば俺は自分の家にいた。
一瞬、夢かと思ったが、俺の身体が能力が使えると言っているし、テレビを付けたらやはりビルは倒壊していた。
楽しくなりそうだ。
俺は部屋で自分の能力を使ってみる。
念じると背中辺りから一本の半透明な白い腕が出てくる。
これに触れた生物は俺が書いた作品の世界に意識が飛ばされ、追体験する。その間相手は無防備、という感じらしい。
確かにこの力は俺が小説家だということに起因していそうだ。
しかし、やはり世界を変えるなんて大それたことが自分にできるとは思えない。さっきはファンタジーに当てられて少し思考が尖っていたのだろうが、冷静になれば俺一人に何が出来るという思いは浮かぶ。
ただ、他の人間とは確実に異なった存在にはなった。ちょっとした愉悦の気分がないわけではない。当然だ。みんなこうなるはずだ。
俺は何の気なしにSNSに「なんか、事故に巻き込まれて強くなったかも」と呟いた。
すると。
「え、あの異能力者!?」「もしかしてヒーローって黒鳥先生!!?」みたいにファンからコメントがたくさんついた。なんなんだ!?と思ってインターネットを色々見ると、「ビルの倒壊から人々を救ったヒーローとは!?」「夕闇に霧散する光の子たち」などかなりあの件とあの後の件で盛り上がっていた。ヒーローとはあの赤城という少年だろう。そして、彼らも地球に戻ってこれたようだ。よかった。
そして、この件がここまで盛り上がっているとは思いもしなかった。
まあ、ファンタジーが現実になったとなれば私でも同じように騒いでいたはずだ。というかそれ以上だっただろう。ファンタジーを作っている人だし。
SNSのコメントには私が「ヒーロー」とか「神」と言っている人が溢れ、拡散も進んでいた。どんどんコメント、意見が付く。本当のヒーローは赤城君だが、今の状況は嬉しい。これに尽きる。少し愉悦に浸っていると、担当編集の辻井から電話が来た。
「もしもし?」
「黒鳥先生!あの投稿は本当ですか!?」
「というのは…?」
「黒鳥先生があの異能力者なんですか!?」
「うーん。どうだろうねー?」
「今から行きますからね!」
そう言われて電話は切られた。
正直、私には能力を試せるような友達的な関係の人間はいない。簡単に試せるとしたらそれこそ今から来ると言っている担当編集だろう。
すべて話して実験体に使うのはアリか…?と考える。
向こうの世界の創造主、ソウには
「次に来た時に能力を解放してあげる。でも、それまでに鍛えておいてね?じゃないと体がその力に耐えられないと思うから。たくさん練習しておいてね!」
と言われている。とりあえず能力は使ってみたいというのもあるので今から来る担当編集に使うことに決めた。
時間にして約一時間後。玄関のチャイムが鳴る。
無視していても合鍵を持っている辻井は普通に部屋に入ってくる。
「黒鳥先生、あのですね!」
そう言って入って来た担当編集に対し、いきなり能力を使う。
私の能力は自分の作った作品を追体験させる。その発動条件は私の背中辺りから出現する白っぽい半透明の左手で対象に触れること。
さあ、どうなるか。
辻井はその場に少し突っ立っていた。多分、今その追体験をしているのだろう。
今見せた作品は私のデビュー作だ。
私の能力は人数が揃い、配役を決めればその場で演劇のように物語が始まるらしいのだが、まあ使うことは無いだろう。ついでにおまけのように触れた相手の近い記憶や考えていることも少し読めるようだ。これも交友関係のほぼない私は使い道に困りそうだ。
数十分して辻井が我に返る。
「先生!今のは!?」
「僕なりの答えのつもりだが?」
「じゃあやっぱりそうなんですね…。まさか先生があのヒーローだなんて…。」
「あ、あの言われているヒーローは私じゃないよ?私は助けられた側さ。」
「え、じゃあ他にもいるんですか…?」
「他にも?たくさんいるさ!」
その後は俺が経験したことをざっくりと話した。ちゃんと他言無用と言うことを念押しして。ただ、SNSのあの投稿は賛否を分けるし面倒くさいことになりそうなので消してくれと言われたのでとりあえず消しておいた。
まあ、消したことによって逆に信憑性が増してしまうのだがね。
翌日、私のことを書いたネットニュースが拡散された。
「おい、これ見ろよ!」
「ん?作家の黒鳥創があの救世主なのか・・・?」
「え、黒鳥創って私も名前聞いたことある」
「黒鳥創は俺らの界隈じゃかなり有名だぞ」
「でも、この救世主って赤城のことだよな?なんか勘違いされてね?」
「そうだよね」
前に学校の北棟で静心と話し合っているところを入江に見られたあと、説明には苦労を要した。昼休みの終わりごろのタイミングだったので詳しい説明は放課後に延長。バレてしまったし、まあ知ってもらった方が楽だろうと話し合った俺と大輝は目の前で能力使用状態を披露。
「こういうこと」
とだけ言って急いで教室に戻った。なので、昼休みのあとの午後の授業中、気になりすぎた入江からスマホにメッセージが大量に送られてきていた。授業中にスマホをいじるのは普通にアウトなのだが、まあ、俺と大輝のいじわるによるものなので咎めることはしない。
そして放課後。
今は試験期間なので部活が無く、大輝も部活がない。そんな俺たちのクラスに入江がすっ飛んできた。
「二人とも!行くぞ!」
えらく男口調で連れ出された俺たち。引っ張られてきたのは先ほどの北棟四階。
「で!さっきの何!?」
「えーと、ですね…。」
「朱里、一回落ち着こう、な?」
「二人とも意地悪!」
とりあえず二人で入江を落ち着かせ、事情を一から説明する。
俺が消えた日のこと、能力を手に入れたこと、大輝と静心を連れて行ったら二人も能力を手に入れたこと、そしてここで静心に姿を現してもらう。そして、静心の体は今植物状態のようになっていること、今ネットで言われているヒーローは俺だということ。
終始驚いており、なんならドン引きしていた。そして静心が姿を現した時にはこの世の終わりみたいな顔をしていた。
すべて話し終わり、俺は光る右足を、大輝は発動させた装甲を解除する。
まだ受け入れられていないようだが、しぶしぶといった感じで
「妄想はするもんだね・・・」
と言った。
まあ、これで入江にもこのことを隠さなくてよくなったし、なんなら一緒に作戦に協力してもらえるだろう。
大輝も彼女に隠し事をしなくて済むし、気は楽になるだろうし。
そして次の週末。
いよいよ静心を隣の世界に連れて行ってウェンティに治してもらう作戦を決行する。
入江にはこの作戦を話してはいたが、隣の世界には連れて行かないことにしていたのでめちゃくちゃ説得した。嫌がっていたし、「仲間外れ!」なんて言われたが、能力を手に入れると確実に面倒くさいことになる。なので、一応病院付近にいてもらい、静心の家族に動きがあるかとかを見てもらうことにしておいた。
日付が変わり、各々が動き出す。
俺と大輝はあの河川敷へ直行する。
そこへ静心が自らの能力で自分の身体を運んでくる。
「よし、これでおっけーだな!」
「いよいよだな!」
「二人とも、本当にありがとうね、」
こうして俺たちは久しぶりに三人で隣の世界へ赴いた。
三人で王室につくと、たまたまウェンティが居た。
「あ!みんな!」
「ウェンティ!ちょうどよかった!」
「あ、セイシンくんを連れてきたのね!任せて!」
「ありがとう!じゃあ頼むわ!」
そういうと俺たちはアクアラング医師のいる部屋に向かった。静心の症状は今後の研究に役立つので少し見たいと言われているらしい。
「アクアラングさーん」ウェンティはそう言いながら部屋に入る。
「お、少年たち、久しぶりだね。」
「アクアラングさん、お久しぶりです!」
「セイシンくん、お久しぶり、この前は力不足で申し訳ない」
「いえいえ、謝らないでください。初めての例でしょうし、仕方ないです」
そしてさっそく軽い分析を始める。
先生が魔法を使って静心の体を見ている。
こちらの世界の分析は見た目にも簡単に行われるのでこっちとしても気が楽だ。
そしてすぐに「終わったよ」というとアクアラング医師はなにかをメモし始めた。ノートのようなものが浮いている。見たことある感じのやつだ!
そしてその後はウェンティが静心に例の魔法をかける。
すると、静心の分身がスーッと消え、本体が目を開けた。
「「静心!」」俺と大輝が声を揃えて叫ぶ。
「二人とも、戻ったよ…!」
目を潤ませてそういう静心に、俺と大輝が抱きつく。
「よかったな…!」
「本当によかった、よかった!」
「二人とも、本当にありがとう…!」
いつもは平気そうに振る舞っていた静心だが、やはり彼は一人で戦っていたんだ。
「静心、お前は強いな…!」
しばらくして落ち着き、ウェンティとアクアラング医師に軽く謝ってから次はウェンティが静心に魔力コントロールを簡単に教える。
静心はこれによって能力が強化された?というか体が戻ったことによって少し変化があったようだ。
分身体を出せる能力は変わらないようだが、「自分が起きている状態で人型の分身を操る」というものと「本体は意識を失うが、自分の意識も乗せ、形状も精度も効果範囲も広く使える」という2種類の能力になったようだ。
ひとしきり四人で喜びを分かち合った。
そして、ウェンティが祝いの意味も込めてこの世界の美味しい料理を作ってくれるそうだ!この世界での食事もなんだかんだ初めてここに来た時以来だろうか?とても楽しみだ。
ということでウェンティが研究のために借りているという城下町にある一階建ての家に向かう。
「お邪魔しまーす」そう言って入るとウェンティに笑われた。地球の文化のようだ。
「お、すげえ、道具がいっぱいある!」
「お邪魔します。うわあ、すごい部屋。」
「そんなに珍しい?」
「うん、俺たちの年代とは思えない。」
「な、こんなに勉強熱心というか研究してるなんて…」
「赤城もすごい勉強してるけどこれは越えてるかもね」
「私、次期王室賢者になるからさ、色々出来るようにならないとなのよ、」
ウェンティは凄い。俺らと年齢はほぼ変わらないように見えるのに、俺の話す地球のことをさも体験したようにあれこれと考察できるし、この前は新しい魔法で大輝や地球の人、そして静心を救ってくれた。敵わないなあ。本当に尊敬する。
ウェンティが料理をしてくれる間、俺たちは許可をもらって色々と見せてもらった。
ウェンティが魔法を駆使して料理をする様子であったり、地球では見たことのない実験器具であったり、そしてたくさんの本などを。
ただ、本は開いても字がまるで読めなかった。ほとんどの本は地球の本のように文字で埋め尽くされたり、図解によるかいせつがあったりしたが、中には前書き?のようなところ以外が白紙で、なにやら凹凸のみが記されている本があった。
「なんだこれ?」
俺がその本を開くと大輝と静心も覗き込む。しかし、なんにもわからない。
「ウェンティ、この本って何?」そう言ってウェンティのところに持っていく。
「ああ、これは魔力を流して読むのよ。複雑なものとか動きがあるものとか…地図とかは大体これよ、ちょっと見てて!」
そういうとウェンティがその本を魔法で浮かせる。
そして、手で器の様な形を作り、念じると、その中にキラキラと光る液体のようになった魔力?が溜まる。
「うわあ、すげえ…」「きれいだな…」「綺麗…」と声が漏れるほどきれいな魔力。
そして、その魔力を本に垂らす。
すると、本の凸凹の隙間を魔法が埋め、濃淡が生まれ、何かが浮かび上がる。
すべて満ちると、それが少し強い光を放ち、本の上に浮かび上がり、なにかの形を作る。
どうやらこのページは地図だったようだ。
「これは近くの森の地図よ。」
「すげえ、なんだ今の。」
「このタイプの魔法は見たことねえ…」
「その上綺麗だったね…」
やはりこの世界は面白い!もっといろいろなことが知りたくなった。
少し待つと料理が出そろう。
なにかの肉のローストビーフみたいなやつ、綺麗な褐色で新鮮な緑の野菜?が入るスープ、そして、主食と思われる焼く前のパンみたいなやつ。
どれも似ているものは知っているが見たことがないものばかり。ただし、匂いが最高過ぎるのだ。
「美味そう‼」
「やべえ!早く食いてえ‼」
「ウェンティ、料理上手いね!」
「みんなありがとう!温かいうちに食べましょ!」
「「「いただきまーす!」」」
そう言って食べ始めた俺たちをウェンティが温かい目で見ている。
「「「美味い!」」」
ウマすぎてみんな叫んだ。
「みんなの口に合ってよかったー!」
ローストビーフみたいなものは確かにほぼローストビーフだ。だが、血なまぐさい感じは一切なく、全然味わったことのないスパイスの感じが効いていて最高だ。スープも同様に知らないスパイスの感じが最高に美味しい。なんだかスペインの風を感じさせるような香りに具材を噛んだ時に滲み出てくる味は中華のようだ。そして、焼く前のパンみたいなやつは、本当に焼く前のパンだった。だが、これが先ほどの料理のどちらにも合う!なんだか餅とパンの間のような感じのそれは噛むほどに甘く、そして料理を引き立たせた。
食べながら色々なことを話し、その中で地球にも似たものがあることも話した。
「この白いやつ、置いておいてら膨らんだりしない?」発酵が起こるのか気になった。
「ああ、それは*+▽$っていうのよ」あ、久しぶりのわからないやつだ。これは仕方がない。
「これはそのまま置いておいてもなにもならないわよ?」
どうやら酵母菌の役割をする生物はいないのか?それなので、地球のパンの話をすると、「まるで魔法ね!」なんて言われた。
そんな感じで楽しく食事をした。
食事が終わり、少し落ち着く。
ウェンティがこの前のことを聞いてきた。
「そういえば、この前はチキュウでなにがあったの?」
「ああ、そういえば話してなかった。」
そして、事情を説明する。
「なるほど。そんなことがあったのね…。」
ウェンティが少し考える様子を見せる。
「あのね、アカギ、この前から少し考えていたことがあるんだ。」
「うん、なに?」
「アカギがこっちに初めて来たのって前国王が亡くなった時の魔法が次元に干渉したからって考えたじゃん?」
「うん。」
「多分なんだけど、今アカギがこことチキュウを行き来するもの、もしかしたら何かしらの影響を与えているんじゃないかなって思うの。さっき言っていた建物が壊れたきっかけももしかしたらそうかなって…。」
これは思いつかなかった。
確かに俺の能力は大きく言えば次元に干渉して移動している。次元間になにか支障をきたす可能性は大いにあるだろう。物理学は苦手なのでちゃんとしたことはわからないが。
そして、この前のビルの倒壊。
原因は様々なところで「突如として空が光った」というようなことが言われていた。
原因は俺にあるのか…?
「確証はないから私も他のみんなと色々と議論して、調べてみるけど、少し頻度を減らした方がいいのかもしれない…。」
ウェンティが寂しそうな顔をする。
なんて声をかけたらいいのかわからないし、大輝と静心もなんて言ったらいいのかわからないだろう。
しばし沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは俺だ。
「なんか、よくわかんないけど、とりあえず俺も色々と調べたりしてみる!ウェンティ、ありがとうな!」
「うん。全然。」
「とりあえず、戻るか!朝になる前に静心が戻ってないとまた別の問題が発生しちまう!」
こうして俺たちは地球に戻ることになった。
ウェンティの家の外に出て、別れを告げる。
「じゃあ、またな、ウェンティ」
「うん。…これ、持ってて。」
そういうとウェンティはネックレスの様なものを差し出してきた。
「え、…ありがとう。」
「大丈夫よ、ここからみんなの無事を祈っているから!またね、」
俺は貰ったネックレスを早速首にかけ、地球へ戻った。
地球に戻ると辺りはまだ真っ暗だった。
よかった。これで静心も安全に怪しまれずに病室に戻れる。あとは静心の演技次第だ。頑張れ!
俺たちはお互いを労い、鼓舞し、それぞれの場所へ戻った。
家に帰り、ベッドに横になる。正直、疲労がピークなので、いつでも寝れそうなのだが、少し考え事をしたい。
ウェンティからもらったネックレスを夜空に透かす。俺の部屋は南向きに窓があり、ちょうど満月が部屋を照らしている。
ネックレスは真ん中に丸い装飾品。そして、地球のものとは形状がやや違う金色のチェーンがついている。真ん中の装飾品はステンドグラスのようになっており、二人の人のようなシルエットが描かれている。片方は赤と水色のガラスに囲まれ、もう片方は緑色のガラスに囲まれている。
これ、俺とウェンティか…?
まさか手作り?ネックレスを…?と思ったが、ウェンティならそれくらい簡単に出来てしまうだろう。
はあ、なんだろこの感じ。
素直に言うなら、嬉しい。だけど、その奥にもう少しなんかある。言葉にしにくいなあ。
このデザインが早くわかっていれば、別れの時にもう少し気の利いたこと言えたのになあ…無理か。
なにが正解かなんて誰にもわかりゃしない。
その後もあれこれと考えていたが、いつの間にか寝ていた。
ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!