シキ 第二章「夏雲奇峰」第一話
第一話
夏のコンクール予選の自由曲に向けて作曲の計画が始まり早数か月が経ち、シキたちは高校三年生になっていた。
「あーーーー、ほんっっっとうにどうしよ」
シキは音楽室の机で項垂れていた。
「流石に今の段階でこれだと困りますね…」
目の前の川井さんも俯きがちになる。
シキたち吹奏楽部は曲を作ることに決めてから当然色々と話し合いを重ねた。
しかし、テーマや曲の雰囲気決まれど肝心の主メロや掛け合いなどがまとまらないのであった…。
数十人規模の部活なので意見の対立は避けられない。
だから誰かがどこかで折れないとやっていけないのだが…。うちの部員たちは思った以上に子供たちだったようだ。
そのうえまとめ役の部長も統率を取れるタイプではないしシキも積極的には前に出てはいけない。川井さんが前に出てくれようとしたこともあったが、申し訳ないし彼女もそういうタイプではないと思うので止めておいた。
結果がこれだ。
新入生歓迎会の部活動紹介の際には校歌の演奏と定演でも演奏した有名な東京の名を冠した千葉にあるテーマパークのメドレーを披露した結果今年度もコンクールの規定には足りる部員数を確保することが出来ていた。
幸い今は初心者向けの基礎蓮などを先輩がやっている関係で作曲の件は落ち着いている。
だが、当然すぐにこの問題は浮上する。
ここ最近では昼休みに音楽室に来て川井さんと相談する毎日を送っていたわけだ。
しかも最悪なことにどこかのパートの部員が新一年生に「私たち、今コンクールに向けて曲作ってるんだ~」と自慢したらしい。
それならもっとまとめてくれてもいいじゃないか!
当然シキ発案なので動きはしている。
いろんな部員に案や希望を聞いて回り、融通を効かせてくれる人はいないかと営業職のようなことを繰り返している。
だがずっと堂々巡り。イタチも逃げ出すイタチごっこ。
辟易である。
そしてまた数日。
手元には部員がやってみたいという雰囲気やフレーズが溜まっている。
手札は揃っているがなにも出来ない状態。
曲の雰囲気が「冬」「雪」ということもあり、だんだん温かくなってきても居る最近ではそもそも冬の曲を作るのは大変だった。
シキは教室でもそんなフレーズたちと睨めっこ。
このトランペットのフレーズの裏にはパーカッションのこれが合うかなあ…と朝から思索していた。
すると、前の人から回ってくるプリントに気付けなかった。
「美山さん、プリントッ」
前の席の快活な少女から言われて我に返った。
「あっ、ご、ごめんなさい…」
この日もシキは休み時間の間はもちろん、授業中にもふと気が抜けたら曲のことを考えていた。
そして昼休みにあれば音楽室で川井さんとも相談。
その時間にまとまった皆の折衷案を部活の時間に共有して、反応を伺う。
だがこの日、これらシキの努力が全て無駄になった。
部活が終わる時のミーティングの時間。
いつもは少し遠くから見ている顧問が珍しく話があると言ったのだ。
「えー、話があるんだけど、まあ、提案かな?」
部員は各々の感情を表情に出す。
「みんなが自由曲を作っているのはもちろん知ってるんだけど、流石にもう夏のコンクールまで三か月ぐらいだし、既存の曲に変更しないかな?」
部員に衝撃が走った。
「もちろん、みんなが出してくれたアイデアはこの部活に保存しておいて、もっと長い時間をかけて作り上げた方が良いと思うんだ。」
一番驚いているのは、シキだ。
「どっちにしても、そろそろ時期的に曲を決定しないといけないと思って口を挟ませてもらいました。以上です。」
流石に部員はざわついたが、半分ほどの人はすでに諦めていたようでリアクションはない。なにより、顧問の隣に立つ部長は表情一つ変えなかった。
きっと打合せ済みだったのだろう。
「じゃあ、解散」
部長の一言にみんなが動き出した。
私はまっすぐ部長の元に。
「作曲中止ってこと!?」
「うん、流石にもうね、時期的にさ」
「いきなりなんて…」
「まあ、美山さんが頑張ってくれてたのは知ってたけど、もう少し早く動けたらよかったね」
この発言の真意はなんだ?
後から思えば「自分も早めに動ければよかった」という意味合いもあるかもしれないが、この時のシキにはシキを攻める発言としてしか入ってこなかった。
そしてシキは黙って片づけを始める。
遠くからは「シキが早くやってれば」「美山さん、仕事遅かったしね」
なんて聞こえてくる。
あーーーー!
シキは黙って廊下に出て帰宅する。
シキの後を川井さんが追いかけてきていて、珍しく大きな声で「先輩!先輩のせいじゃないです!」と言ってくれた。
しかし、シキは振り返ることが出来ずにそのまま家に帰った。
ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!