おびかたるしま(帯語島)のものがたり⑤
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『3人の奮闘・ツワブキの葉①』
アマジマは、北部は平坦な台地だが、南部には高い山があり、人を寄せ付けない大自然が広がっている。
3人が目指したマテルの滝は、南部の深い山の中にある。
まともな道すらなく、頼りはガブの野生のカンのみという無謀な挑戦だった。
また、山の反対側には対立する集落があり、村人に遭遇する危険性もあったが、聖地とされるマテルの滝では、『争いごとを禁ず』の不文律があり、村は互いにそれを守ってきた。
しかし、道のりは生優しいものではない。
北側から南に分け入った3人を最初に待ち受けたもの・・・それはヒルの襲撃だった。
真夜中、満月に照らされながら、ぬかるんだ山道を急ぐ3人は、何も気にせずひたすら先を急いだ。
「ヨシ!ちょっと待て!」
一番後ろを歩いていたタケが、突然大声を出した。
「どうしたんだ!」
先頭を行くガブが、驚いて足を止めた。
「ヨシの足に何か付いてる。」
「どら、ヨシ見せてみろ!」
確かにヨシのふくらはぎには、大人の親指の長さほどの赤黒いナメクジ様のものが2匹付いていた。
ガブが急いで払い落とした。
「こりゃ〜ヒルだなぁ。」
ヨシの足から血が滲んでいた。
「俺、何も痛くないよ!」
「着物の裏を見せてみろ。」
着物の裏にもヒルが2匹付いていた。
ガブはそれを払い落としながら、タケに言った。
「タケも足を見てみろ。」
タケは慌てて自分の足を見たが、既にふくらはぎと足首に張り付いて
出血していた。
「ガブ兄!これ全然取れないよっ!」
「水の中なら剥がれやすくなる。下の小川で傷口を洗おう。」
2人が水で傷口を洗ってる間に、ガブがツワブキの葉っぱを摘んできて
2人に手渡し、
「ヒルに喰われると、血はしばらく止まらない。ツワブキの葉を手でよく揉んで、表を傷口に貼り付けろ。」
と指示した。
「貼り付ける?」
「唾をつけると貼り付く。それで血は止まる。
怪我したすぐの傷口も、膿を持った時も、全てツワブキの葉っぱと唾で良くなる。ツワブキは怪我の万能薬だ。覚えとけ!」
ガブが少し自慢げに2人に言った。
「うん!」
「ガブ兄は何でも知ってるね!」
2人が自分に頼る様子にガブは満足していた。
村では、乱暴者として疎まれる存在であっても、頼られる存在では無かった。
家族同様に接してくれる2人は、ガブにとっては兄弟のように感じられた。
『こいつらのためにも絶対マテルの滝に行く!3人で行く!』と心の中で強く誓った。
「ヨシ!タケ!ここからが本格的な山登りになる。どうだ!まだやる気はあるか?」
「俺は行く!」
「俺も行く!」
2人の変わらぬ決意にガブもつられて
「俺も行く!」
3人は大笑いした。
まもなく夜が明けようとしていた。
マテルは真上から日の差す処という意味で、その場所は夜明けと共にお日様が教えてくれる。
「とにかく、お日様と一緒に山を登るしかない。遅れるな〜!」
ガブが大声で言った。
「おおっ!」
タケとヨシがそれに続いた。
ガブを先頭に、道なき道をひたすら登っていく。
道の途中には、炭焼き小屋と、以前は使われていたであろう大きな窯跡が幾つかあった。
「俺はこの辺りに捨てられていたそうだ。」
歩きながら、ガブが押し殺すような声で言った。
「親は多分、向こうの村に住む奴に違いねぇんだが、誰も名乗り出てこなかった。お婆が『お前は、天からの授かりもの。』と言って、俺を育ててくれた。
だから、俺にとってはこの山が唯一“親とつながる場所”ってことになる。」
と、ガブは出生の秘密を明かした。
「だからマテルの滝に行くことは、親に会いに行くことにもなる。
もし会えたらどんな顔してるか・・・。待っていやがれ!」
自らの出生のいきさつを語るガブの声は震えていた。
並々ならぬ想いもそこには見え隠れした。
マレビトを助けることは、図らずも親を探すことに繋がり、
それが自分自身の助けになることを、3人の子どもはすでに自覚していた。
また、そのことが勇気と挑戦なしに遂げられぬことも・・・。
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