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おびかたるしま(帯語島)のものがたり⑦
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『3人の奮闘・ツワブキの葉③』
この島には3つの村があり、それぞれが島の豊かな資源を活かした暮らしをしていた。
南部の山を活かし、炭焼きや焼き物、木材を主とし道具を作る山の民。
山裾から平地にかけて、田んぼや畑を主とし織物を作る里の民。
海辺を活かし海苔や貝、魚を主とし物を運ぶ海の民。
3つの民は、それぞれの暮らしの違いから対立することもあり、互いの産物を交換するにも、年に一度の島の寄合での決め事無くしては儘ならない・・・という有り様だった。
互いの村を行き来できるまともな道がなく、物資などは船で運ぶしかない。それもまた、互いの交流を阻む原因となっていた。
この3つの村をどう纏めるかは、代々それぞれの村長の一番の大仕事であった。
そしてここ数年はいくさ船の度重なる出現があり、村々は緊張と不安に包まれ、村長たちも頭を抱えていた。
そんな中、外から来た怪しき者達と交流を持ち、島の産物や情報と引き換えに対価を得る村人が出始めていた。
外から影響を受けた者達は、村から離れた土地へ移住し、勝手気ままな生活を成していた。
村の決まり事を守らない移住者たちは、度々争い事の種にもなり、あらゆる策謀が巡っては、それぞれの村の暮らしに影を落とし始めていた。
ガブは、そうした中で産み落とされた孤児だった。
山の炭焼き小屋の前に捨てられていたが、纏っていた産衣が天蚕糸※で作られたものだったこともあり、「天からの授かりもの」としてお婆に育てられていた。
※野性の蚕から採れた絹の織物
高熱で床に臥せる前、村長から3つの村の実情や、島のこれからについて相談を受けたマレビトは、島の多様な暮らしに驚いた。
それぞれの村の産物や豊かな資源は、殿上人から重宝されるであろうと考えたが、これだけ都から遠い島だと、ものを運ぶことは困難だ。
何かひとつ、島の特徴を活かした優れた産物を生み出すしかない・・・と考えていた。
金や玉に変わる、優れた産物とは?
島に流れ着いて一月余り、その事ばかりを考えていた。
絹織物があったなら・・・。
絹織物は、古くから宝物として金や玉に匹敵する貴重なものであり、マレビト自身も絹織物で財と地位を築いた一族の出で、その価値は誰より良く知る存在だった。
島にクヌギの木があることから、野性の蚕が存在するのではと目星をつけていたが、それを確認するまでには至らなかった。
奇しくも、自分を助けるため奥山に入った3人の子供が、天蚕糸の繭を持ち帰ることになろうとは、そのとき思いも寄らなかった。
『天蚕糸とマテルの滝①』
岩場の奥には低木の森が続き、山はまだまだ聳えている。
足元で別れた水は、一方は村へ、そして他方は反対側の村に流れていた。
「この上にマテルの滝があるぞ!」
3人はさらに上を目指した。
やがて低木の林を包み込むように、巨木の深い森が続く。
木漏れ日が揺れ、これまでとは明らかに違う雰囲気に、3人は言葉もなく進んだ。
「あっ!蝶々がいる!」
それは、黒と白の縦縞が美しい蝶々だった。
「凄い!たくさんいる!」
タケとヨシが大声ではしゃいだ。
「こんなもんは、俺も見たことがない!」
ガブもその光景に圧倒された。
巨大な蝶のコロニーが、そこにあった。
何万匹、いや何十万匹の蝶が木の枝に折り重なるようにして翅を休めていた。
それが、無数にあちこちにある。
更に進むと、木の葉に薄緑の繭玉が沢山見えてきた。
「これが、天蚕糸か!」
ガブは懐かしそうにそれを手に取った。
「てんさんし?」
「山繭とも言うらしい。俺はこの織物で包まれて、捨てられていたそうだ。」
「綺麗だなぁ!」
タケとヨシが覗き込んだ。
「俺は中の醜い蛾ってとこよ。」
「違うよ!ガブ兄は、優しいし何でも教えてくれる。父みたいな人だ!」
「そう言ってくれるのは、ヨシとお婆ぐらいだ。」
「いや!俺もいるよ!」
タケが言った。
「よし!繭玉を持って帰ろう!」
照れ隠しに、ガブは繭玉を取り始めた。
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