![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/93194621/rectangle_large_type_2_8f52f382c84f3abbcae6792017df9768.jpeg?width=1200)
おびかたるしま(帯語島)のものがたり⑥
■プロローグはこちら👇
■前回の記事はこちら👇
『3人の奮闘・ツワブキの葉②』
朝陽が優しい木漏れ日となって、3人の足元を照らし始めていた。
その光に向かい、ひたすら山道を登っていった。
しばらくすると突然視界が開け、大きな岩が重なり合う岩場の坂道に出た。
「これで身体を繋ぐんだ。」
ガブはヨシから預かった、父の麻縄を自分の身体に括り付け、残りの部分を2人に渡した。
ヨシとタケも同じように身体を括り、3人は麻縄で繋がった。
ガブはそれを確認すると、朝露に濡れた滑りやすい岩場を、一層力強い足取りで進んでいった。
「まだまだ途中だぞ!気を抜くな!ヨシ、寝るな!タケ、しっかり前のヨシを見てろ!」
ガブは大声で2人を励ましながら、自分自身にも言い聞かせていた。
岩場は朝露に濡れ、輝いていた。
優しい光が差し込む朝靄の中、3人はしっかりと父の麻縄で繋がり、右へ左へそして上へ、手も脚も五体の全てを使って1歩ずつ歩みを進める。
そして3人の目の前に、難関の大岩が現れた。
「ここは、1人1人で登るしかない。」
3人を繋いだ麻縄を外し、ガブが先に大岩を登った。
大岩は岩の割れ目に手を掛けて登る難所で、ひと1人がやっと通れる程度の幅しか無い。
ガブは大岩の上にある大木に、麻縄を括り付けた。
「ヨシ!上がってこい!下を見るな!父の麻縄が守ってくれる!ほら!」
ガブは励ましの声を上げると、大岩の上から麻縄の端を投げた。
タケはそれでヨシの身体をしっかり括った。
「ガブ兄いいよ!」
タケは、上にいるガブに大声で合図した。
『父が守ってくれる。上にはガブ兄が、下にはタケ兄がいる。
お母っ行くよ!』
呪文のように言葉を唱えながら崖を登った。
ヨシは自分の置かれている立場がよくわかった。
『これを登らないと2人に迷惑をかける。いや、絶対にマテルの滝へ行くんだ!』
ヨシにとっては、まさに命懸けの挑戦である。
ガブは大岩の上から、目一杯の力でヨシを引っ張りあげようと、奮闘していた。
「ヨシ!頑張れ!あと少しだ!」
ガブが声をかけたその時、麻縄が岩で擦り切れ、ヨシの身体が岩にぶつかった。
「あぶないっ!!」
ガブとタケが叫んだが、ヨシの身体は、うまく岩の隙間に挟まった。
「父!自分の力で登れということだね!わかった!登るよ!」
ヨシは独り言をつぶやいた。
そのとき、頭を撫でるように風が吹き抜けた。
「ガブ兄!俺、自分の力で登ってみるよ!」
そう言うとヨシは、小さな身体で1歩1歩バランスを取りながら、ゆっくりと岩場を進み、見事に自分の力で登り切った。
流石のガブもこれには驚いた。
「お前は、口ばっかりの大人どもと違うとこをみせたなぁ!今からヨシ兄だ!」
しばらくしてタケが登ってきた。
「お前ら兄弟は凄いなぁ!」
ガブが改めて2人を褒めた。2人は誇らしげな顔で笑った。
「さあっ!あと少しだ。」
大岩の上では、水が2方向に流れている。3人は更にその上を目指した。
「ちょっと待って!」
ヨシはそう言うと、懐からツワブキの葉を取り出しよく揉んだ後、ペッと唾をかけて擦りむいた膝に貼った。
「そうそう!それでいいんだ!」
ガブも岩場で擦りむいた自分の肘にツワブキを貼り付けながら、満足げに言った。
タケはそんな2人を横目に、
「俺も怪我すればよかった・・・。」
とつぶやき、ヒルにやられたふくらはぎの
ツワブキを貼り替えていた。
■続きの記事はこちら👇
おびかたるしま(帯語島)のものがたり⑦|岩城安宏(Yasuhiro Iwaki)|note
■前回の記事はこちら👇
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ZXYA(ジザイヤ)のブログページはこちら👇
ZXYA(ジザイヤ)|note