ワイルドベタの跳び出し対策
ワイルドベタ(原種ベタ)を飼育していてきわめて多い死因のひとつが「水槽からの跳び出し」です。
各種病気、魚同士のケンカ、ヒーターが暴走して煮てしまった、などは気をつけて対策を取れば減らせるものの、起きるときは起きてしまいます。ただし、跳び出しだけは工夫次第で「完全に」「確実に」防ぐことができます。
跳び出しを防ぐには脱走経路を全部ふさぐこと
工夫といってもやることは単純で、魚が水槽から逃げ出せないようにするだけです。
ただし「物理的に絶対出られない」という部分が決定的に重要です。ベタ(原種ベタ、ワイルドフォーム)に関しては、下記に挙げるような一般的な熱帯魚の跳び出し対策をしていても跳び出されたという経験談が山ほどあります。もう一度言いますが山ほどあります。僕も昔はやりました。
不十分な(と個人的に思う)対策の一例
跳び出しにくいように水位を下げた→跳びます
跳び出しにくいように水槽のコーナーや壁沿いをカバーした→真ん中からでも跳びます
ガラスやプラスチックのふたをしたが、切り欠きや餌やり穴はそのまま→切り欠きから跳びます
切り欠きや餌やり穴にスポンジを詰めた→スポンジを跳ね飛ばします
切り欠きや餌やり穴にエアチューブやヒーターのコードを通しているので大丈夫だと思った→すき間を抜けて跳びます
水合わせ中にフタが甘かった、ズレた→当然跳びます
メダカやカラシンやコイなどの遊泳性の魚の多くやハチェットやデルモゲニーなどの魚も、びっくりした時や争った時には水中の脅威から逃げるような形で水槽から跳び出てしまいます。
それに対してベタをはじめとした一部の魚は、水面より上にあいた穴やすき間をめがけ、明らかに狙って跳ぶことがあります。それも、ヒレをたたんだ状態で魚体がギリギリ通るくらいのすき間があれば楽勝で、たとえそのすき間が水面より10cmほど上にあっても、抜ける時は抜けてしまいます。
魚の跳び出し対策というよりは、壁を登る能力を持った昆虫(たとえばG)を飼うつもりですき間を塞ぎましょう。
具体的な方法―自作フタの仕様
この記事では、うちで採用しているトリカルネット製フタをオススメとして紹介しておきます。
ハサミなどで切れるプラ板を買ってきてぴったりのフタを自作する、すき間を大きめのスポンジなどでかなりキツめに塞ぐ、ステンレスの金網を曲げて作るなど、工夫のしようはいろいろあります。ただこの場合、何かの拍子にフタがズレたり、スポンジを詰め忘れたりには注意が必要です。
うちでは餌やりや水換えの際に便利で、そして何よりヒューマンエラーのデパートみたいな粗忽者の僕が閉め忘れにくいという点を考慮し、画像のような自作のフタに落ち着きました。
これの良いところは
・物理的に魚が跳び出るすき間がない
・重量的にも、大型ベタくらいの魚には吹っ飛ばせない
・ズレない。吹っ飛ばされてちょっと浮いても自然に閉まる
・粒餌なら上から撒ける
・水槽用ファンが使える(効果はやや弱まる)
・サビない
・壊れにくい。耐久性も高い
・ハイターにドボンできる
などいろいろあります。
一番の利点は飼育者のミスもふくめて、跳び出るすき間が発生する可能性がほとんどゼロだという点でしょうか。餌やりはフタをしたままできますし、水換えはフタを浮かせてチューブを差し込むので、チューブを引き抜けば自然とフタは閉まるというわけです。
こんな風に、隔離カゴ(ダイソーで虫かごとして売られているもの、通称”宇宙船”)をビニタイなどで網目の好きな位置に吊り下げることも可能。これ地味に便利です。
反対にデメリットとしては
作るのは難しくないが手間がかかる
意外と材料費がかさむ
照明が少し減光してしまう
見た目がお洒落でない?
などが考えられます。
よく跳ぶ魚の場合、ネットに擦れて口先が傷んでしまったりすることもありますが、個人的にあまり柔軟性のないプラブタやガラスブタに激突するよりマシなのかなと思っています。
具体的な方法―自作フタの作りかた
材料は「トリカルネット」と呼ばれる園芸資材とインシュロック(結束バンド)だけです。
トリカルネットは、いわゆる「鉢底ネット」などの名称で売られているポリプロピレン製のネットです。細かく切られたものもありますが、水槽のフタをつくるのですからカット前のロールから切り売りしているタイプがいいでしょう。園芸資材に強いホームセンターであればまず間違いなく取り扱いがあります。
できれば、下の図のBの部分は最も一般的な細かい目合のタイプ(鉢底ネットとしてよく売られているタイプ)、Aの部分はそれよりも粗い目合(7mmくらい?)のタイプを使うと、餌やりの際(特に生き餌や冷凍の赤虫をやる際)に便利です。Bを粗い目合にしてもよいのですが、やや価格が高いのと、柔軟性に欠けるため仕上がりがゆがみやすくなるのとで、僕は細かい目合のものを使います(好みです)。
作り方は、AとBをインシュロックで留めて箱型に組むだけです。インシュロックを留める間隔は4cm−5cmくらいが適当でしょうか(この間隔があまり長いとすき間が空いてしまいます)。Aのサイズは当然水槽の天面に合わせるわけですが、ギリギリではなくわずかに大きめに作るのがコツです(ギリギリで水槽にはまらないと、ムダなものが出来上がってしまい心が虚無になります)。Bの幅は2−3cmくらいが良いと思います。マクロストマ(Betta macrostoma)やベリカ(Betta bellica)の超大型個体など力が強い魚を飼う場合、B の幅をもっと広めにとって深めのフタにするとより安心です。
インシュロック(結束バンド)はたいていのホームセンターの電機資材コーナーにあります。いろいろなサイズがありますが、この水槽フタを作る場合は最も短くて細いもので十分です。紫外線劣化に強い黒が良いでしょう。百均でも小分けで売っていますが、他の工作物でもよく使うので、うちでは毎回1000本入りを買っています。
どの程度きれいに組むかには性格が出ますが、機能にそれほど差が出るわけではないのでお好みで。
万一跳ばしてしまったら…
趣旨とはちょっと外れますが。
水槽内に魚がいないことに気づいたら、まず可能な限り探します。
空気呼吸ができて筋肉も強い原種ベタは、びっくりするくらい離れた場所から見つかることもあります。うちで過去に飼育していたベリカ(Betta bellica)は、水槽から逃げて4mくらい離れた場所に放置してあったバケツ(水が入っていた)にホールインワンして何食わぬ顔で泳いでたことがあります。
もとの個体の体力や種類にもよりますが、空気呼吸のできるベタは皮膚が少し乾いたくらいになっても生きていることがあります。飼育水を薄く張った容器に、あればアクアセイフなどの粘膜保護剤をちょっとたらして、弱めにエアレーションして様子を見ます。
もし回復しそうなら、水はできれば半日に1回くらい取り替えます。
おまけ:跳び出しやすいベタ、跳び出しにくいベタ
ワイルドベタ(原種ベタ)なら、基本的にどの種類も跳ぶ可能性があると考えておいた方がいいです。
改良種については守備範囲外なのでよく分かりません。
個人的に思う跳び出しやすい(というより脱走が得意な)ワイルドベタのNo.1はベリカグループのベタ(B. bellicaやB.simorum) です。長い大きな体をくねらせてとんでもない高さを跳び上がるし、頭が小さいせいかガタイのわりに小さなすき間を抜けてしまいます。幸いレスキューできましたが、僕も複数回逃しています。
ユニマクラータグループのベタ(B. unimaculataやB. pallifina、B. patoti、B. ocellataなど)も、それに次ぐくらいよく跳びます。
反対に、跳び出しの心配がほぼないのが1.5cmくらいまでの幼魚。理由は単純で、このくらいの大きさだとなかなか水の表面張力を破れないので、そもそも水面から跳び上がることが難しいのです。これは種類にかかわらずです。
さいごに
僕の方法を紹介させていただきましたが、伝えたいことはふたつ「ワイルドベタ(原種ベタ)は跳ぶぞ」ということと「対策はしっかり、後悔先に立たず」です。
飼育者のスタイルによって最適な対策は違うと思います。先に言ったように僕はドジなので、そもそも失敗が発生しにくい方向で対策を考えています。
紹介したフタの制作は、作業自体は単純なのですがけっこう時間がかかるので、自分のところでも作ろうという方は深夜ラジオでもおともにしながらのんびりやってみてください。
(お金を出してでも欲しい!という要望があれば制作も考えますが、そもそも材料費がそんなに安くないので安くはなりませんし、技術的には誰にでも作れるので自作をオススメします)
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