アーティストの作る住空間
「正直なところ、プレッシャーは大きかったですね。」これは、アーティストインタビュー第3回の現代美術家の栗棟美里さんが、住宅の一室「窓月の間」の内装依頼を受けた時の正直な感想です。
「窓月の間」というのは私の自宅の一室です。栗棟さんの展示を何度か観ているうちに、この人に家の中の空間を作ってもらったら面白いかもしれないというのは漠然とアイディアにあって、栗棟さんにも半ば冗談で、その時はお願いしますと伝えていたのですが、思っていたより早く実現することになりました。
今回のインタビューで、栗棟さんには、展示の際の空間づくり、そしてそれを住空間に適用させていく上での、プロセスについて詳しく聴きました。実際に出来上がった空間に対し、第1案、第2案として提案されたものは、何か空間としてピンと来ないというか、第1案はちょっと盛り込みすぎな感じで空間として落ち着かないような気がしたので、もう少し「日本的な和」的な感じというリクエストを伝えました。それを受けた第2案はむしろ、栗棟さんの作家性が出ていない感じが強かったので、その旨をお伝えしました。
インタビューでも語られてますが、そこから栗棟さんが次のアイディアを纏めるまでに相当悩まれたようで、ブレイクスルーは、依頼主でもある私との会話でのフレーズだったそうです。実は興味深いと思ったのは、そのフレーズではなく、あらゆる素材を逃さず、アイディアの源とせんとする栗棟さんの姿勢でした。その上で出された最終案は、これまでの案とは明らかに統一感が違うものでした。
「窓月の間」は、昨年完成後、私と栗棟さんの友人限定で公開し、これまでに60人位の人に観てもらいましたが、皆さんからとても落ち着く空間だというコメントを貰いました。それが何故なのか、その秘密はどこにあるのかについて、栗棟さんに確認したんですが、映像作品の上映速度については、特に気をつかったそうですが、そこまで落ち着く空間になったことは、彼女にとっても嬉しい驚きだったようです。
空間を作るという事をいうと、それは建築家の仕事のように思われますが、そしてもちろん、どういう風に家の中の空気を流すか、光をどう取り込むか、部屋や空間の配置をどうするかといったことは建築家の仕事だと思います。只、1つの空間を機能的なもの以上にする上で、美術家の力って大きいのだなということをこの「窓月の間」を作ってもらって強く感じたのでした。コロナ禍で在宅で仕事をする機会が増えた今、自分の家の中にこのように落ち着く空間があることは、心を整えるのにとても役立っています。(今は、誰かを招待することもできないので、時々瞑想したり、何か考え事をする時にこの部屋を使っています。)美術家と建築家が上手く協働することが増えればいいなと強く思いました。
*彼女のインタビューは、YouTube (ダイジェスト版)とVimeo(完全版)で公開しています。完全版は、有料設定ですが、これはアーティストへの支援とサイト運用費用として折半します。
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