見出し画像

内藤礼展で思う、現代アートの鑑賞体験とは

東京国立博物館で開催されている内藤礼展『生まれておいで 生きておいで』を観て来ました。最近観た展覧会の体験としてはちょっと独特でしたので、その感想をまとめてみました。

展覧会場は、大きく2つあり平成館企画展示室、本館特別5室、そしておまけ的な展示が本館1階ラウンジにありました。メインの2会場はどちらの空間も1つ1つの作品から受ける印象はそんなに強くないというか、さらっと見て通り過ぎればあっという間に鑑賞し終えてしまう感じでした。

空間を改めて感じてみるということ

何回か空間をうろうろしてようやく、それぞれの空間の仕掛けの意味がわかってきたように感じました。それが平成館企画展示室の場合は、展示空間にずっと伸びている長い椅子であり、本館特別5室の場合は、座と呼ばれている座ることのできる場所でした。

平成館企画展示室は入って右側に陳列ケースがあり、その前を展示物を見るような作りですが、今回の展示では陳列ケースの中にあるのはポツポツと置かれた展示でこれがメインの展示物というより、閉ざされた空間全体が1つの癒しのための空間となっているようでした。それを感じるためには長い椅子にゆっくりと腰をかけ、上から吊るされた色々なカラフルな毛糸の球を眺めたり、陳列ケースの中を眺めたり、空間全体を感じることがこの空間での正しい過ごし方なのかなと勝手に思ったりしました。わりと観賞されている人が少しの滞在時間で次の展示に向かわれていたのがもったいないなと思いました。

見えなかったものが見えてくる瞬間

もう一つの本館特別5室の展示は、先程の平成館企画展示室よりずっと広々とした空間で、その地面にポンポンと置かれたケースに入った東京国立博物館の収蔵物(ケース自体も内藤礼さんの作品でした)とそのケースの上や周りに置かれた作品を鑑賞したり、左右の壁面に飾られた日々のドローイングを眺めたりして楽しんでいました。しばらくしてふと真ん中にある座に座れることがわかったので座って何気に上を見上げた時、上から吊るされたガラスビーズがキラキラ光って見え、まるで星を観ているように感じられたのです。その時何か言葉でうまく言い表せないのですが、とても満たされた気分になりました。これが内藤礼さんが意図されていたものかどうかはよくわからないのですが、あの空間にしばらくいて、その後にあの座に座らないとわからなかったことのように思いました。

本当は、別に現代アートの展示でなくともこんな風な体験はできるのかもしれません。それでもそれなりの時間をそこの空間で過ごした後に見えてくるものがあるということを改めて思い起こさせてくれたということは、とても良い体験であり、贅沢な時間の過ごし方だったなと思えました。

いいなと思ったら応援しよう!