おひとりさま天国について考えるー乃木坂46の今ー
乃木坂46の33枚目シングル、センターは5期生の井上和。曲名は「おひとりさま天国」。今回はこの曲を現在の乃木坂46の状況と紐づけて考察する。
※現在の乃木坂46の状況というのは極めて個人的な偏った見方によるものです。
※考察という名のほぼこじつけです。
まず、歌詞について
はっきり言って中身は全くない。全くないといったら言い過ぎかもしれないが、おひとりさま最高!という意味以上のものはない。歌詞にほぼ意味は無く、メロディのキャッチーさと力強さ、その場のノリと勢いで乗り切る曲だ。
ただ今回はこの曲がなぜ乃木坂に与えられたのか、この曲が乃木坂においてどんな意味を成すのかについて考えたい。
前述の通り、この曲は一人・孤独を肯定する曲であり、これまで(厳密に言えば5th「君の名は希望」〜23rd「Sing Out!」まで)乃木坂が歌ってきた孤独からの脱却、人との繋がり、他人への愛というテーマとは真逆だ。つまり、"乃木坂らしさ"に反している。
※唯一、齋藤飛鳥センターの21st「ジコチューでいこう!」はこの曲のテーマと通じている。
では、なぜこれほどまでに乃木坂らしさとは真逆の曲がこのタイミングで乃木坂に与えられたのか。それは、今の乃木坂が過去の乃木坂からかけ離れた状況になっているからではないだろうか。今年、秋元真夏、鈴木絢音の卒業をもって1期生・2期生がいなくなり、5月の齋藤飛鳥卒業コンサートをもって完全に1期生(2期生)のいない3期生・4期生・5期生の乃木坂になった。そして精神的支柱が去ったことでグループは一気に不安定になった。32nd「人は夢を二度見る」活動期間からも分かる通り、各メンバーが外仕事で素晴らしい活躍をするも、それがグループの勢いに上手く還元されない、グループとしての一体感が無い"バラバラ"の状態になってしまった。それはファンも同じだ。これまでファンの間には何となく「1期生信仰」「1期生絶対主義」の空気があり、後輩期のファンはそれに不満を募らせながらも、それによってファンの秩序が保たれてきた。しかし1期生全員卒業によってその秩序が消え、掲示板等でのメンバーの序列に関する言い争いが激化し、上手く波に乗らないグループへの不満からか、特定メンバーへの罵倒雑言も相次いだ。
こうしたメンバー、ファンともにグループを軽視し(ているように見え)、自分又は自分の推しのことしか考えていない(ように見える)、"バラバラ"の現状を皮肉って"おひとりさま"というテーマに秋元康はしたのではなかろうか。(しかし、この現状の原因の一つは秋元康にある)
また"天国"という言葉には理想郷という意味がある一方、あの世という意味もある。よく曲を聴いてみると、主人公「私」は本当に一人が良いと思っているというよりも何か強がってるような、また自暴自棄になっているような気がしなくもない。もうこんな世の中どうでもいい、だからもう希望を持たず一人で生きようという世の中への絶望、諦念が歌詞の根底にあるのではないか。
(実はこの諦念というのは乃木坂らしさの一つである。)
掛橋沙耶香、林瑠奈、岡本姫奈など相次ぐメンバーの休業に加え、演出家のパワハラ告発、その告発した早川聖来の卒業、4期生の終焉。
一部のファンは運営に不信感を持つようになり、これらによってこれまで積み上げた乃木坂は理想郷というイメージは崩れてしまった。
この曲の主人公は、こうした絶望に包まれた世界は変えることはできないと悟り、ならばせめて明るく振る舞おうとしているのかもしれない。
最後に、なぜこの曲のセンターが井上和なのか。一つは5期生だからである。加入当初、騒動によって5期生=中西アルノはファンの大きな反発を招いた。中西アルノがセンターを務めた5期生最初の表題センター曲「Actually…」では、この世界=乃木坂の美しさと醜さを歌い、中西アルノverMV内のドラマでは、山下美月はアルノのことをみんなの間に取り返しのつかない亀裂を走らせる可能性がある存在だと言い、ダンスシーンは崩壊した古代遺跡のような建物の中でを行われた。これによって中西アルノ=5期生はこれまでの乃木坂を壊す新世代として認識されるようになった。そんな5期生だからこそこの乃木坂らしさとは真逆の曲を与えられたのではないだろうか。
2つ目は勿論、井上和の5期生曲初センターが「"絶望"の一秒前」であったからである。
実際、5期生は加入してからそのポテンシャルの高さを発揮し、多くの新規ファンを乃木坂に呼び込み、既に乃木坂にとって欠かせない存在になっている。そしてその筆頭格が井上和であり、18歳でありながらも同業者からは多大な期待が寄せられ、ファンからは希望の存在とされている。
しかし、そうして注目を浴びせられる存在である以上、外部からの批判も受けやすくなるだろう。本来、彼女が受けなくていいグループに対する批判も受けてしまう可能性がある。
ただ、「絶望の一秒前」「おひとりさま天国」のセンターでのパフォーマンスを見る限り、表現の振り幅、表情の強さには目を見張るものがあり、間違いなく、今後乃木坂46を一つ上のステージに上げてくれる存在であろう。
期待も不安も、絶望も希望も、その全てを背負って井上和は乃木坂のセンターに立つ。
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