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『もじ部』刊行記念トーク「機械彫刻用標準書体の原図を見ながらあれこれ話そう」①
『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)刊行記念・鳥海 修さん(字游工房・書体設計士) × 小宮山 博史さん(書体史研究者)× 川名潤さん(グラフィックデザイナー)トークイベント「機械彫刻用標準書体の原図を見ながらあれこれ話そう――駅の案内表示板でよく見るかわいい丸ゴシック体の謎に迫る」が2016年2月16日(火)、青山ブックセンター本店で開催されました。
ニッチなテーマにもかかわらず110名の会場が満席になり、登壇者自身も驚いたという熱いイベントの様子を、当日の聞き手も務めた著者の雪 朱里が全3回でレポートします。
(文:雪 朱里/撮影:type.center)
※本記事は、『もじ部』刊行時に開催されたトークのレポート記事の再録です。肩書や情報は当時のままです。
●機械彫刻用標準書体とは?
「機械彫刻」とは、回転する刃物を備えた彫刻盤を用いて、アクリルやプラスチック、金属などの材料に文字を彫刻することで、「工業彫刻」ともいわれます。「機械彫刻用標準書体」とは、彫刻盤によって文字を小型に彫刻するときの標準書体のことで、主に汎用平面彫刻機という機械を用いて彫られます。通産省(当時)管轄の工業技術院を中心に、機械彫刻業界のメンバーや書体デザイナーで構成された原案作成委員会により、1969~1984年にかけて、JIS規格で定められました。
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「もじ部」はもともと雑誌『デザインのひきだし』(グラフィック社)の連載で、毎回、書体デザイナーを部長に招き、一般から募集した部員たちと一緒に、書体デザインの背景やコンセプト、書体を見る目をつけるコツなどについてざっくばらんにお話を聞くという企画でした。今回、なぜ書籍『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ(以下、もじ部)』刊行記念トークイベントで、この書体をテーマにしたのでしょうか。
それは、書籍化にあたっての新規書き下ろし記事として、機械彫刻用標準書体の制作背景や、それがだれによってどのようにつくられたのかなどの“制作の謎”にせまるレポートを掲載したからなのです。そしてその取材で、これまで数十年間埋もれたままになっていた原図(途中段階のもの)を発掘しました。本イベントは、この原図を書体デザイナーやグラフィックデザイナーのゲストと一緒に見ながら、気がついたことを話そうという趣旨で行なわれました。
まずは機械彫刻の文字にはどんなものがあるのだろう? ということから。一番見つけやすいのは駅の構内です。
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![](https://assets.st-note.com/img/1738817724-bNkPfs8octgZ2qHBXSEKrVmW.jpg?width=1200)
それ以外にも、街のいろいろなところで見つけることができます。たとえばこれは、映画館で見つけた機械彫刻の文字です。
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鳥海「なんでこれ、〈回〉の中の口が左に寄っちゃってるの……。奥行きがあるじゃない」
雪「遠近感が生まれていますね(笑)」
![](https://assets.st-note.com/img/1738817793-Yc8ZyzqRslJLpErvXOThVmBN.jpg?width=1200)
鳥海「〈上〉の一画目をちょっと斜めにしてるの、いいですねえ」
これらの写真のなかには、JIS規格の標準書体に忠実に彫刻された文字から、微妙に、あるいはまったく形の違うものまでが含まれています。標準書体という存在はあっても、機械彫刻の文字の世界はとても自由に見えるのです。
川名「文句のつけようのない仕上がりというのが、ひとつも出てこないですね。これだけバラバラだから、街で見かけていたときは、そもそもこの書体に名前があることを知らなかったんですよね」
鳥海「源ノ角ゴシックみたいなものなのかな」
川名「オープンソースみたいな」
雪「アレンジOK、と」
川名「でも、JISの規格票に記載されているルール自体はガチガチですよね」
JIS規格票には細かなルールが設けられている一方で、微妙な点画の違いは許容範囲とするとも書かれています。しかし実際に街なかで見る文字は、許容範囲内とは思えないものもたくさんある。標準書体は絶対に使わなくてはいけないという縛りのあるものではなかったことと、標準書体を使用している機械彫刻の会社でも、原版* は各社でつくるから微妙に違ってくるということが考えられます。『もじ部』の取材で、原版を作成するとき、原版用書体はJIS規格票を目で見ながら写していたというお話があったのです。
*文字を彫刻するときに用いる型。文字部分が凹んでおり、それをなぞると、パンタグラフでカッターに動きが伝わって、被彫刻材に彫刻されるというしくみ
●『もじ部』の取材で見つけた原図って?
今回の取材で発掘した原図には、4種類がありました。さらに、最終的な完成形として発表されたものとしては、漢字は2種類あります(ひらがな、カタカナ、アラビア数字・アルファベットは1970年代に発表された1種類のみ)
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①太いペンで仕上げられた原図
②鉛筆書きの原図
③青焼き(赤字入り)
④トレーシングペーパーにペンで墨入れされた原図
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⑤JIS規格票「機械彫刻用標準書体(当用漢字)」1969年
⑥JIS規格票「機械彫刻用標準書体(常用漢字)」1984年
※常用漢字で追加された95字と、1969年の規格票では略字になっていた文字を修整。その他の文字は1969年から変更なし。
このうちおそらく①②は東京機械工業彫刻協同組合の「字体博士」と呼ばれていた星野清氏が書いたもの。そして③④については、書体史研究者の佐藤敬之輔氏のもと、佐藤タイポグラフィ研究所のスタッフだった池田誠氏が書いたものと推測されます。③④については、まず④トレーシングペーパーに墨入れし、③青焼きをとって東京機械彫刻協同組合の星野清氏、保坂房治氏、仲田義文氏の3人がチェックして赤字を入れ、④にホワイトを入れて修整されています。
ただし④までは略字の原図はなく、また、完成形として発表された⑤とは、字の形が大きく変わっているのです。この間にどのようなやりとりがあったのか、その空白を埋める資料は今回見つかっていませんが、文字がよりシンプルな線で、彫刻の作業効率の上がる形になるよう修整が入ったようです。
(つづく)
※初出:type.center
◆次回は、小宮山博史さんが持ってきてくださった、貴重な資料をお見せします! 機械彫刻書体の作者の一人、星野清氏の書体見本帳です。
<書籍情報>
パソコンに入っているあのフォントも、普段目にするこの文字も、必ずだれかがデザインしている。人気書体デザイナーに聞いたフォントデザイン・設計秘話、フォントをよりうまく使いこなすヒントが満載!
【本誌に登場する書体デザイナー、グラフィックデザイナー】
登場しているのは、書体デザインの第一線で活躍するデザイナーや、レジェンドたち。
鳥海 修(字游工房)、高田裕美(タイプバンク)、モリサワ文研、藤田重信(フォントワークス)、竹下直幸、小林章(モノタイプ)、鈴木功(タイププロジェクト)、小塚昌彦、マシュー・カーター、大曲都市(モノタイプ)、イワタ+橋本和夫、西塚涼子+服部正貴(アドビ システムズ)、赤松陽構造(映画タイトルデザイン)、typeKIDS+今田欣一、小宮山博史(佐藤タイポグラフィ研究所)、祖父江慎(コズフィッシュ)
※肩書は取材当時のものです。
書名:もじ部 書体デザイナーに聞く デザインの背景・フォント選びと使い方のコツ
編著:雪朱里+グラフィック社編集部
発売日:2015年12月
ISBN:978-4-7661-2858-1
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